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  • 技術ストーリー

免震台その性能と特徴

金剛株式会社 池永 一郎(金剛株式会社 CT本部 CTグリープチームリーダー)

京都国立博物館様 小型免震台

はじめに 

 免震台は、金剛が独自に開発したストレートレール構造を採用した応答性の良い(地震の揺れに対して反応が早い)製品である。「お客様にとって最適な地震対策とは?」「必要な免震台とは何か?」を検討し、極力無駄を排除してシンプルな構造とすることにより免震範囲が広く、免震性能の良いものであると考えた。その開発コンセプトとして

  • 【より広く:広範囲の地震に対応できること】
  • 【より強く:強固な構造であること】
  • 【より確かに:免震性能を充分発揮できる構造であること】

ことを目標に開発を行っている。一口に免震台と言っても市場に出されている免震台を含む免震製品には、一定の評価基準はなく、各社独自の評価を行い提案を行っているのが現状である。今回は、各タイプの市販されている免震台を同じ基準に従って性能評価比較を試みた。これにより得られたデータから各市販免震台の違いを説明する。

免震装置

  地震対策は、「耐震』と「制震」に大別され、「制震」の中に『免震』が含まれる。「耐震」は文字通り地震に耐える構造で、一方「制震」は地震を制御することになる。『免震』は震動を免ずることで、震動から守りたい「もの」と「震動する部分」との間に免震装置を取付ける構造となる。

区 分方 式特 徴検討項目
免震装置滑り支承地震の振動(エネルギー)を「滑り」に変換して減衰する方式。設置摩擦抵抗を限りなく「0」に近づけることにより、免震効果は高くなる。(正比例)積載物の重さにより設置摩擦抵抗が変化するため、積載荷重が免震効果に対して重要となる。
転がり支承地震の振動(エネルギー)を「回転」に変換して減衰する方式。駆動時の変位を限りなく「0」に近づけることにより、免震効果は高くなる。(正比例)静止状態から転がり始め(動き出し)の時間と回転物の追従性が免震効果に対して重要となる。

転がり支承

  市販の免震台や免震床の主流となっているのは転がり支承である。主な転がり支承には、ストレートレール構造、片面円弧状レール構造、両面円弧状レール構造などの免震構造がある。  

構造略図特徴1特徴2
免震装置ストレートレール構造・広範囲地震に対応可
・応答性能が良い
・変位の自由度が高い
・変位に対し最低外寸
・固有周期も変更可
・シンプル構造
・調芯装置が必要
・条件により抵抗装置が必要
・積載荷重対応範囲が狭い
片面円弧状レール構造・調芯装置不要
・積載荷重にはあまり影響されない
・量産化可能
・カバー不要
・軽量
・シンプル構造
・対応地震範囲と固有周期が固定される
・応答変位に限界あり
・外寸が大きくなる
・応答性が悪い
・積載物に合わせた設定不可
両面円弧状レール・調芯装置不要
・積載荷重にはあまり影響されない
・応答変位を短くすることができる
・固有周期が一定
・変位が一定
・対応地震範囲と固有周期が固定される
・縦方向に加速度発生
・機械加工が必要
・積載物に合わせた設定不可

市販製品比較(転がり支承)

  転がり支承免震台の市販製品の中で主な製品を比較すると、免震装置や考え方、製品の狙い、などにより固有の特徴があることが解る。  

項目ストレートレール構造(金剛)両面円弧状レール構造(※1 )片面円弧状レール構造(※2)
構造2層式2次元免震台2層式2次元免震台2層式2次元免震台
外寸400×400×56mm440×440×52mm450×450×60mm
変位量±230mm±195mm±100mm
調芯装置スプリング式調芯機構
固有周期可変一定一定
狙い・コンセプトトータルバランスに優れ、 特に免震性能を重視した免震台トータルバランスの取れた免震台低価格や使い勝手を重視した免震台
免震性能応答性は「極めて良い」と評価。 応答加速度=50gal程度応答性は「良い」と評価。 応答加速度=100gal程度入力変位30mm程度までの地震に対応出来ると評価。変位不足によりストッパーに接触する可能性が大きい。
対応地震「極めて希に発生する地震」まで対応。 短周期地震に対して強い「希に発生する地震」に対して、 性能を発揮する。 長周期地震に対して強い。「一般的に発生する地震」 まで対応と思われる。 地震の変位が大きくなると免震性能を発揮しない。
特性・板金加工製品
・移設用取手はオプション
・レベル調整機能付き
・カバー復旧必須。
・機械加工製品で高級仕上
・ 移設用取手は標準装備
・レベル調整機能なし
・カバー復旧必須
・自重が軽く取扱いが簡単
・移設用取手なし
・レベル調整機能なし
・仕上げカバー兼用
分析項目比較内容説明
免震性能免震範囲、応答加速度などからトータル的に免震性能を評価比較しています。
自由性能免震性能を維持し納入後の積載物に対し、対応許容範囲があるかを評価比較しています。
価 格定価を比較しています。
施工性能納入時の施工容易性を評価比較しています。
復旧性能地震発生後の作業を評価比較しています。
移設性能納入後の移設容易性を評価比較しています。
免震性能データ項目加振試験条件説明
入力波兵庫県南部地震(阪神大震災)実大模擬波・神戸海洋気象台データ(NS)に基づき。
入力方法1次元1方向
試験方法45度加振入力方向に対し、試験体を45度に設置して同時2次元2方向に入力加速度が分力(1/√2)するように加振しました。
積載荷重kg平鋼荷重5本、免震台上均等分散荷重として掛けました。
評価金剛安定した免震性能を発揮しています。応答加速度は50gal 程度と最も優れた応答性能を有しています。最大の変位量で最小の外寸を持っているため免震範囲も広く長周期から短周期、までカバーしています。
これは、免震性能を重視した免震台で「極めて希に発生する地震」に対応できると思われます。
※1安定した免震性能を発揮しています。応答加速度は 100gal 程度であり、金剛製に比べ応答性は劣りますが、逆に積載物を転倒させない加速度までは応答せず転倒が危ぶまれた時点で免震性能を発揮しています。これは有る意味、利に叶った性能であると思われます。
トータル的にバランスの取れた免震台で「希に発生する地震」に対して、優秀な性能を発揮すると思われます。
※2変位量の不足により、ストッパーに接触して応答加速度が大きくなっています。金剛製や※1 に比較して免震性能は劣る免震台で「一般的に発生する地震」震度5弱 ~6弱程度までの短変位地震には対応できると思われます。

まとめ

  これまで説明してきた様に、同じ基本構造の免震台においても免震装置の構造や考え方(コンセプト)、ターゲットユーザーにより、性能重視、使い勝手や手軽さ重視、トータルバランス重視などがあり、性能においては、免震効果範囲重視、短周期重視、長周期重視などと様々な違いが出てくる。従って免震台だからと言って一概に皆同じと言う訳にはいかない。免震台あるいは免震床の導入を計画されているお客様は、貴重なものを地震の震動(エネルギー)から守ることを最低限の前提として計画される訳であるため、我々としては、お客様に本当に必要な性能・機能・運用を充分把握し、最新の情報を発信/提供することで、お客様に、より最適な提案ができる様にサポートしていきたいと考えている。 

納入事例

京都国立博物館様 小型免震台

京都国立博物館様 小型免震台

 大阪市立東洋陶磁美術館様 他

文:池永 一郎(金剛株式会社CT本部 CTグループ) ※所属・部署は取材当時のものです

(2007年)