矢印アイコン

PAGE TOP

  • 図書館

別府市民の「よりどころ」を目指して

別府市立図書館

話し手(右から)
河野 聡子さん(別府市立図書館)
西澤 和江さん(別府市立図書館 館長)
大田 海さん (別府市立図書館)


聞き手
堀川 昭裕 (金剛株式会社 九州支店)
三木 すずか(金剛株式会社 価値共創本部 DX共創グループ)

    
※所属・役職は取材当時のものです

別府市立図書館 外観
別府市立図書館外観(撮影:コピスト 吉村 昌也)
話し手の皆様
こもれびパークの開館記念として、絵本作家ユニット ザ・キャビンカンパニーさんより贈呈された「こもれびの子」と一緒に

2026年3月28日、別府市立図書館は千代町から別府公園のかたわらへ移り、共創交流拠点「こもれびパーク」として開館しました。
理念は「ひとりひとりの暮らしと創造のよりどころへ」。館内は3つの「コモンズ」で構成されています。人と人が出会い、交流するアクティブコモンズ。館の中央にあり、対話をしながら学べるラーニングコモンズ。そして、創作と発表の場となるクリエイティブコモンズ。手に取れる本も大きく増え、開館から5か月で27万人を超える方が訪れています。本を借りて帰る場所から、一日過ごすことができる場所へ。新しい使い方へ向けた取り組みを伺いました。

移転前、千代町の旧館ではどのような課題を抱えていらっしゃいましたか。

 ハード面の課題が大きかったです。現在と比べると、とてもこぢんまりとした図書館でした。通路が狭く、滞在して利用するというよりも、短時間で用事を済ませて帰られる方が多かったと思います。館内の資料をゆったり読める空間やスペースが、ほとんどありませんでした。絵本を置いている部屋も狭く、居心地の良い空間とは言えなかったと思います。
 市役所の支所と、社会教育施設との併設だったので、利用が重なると駐車場の台数が不足することもありました。別府は坂の多い街で車の利用が多いので、リピートにつながりにくいところがありました。

移転に伴い、手に取れる本の数も大きく増えたと伺いました。

 移転後の収容可能な冊数は32万冊です。旧館の開架は10万冊ほどでしたが、こちらは2階※だけで15万冊収容できます。3階にも開架があるので、かなりの本を直接手に取れる環境になっています。座席数も、旧館の約3倍になります。
 あわせて、開館時間も変わりました。平日は10時から21時、土日祝日は9時から18時です。以前は平日19時までだったため、移転にあたって、働かれている方にも利用を広げていきたいという考えがありました。以前の開館時間では、仕事帰りに自宅で一息ついてから再度足を運ぶような使い方は難しかったと思います。
 開館時間を延長したことで、実際に夜間に利用される方も増加しました。3階の調査閲覧の半個室ブース席では、本を読まれる方だけでなく、パソコンやタブレットで作業をされている方もお見かけします。

※1階にはカフェと雑誌コーナー、2階には一般図書や児童書、3階には公開書庫と調査閲覧ブースを配置。開架書架の多くは2階に集約されています。

移転後、利用者層や館内の雰囲気は変わりましたか。

 本当に変わりました。年代が幅広くなりました。旧館では「母親と子ども」「ご夫婦」といった特定の組み合わせが多かったのですが、現在は友人同士やご家族揃ってなど、さまざまな組み合わせでお越しいただく方が増えた印象です。市内に住む外国人の方の利用も増え、今では毎日のように姿をお見かけします。以前は決まった日に来られる固定の利用者という印象でしたが、今は立ち寄っただけという方も含めて、実に多様な方々に利用していただけるようになりました。また、「駐車場が少なくて利用しにくい」とのお声もありましたが、駐車スペースの拡充に伴い、リピートして訪れてくださる利用者の方も増えました。気候の良い時期には、隣接する別府公園の散歩ついでにご利用いただく機会も増えています。週末になると座席は満席となり、書架の脇にあるスツールで読書を楽しむ方の姿も見受けられるほどです。
 児童書コーナーでは、お兄ちゃんが妹に絵本を読んであげたり、ご家族で読み聞かせをされている姿が見られるようになりました。旧館にはおはなしの部屋がなく、子ども専用のスペースは2、3家族入るといっぱいになっていました。今は空間が広くなった分、使い方の幅が広がっています。また、単に本を借りて帰る場所にとどまらず、館内で気になった本をゆったりと楽しむ時間を持っていただけるようになった点も大きな変化です。ご家庭では親が本を選ぶことも多いかと思いますが、ここでは子どもたちが自分の意思で自由に選べます。自然と興味や関心が広がっていく環境になったと感じています。

