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80年の歴史と未来への調和を追求した知の拠点。学生を誘(いざな)う多彩な空間づくりとこだわり抜いた質感の高い家具。

愛知大学豊橋キャンパス 新棟 Center Bldg.(センタービル)

・話し手
田辺 勝巳さん(愛知大学 豊橋総務課 課長)

・聞き手
中尾 知弘/塚本 嘉洋 (金剛株式会社 名古屋支店)
清田 博之/宮﨑 涼子/山田 ひさ子(金剛株式会社 営業事務局)

※所属・役職は取材当時のものです。

愛知大学が創立80周年記念事業として建設した豊橋キャンパスの新棟「Center Bldg.(センタービル)」(以下「センタービル」)。
約100万冊収蔵の3F Library Floorや2F Work Floorを中心とした個人でもグループでも学習できるエリア、1F Communication Floor などが集結した知と交流の拠点となっています。
この空間設計の裏側には、田辺課長をはじめとするプロジェクトチームの徹底したこだわりがありました。「調和」を細部まで追求した施設づくりの神髄について伺いました。

センタービル建設に向けたインプットの重要性

センタービル建設に向けて全国各地の有名建築や大学等を精力的に視察されていたとのことですが、
「ここだけは見逃さない」という、田辺様独自のチェックポイント(評価軸)はありますでしょうか?

 プロの皆さんと議論の土俵に上がるためには、まずはインプットを増やして勉強するしかないと思い、多くの視察を重ねてきました。元々建築好きなこともあり、全国の大学や図書館、新しいホテルや複合施設を見に行きました。施設づくりは「一発勝負」ですから、できてしまったら引き戻せません。後に「実はこうじゃなかった」という言い訳をしたくないため、自分が腑に落ちるまで、安心材料を取るために足を運びました。情報が溢れ、AIやフェイクがいきかう現代だからこそ、自分の目を信じたかったという思いもあります。
 そこで重視していたのがいかにその場所に「調和」しているかです。単に美しい、新しいということではなく、そこにいる人間がどう見えるか、どう振る舞っているかを注視しました。例えば、ホテルであればオープン5年以内の場所を訪れ、内装やレイアウトなど今の時代が求める「居心地」の解像度を上げていました。トレンドを見出してその建物の真意をつかむ、そしてそれをどう戦略立てていけば学内の承認を得られるか、ということを意識していました。

ショールームへ足を運び、家具の座り心地を自ら確認される際の「譲れない一線」とは何でしょうか?
特に学生の利用シーンをどう具体的にイメージされていましたでしょうか?

 センタービルには予算内におさまる多種多様な家具を納入し、学生を本があるところに誘う(場所がよかったら良い本に誘うことができる)というイメージをもって作り上げました。異なるメーカーを使い分けることで、空間にリズムを生むことができます。ネームバリューがある有名ブランドだから選ぶのではなく、実際に座って、学生がそこでどんな表情で過ごすか、いかに勉学に集中できるかを意識していました。また場所によっては照明をあえて抑え、テーブルの反射で温かさを出すことも意識しました。今の若者は、インフレによる経済的な厳しさから、消費に対してシビアです。同時にAIの普及によって、デジタルでは代替できない「リアルな空間」の価値を再認識し始めています。だからこそ、贅沢品よりも「住まいや身近な空間」の質を重視する傾向が強まっています。
 大学で「本物」の家具に触れる体験は、彼らが将来社会に出た時や家庭を持った時の豊かさの基準にもなると考えます。だからこそ、妥協をせず、コンセプトに合った空間づくりに向けて設計・営業担当者と本音でぶつかりました。
 大学の建物は50年スパンで利用されます。設備の入れ替えや塗装のスパン、家具の減価償却を何年でみるかなどは大学経営にとって重要です。言い換えれば、少し高価でも長く使えるならばそれは安い買い物と言えます。センタービルは特に内装と家具の木製部分、1階足下の焼き物タイルには本物にこだわりました。20年後、30年後に評価がなされれば嬉しさは倍増ですね。

キーワードは「調和」。センタービル完成までの舞台裏とこだわり

センタービル完成に至るまで様々な問題やご苦労があったと思いますが、ここまでエネルギーを注ぎ込める最大の動機は何ですか?

 「創立50周年以降、名古屋キャンパスへの対応が主となり、整備がなされてこなかった豊橋キャンパスを復活させたい」、「学生が成長でき、自然と集まりたくなるキャンパスを創造したい」という思いからです。
 新卒で採用されてから37年間、10部署にて色々な経験をしてきましたが、私にとってこれまでの経験や思いを形にする最大の機会となりました。少子化や保守的な風土の中で、大学が衰退していくのを黙って見てはいられません。たまたま巡り合わせで担当になった以上、先代からのバトンを引き継ぎ、絶対にいいものを作りたいという思いがありました。
 学生にとって大学生活は4年間しかありません。コロナ禍でキャンパスに通えない時期には、新棟だけでなく他の施設の改修にも力を注ぎ、長期休暇明けなど学生がキャンパスに帰ってくるたびに驚いてもらうことで、不満をためない施設整備を進めてきました。

旧校舎の机や伐採木を再利用した家具等もあるとのことですが、手間やコストがかかるそれらを採用することで、
新しいセンタービルにどのような「魂」を宿したかったのでしょうか?