絵本を選ぶ子ども
靴を脱いでくつろぎながら、自由に本を選べる

会話のできるエリアと、静かに過ごす場所は、どのように両立させていますか。

 2階中央から奥に行くごとに、少しずつ静寂を感じるというつくりです。同フロアの地域・郷土資料コーナーの周辺は少し区切られた空間になっているので、より静かに過ごすことができます。3階も、落ち着いて資料に向き合っていただける場所です。旧館には会話のできるエリアがなく、壁で仕切られた空間で静かに過ごすのが一般的でした。そのため、以前から利用されている方は当初少し戸惑われたかもしれません。館内には静かな場所と会話のできる場所があることをご案内して、それぞれが心地よく過ごせる「自分だけのお気に入りの場所」を見つけていただけるよう、丁寧な説明を重ねてきました。開館から数か月が経ち、音のある空間も、利用者の皆さまの中に少しずつ馴染んできたように感じています。
 また、近隣に中学校・高等学校が多いこともあり、定期試験の時期などには多くの生徒の方々が来館します。賑やかになる時間帯には、静かに過ごしたい方からご意見をいただくこともあります。ただ私たちは、「ひとりひとりのよりどころ」だからこそ、利用する皆さまの関わりによって、この場所が少しずつ形づくられていけばと考えています。公共の場での望ましい過ごし方を子どもたち自身にも意識してもらい、誰もが心地よく過ごせる空間を一緒につくっていくことを大切にしています。そうした考えから、館として「こうしてください」と指示するのではなく、テーブルには「自分たちを少し振り返って、周りの方の迷惑になっていないかを考えてみよう」といった趣旨のサインを設置しています。
 公共の場でどう過ごしたらよいのかを、一人ひとりが考えて行動すること。こうした経験の積み重ねが、子どもたちのこれからや、次の世代の利用者にもつながっていく。すぐに答えが出るものではありませんが、そうした一人ひとりの積み重ねも含めて、この図書館らしさになっていけばと思っています。

2階フロア奥の地域・郷土資料が並ぶ「静かな部屋」

主催されるイベントや講座も増えたそうですね。

 ラーニングコモンズなどが使えるため、多様なイベントを開けるようになりました。
 以前の図書館ではイベント開催時に別室を借りる必要がありました。また個室での入場制限付き開催が中心で、申し込みを忘れたり参加のハードルが高く感じられたりする面もあったかと思います。
 現在は、仕切りのないオープンな空間で行うため、イベントの様子が自然と目に留まります。特に3階からは吹き抜け越しに、その様子がよく見えます。こうした開放感や一体感は、吹き抜けのある建物ならではの良さだと感じています。

地域・郷土資料館も併設されていますね。

 別府市の観光名所である温泉に関する資料をはじめ、別府のこれまでとこれからを残していく資料館です。別府市は観光の街のため、昔の風景を写した絵はがきが数多く作られていて、そのコレクションも収蔵しています。
 多種多様な絵はがきや写真の中には、砂湯で日本の方だけでなく海外の方も一緒に温泉に入っている白黒写真も残されていて、別府が古くから国際的な場所だったことが感じられると思います。
 「いきてるミュージアム」として、いろいろな人と関わり合いながら成長していく施設です。本と資料の両方から別府を知っていただける場所になればと思っています。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

 掲げた理念の体現という意味では、まずは人と人が出会い交流する「アクティブコモンズ」、会話をしながら学習や調べものができる館中央の「ラーニングコモンズ」、市民の創作活動や発表の場となる「クリエイティブコモンズ」という、3つのコモンズの形を具現化できたことが第一歩だと考えています。「暮らしと創造のよりどころ」という言葉の通り、「創造」には市民の皆さまの活動を応援したいという想いも込められています。
この生まれたばかりの空間を、私たちと市民の皆さまでこれからどう育てていくか。実際に使っていただく中で、少しずつこの図書館らしい形ができていけばと思っています。今はまさに、皆さまと一緒に試行錯誤しながら、歩み始めたところです。
 「ひとりひとりのよりどころになる」というのは、とても大きな目標で、決して簡単なことではありません。それでも、訪れてくださった方が「ここに来てよかった」「自分にとっての“よりどころ”だ」と心から感じてくださる瞬間が少しでも生まれたなら、とても嬉しいです。


(取材日:2026年9月3日)

別府市立図書館

所在地:大分県別府市大字別府字野口原3013-1
TEL:0977-23-2453
開館時間:平日 10:00~21:00
    土日祝日 9:00~18:00
(地域・郷土資料館 10:00~18:00)
休館日:月曜日、第4水曜日(休日にあたる場合は翌平日)、
   12月29日~1月4日、資料整理期間
URL:https://www.city.beppu.oita.jp/library/

別府市立図書館 外観
撮影:コピスト 吉村 昌也