 「真似のできない、本学ならではのオリジナルキャンパスの創造を目指したい」という思いから熟考しました。現代では「安価なものを購入し、短期間で処分する」といったサイクルが当たり前となっていますが、「長く使うことができる本物に触れる」という経験を提供することは高等教育機関にとって大切なことだと考えます。30年、50年先と時を重ねるほどに風合いが増し、歴史も感じられる建物としたい思いがありました。
 木というのは、本当にすごいんです。例えば奈良の大仏とか法隆寺の五重塔などは、千何百年もの間、あの木がそのまま使われています。そういう文化こそ、もっと日本人が感じないといけないことだと私は思います。今回、キャンパスに木を多く使ったのも、単なる温もりだけでなく、日本の伝統文化を肌で感じ、『なぜだろう』と興味を持つきっかけにしてほしかったからです。自然に目を向けたり、『木って大事だよね』と日本の文化を身近に感じたりすることは、学生にとってすごく大事なことだと思います。豊橋キャンパスで過ごした記憶が、彼らが将来生きていく上での「幸せを感じる1ページ」になってほしい、それが私の思いです。

 家具、開架書庫を作成するにあたり、良い材料を利用して製作するとコストがかかります。①コストを抑えつつ品質を担保するにはどうするべきか、②良い材料はどこにあるのか、③大量生産によりコストダウンはできないか、等検討しました。本学に元々あったものであれば、材料は無料で加工代のみとなり、コストアップを避けることができます。そしてレガシーを継承し、旧校舎と新校舎を繋ぐことになります。センタービルは、大教室、大空間が中心となっていることから、単調にならないよう多種多様な家具を配置しながらも、全体が美しく調和する、絶妙なバランスの空間を目指して検討を重ねました。
 そして、家具業界の多くの方々の中には、本気度の高い方々がお見えになり共感して頂きつつ、コスト面でも大いに協力をしていただきました。安価で質の良いもの、家庭用のものもセレクトし、コストダウンをはかりました。「建物空間×家具」による空間づくりは無限ですが、「調和」させることには本当に苦慮しました。

・昭和時代に家庭でよく利用されていた古いちゃぶ台(アフリカ産ブビンガ材、2017年から輸入禁止)5台を
つなぎアップサイクルした10人用テーブルと、サントリーウイスキー樽を利用した椅子
・化粧壁は59年利用し解体した3号館 320,321教室の後ろ壁の化粧材(ラワン材)の再利用
・59年利用し解体した3号館教室の机板材(ナラ材)の表面と端を削り、アップサイクルにて利用

コスト削減やデザインの細部といった極めて緻密な判断をされていたと思いますが、そこにポジティブな影響を与えた源泉になっているものはありますか?

 ポジティブな思考は、80年前の創立時戦後翌年の1946年に入学された第1期生の大先輩で、モンゴル大使、ルーマニア大使を歴任された小崎昌業まさなり氏に創立時のことを直接伺ったこと、80年間続いたバトンを今回たまたま私が引き継いだこと、多くの部署を経験しその中で日本全国、イギリスやアメリカ、オーストラリアや中国を訪問し様々な大学のほか、関係者と出会えたことが大きく影響していると思います。
 創立50年から80年の時代背景は、トヨタ、ホンダ、スズキという大企業があるこの地域にいれば、幸せに安定した生活ができるとされていました。しかし時代の変遷によりいつまでこれが続くのか、人口減少のなかで大学運営はどうなるのかは不明瞭です。このような大きな命題を抱えた上での施設整備事業であることにプレッシャーを感じていました。
 研究支援課長のときに文科省の競争的資金を何度も申請し、国が目指す高等教育について垣間見れたことも大きいです。総務課では修繕等工事も並行しておりましたので、トライ&エラーをしながら経験を積んできました。常にランニングコスト削減を検討しながらイニシャルコストのコストパフォーマンスを考えつつ対応するようにしておりました。

Library Floorに納入されたガルバリウムパネルの移動棚について

外壁のガルバリウムを移動棚(室内什器)に利用する判断は、単なるコスト削減を超えた「建築の一体感」を狙ったものでしょうか?
その意図を教えてください。

 ガルバリウム鋼板は30年程色を塗らずに済み、非常に丈夫なため、ランニングコスト削減のために採用にいたった経緯があります。しかしただのコスト削減だけでなく、スタイリッシュな近代的デザインでもあり、温かみのある木製パネル移動棚(同フロアに設置)との対比により別空間を演出したいという思いもありました。
 ビデオ映像による視聴にて、広島市環境局中工場の先にあるふ頭へ向かう工場内の通路を歩く際、外のガルバリウム鋼板が景観として綺麗に見えるデザインとなっていました。そのとき、ガルバリウム鋼板を内装材として利用することも可能ではなかろうか、内外装が一体となった空間デザインもよいのではないかと閃きました。
 色は、117年前に建築された陸軍十五師団の現存する建物「大学記念館」「研究所書庫」のいぶし銀焼き瓦との調和と、大人になり始めた大学生に適合するスモーキーカラーのシルバーを選定しました。

大学記念館

移動棚のパネルに採用されたガルバリウム鋼板(波板)は波の「間隔」にもこだわりがあったと思います。
空間に入った際、視覚的にどのような効果を期待されましたか?

 移動棚の波板の感覚ひとつとっても、それがどう見えるか、どう気持ちが動くかを大事にしました。設計のプロは「建物は強調せず背景であるべき」とおっしゃいますが、私は「その居場所が何か」によって深みが欲しいと思います。同一デザインが50mも続く波板が連動するデザインは、間隔幅により良し悪しが分かれます。左右の端の納め方による連動性もデザインに影響することから、設計担当者とも熱い議論をしました。

同フロアにある再生木材を使用した移動棚は「古さ」を内包しています。
一方でガルバリウムは「新しさ」の象徴です。この異質な素材が共存する空間で、学生に何を感じてほしいとお考えですか?

 「多様性」や「歴史と伝統に向き合い未来に繋いでいく」ことを感じてほしいと思います。整備事業コンセプトに「学生が互いに刺激し合え、多様性を共感できる心地よいキャンパス」とあり、Library Floor は歴史を感じる古い木を使った温かみと、未来を表すガルバリウムのスタイリッシュさが共存する空間にしました。なお、古い木といっても表面を削ることで新品同様に見え、艶もあり落ちついた深みが見てとれます。
 移動棚部分以外でも、1階の113教室、2階の一部において構造壁、構造体が見える場所があったり、リユース家具、国産木製家具、欧州、北欧、東南アジアの家具を揃えており、建物全体で多様なデザインの集合体としています。建物の様々な分野で匠の作品があり、それらの海外製品を容易に購入できることは俯瞰的に見ると日本の素晴らしさだと思います。多様なものがあれば、学生の知的好奇心をくすぐり、喜んでくれるのではないかと考えていました。

外壁のガルバリウム鋼板を室内の移動棚パネルにも採用しデザインの統一感を演出。

「滞在型」は大学図書館の強みか?

近年、公共図書館も「滞在型」へとシフトしていますが、大学施設内の図書館として、公共図書館を意識した点、
あるいは逆に「大学だからこそ差別化した点」はありますでしょうか?

 大学図書館は公共図書館と違い、クライアントがはっきりしています。クライアントである学生が多額の授業料を支払ってくれていることを鑑みると、
①20代の学生が勉学、研究したくなる場所であること
②自由時間に自由に利用したいと思わせるおしゃれで心地よい居場所であること
③「アクティブな学び、交流の場をもつキャンパス」というコンセプトどおり、学生間で刺激し合え、コミュニケーションできる空間であること、を意識しました。

 開架書庫を「本が読みたくなる場所」にするため、高いところから見下ろしたり、光が入る窓を付けたりして、思わず足を運びたくなる「誘う(いざなう)場所」を作りました。移動棚のパネルには図書の表紙見せ展示ができるようにしています。これを見た学生が、スマートフォンで興味のあるニュースが勝手に出てくるような感覚で本を選べるようになると理想ですね。また「滞在型」という概念にこだわるのではなく、キャンパス滞在中に、必要に応じていたくなる場所、目的によってフロアを行き交える空間であるべきと考えています。実際センタービルが完成し見渡してみると、ここだけを取り合うわけではなく、どのタイミングであってもあらゆる場所がセレクトされており、狙い通り学生が喜んでくれている様子が見てとれます。

最後に、センタービルの竣工に際しましては、各分野の担当者の方々に多大なるご協力をいただきました。建設に携わってくださったすべての関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。

まとめ

今回の対談を通じて、センタービルは「学生の感性を磨き、質感と調和を追求した知の拠点」であることが改めてわかりました。
37年のキャリアを注ぎ込んだ田辺様の情熱は、歴史と未来を共存させた「調和」の設計や、家具選定の隅々に宿っています。
この「本物」に触れる空間こそが、学生の多様性を育み、愛知大学の新たな伝統を築く原動力になっていくと感じました。
本日は貴重なお話をいただき、誠にありがとうございました。

(取材日:2026年4月15日)

愛知大学 豊橋キャンパス Center Bldg.
※本名はCenter Bldg. 呼称として「センタービル」


住所:〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町1-1
TEL:0532-47-4111(豊橋キャンパス代表)
URL:https://www.aichi-u.ac.jp/profile/campus/toyohashi

新棟 Center Bldg.(センタービル)について
https://www.aichi-u.ac.jp/toyohashi_mirai/construction

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