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本記事は、金剛株式会社が1996年9月30日に発行した機関誌「PASSION Vol.18」の内容を、当時の記録として公開するものです。
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※本システムは既に販売を終了しております。本ページは当時の開発コンセプトや技術的背景を記録として残す目的で公開しています。現行の保存環境構築については、最新のカタログ等をご参照いただくか、弊社までお問い合わせください。
金剛株式会社 調湿プロジェクト
緒言
博物館の建築ブームと呼ばれた1980年代から、各地に多種多様の博物館・美術館・資料館・図書館などが建設され、資料の収集・研究活用など、資料保存に対する意識が急速に拡大されてきた。
又、近年社会的要望の高まりから活用頻度が急激に増加している中、一方では商業の活性化・社会生活の向上に伴う環境汚染は、多くの保存環境にもその影響が懸念されているのも事実である。
特に日本は高温多湿という気象要素を持ち、これが有機質文化財を今日まで残すのに役立ち、一方では5月~10月の6ヶ月間が微生物や虫害などの危険領域に入るという他諸国に比較しても、生物劣化の促進が顕著な環境にある。又、コンクリート素材の建造物の場合一般的に一年中がカビの発生期である事は、衆知の事実である。
今まで、移動棚に湿度調整材を使用した有効な保存環境を作る試みも行われているが、ここでは資料保存の化学的・物理的・生物的影響を考慮した環境システムを考察してみたい。
資料保存の問題点
現在、一般の図書館・資料館等において資料保存環境の改善を目的として、空調機が設置されることは普通になってきているが下記の問題が顕在化してきた。
〈 棚内相対湿度変動 〉
①空調機の多くは、温度の調節のみで相対湿度の面からみれば、急激な湿度変化を作り出していることがある。
②湿度調節機能を備えた空調機でも、室内及び棚内の部位によって、温湿度環境の違いがあり、保存環境条件に差異が生じていることがある。
③実際の場面では、閉館時間後は空調機は止められることが多い。これにより激しい湿度変化の波が加わることとなり、収納物の劣化においても、大きな影響を受けることとなる。
④部位による湿度環境の違いがあり急激な湿度変化により、部位によっては結露の可能性もある。
⑤対流がなく、停滞空気が発生する部位では、収納物に微生物が付着育成する可能性がある。
⑥メンテの状況により、カビの胞子等が空調機の吸気口から内部に入り、湿度の高いプラスチックの部分で最増殖することもある。又、熱交換器のアルミニウムのフィンの部分に塵埃とカビが付着して増殖し再度空気中に胞子が混入して室内に放出される例もある。
資料保存環境の改善を目的として空調機を設置することは重要であり有効であるが、棚内部の保存環境の改善向上がより重要な課題と考えられる。
又、問題点として下記のことも考えられる。
〈資料保存の問題点〉
| 問題点 | 内容 | 備考 |
| 燻蒸剤の全廃 | 現在の燻蒸剤 臭化メチルブロマイド→殺菌剤→酸化エチレン→殺虫剤→ 臭化メチル(86%)+酸化エチレン(14%)=混合剤 | フロンとともに2010年全廃発ガン性・爆発性あり 現在の薬剤に替わる薬がない →薬害が問題となる |
| 防虫菌対策としての薬剤使用 | 書籍保存と展覧を両立させなければならないため、薬害の可能性がある。 | 薬剤は基本的に1種類を使用する。 他の薬剤を併用すると化学変化を起こす可能性がある。 |
| 保存環境維持管理の空気調整機依存過多 | 棚内の部位によって温湿度環境の違いがあり保存環境条件に差異が生じていることがある。 | 棚内部は停滞空気が起こりやすく、湿度差ができ劣化要因を作り出す可能性がある。 |
| 生物被害 | 大半はカビが原因である。 | 防菌剤・殺菌剤は毒性が強く人体に影響し、収納物への薬害の恐れがある。 |
微生物処理に関して
ここで、菌類に関する処理の考え方について整理しておきたい。
この中で特に現場では安全・運営・管理の点で除菌及び静菌を中心に考えた方が現実的であると思われる。
一般的に害虫・菌類を適正な燻蒸剤により駆除し、新たに発生するのを防ぐため防虫・防カビ剤を用いる。資料保存に対し充分な効果を上げるために、これらの薬剤をかなり大量に使用する必要があり、しかも防虫・防カビ剤は長時間残留するものである。薬剤によっては目的の効果以外に保存物の材質を劣化させる薬害を与える危険性があると思われる。
よって薬品等の化学的な処理により滅菌・殺菌を行うより、保存環境の中に入ってきた菌の育成を止め生育時間を延ばす静菌効果、及び菌を除去する除菌効果の考えが自然であり、より保存環境の改善につながるものと考える。
〈 菌類処理概念 〉
| 菌類処理 | 内容 |
| 減菌 | 殺菌の一手法で、薬品・熱等で菌を死滅させること。 菌の存在しない無菌状態にすること。 火炎滅菌・乾燥減菌・蒸気減菌・煮沸減菌等の手法がある。 |
| 殺菌 | 熱や薬品で菌を殺すこと:効力を弱める事:消毒 |
| 除菌 | 物理的手法で菌を除去し滅ぼすこと :濾過除菌等の手法がある。 |
| 静菌 | 菌の育成を止めること:生育時間を延ばすこと |
| 抗菌 | 抗菌物質を使い、菌の増殖を止めるもの。 |
資料保存のための環境対策の原則
| 原則 | 内容 |
| 資料に対して安定な環境を維持する。 | 温湿度の急変を避けること。 特に高湿度は生物劣化(カビ・虫の増殖)の要因となるので、避ける必要がある。 |
| 資料保存湿度はその収納物により設定される。 | 書籍・紙類の保存については、相対湿度50%~60%の範囲内が望ましい。 |
| 汚染物質の除去 | 空気中の汚染物質が収納物に付着すると、生物劣化の要因となっていく。 |
| 資料保存の周辺環境を考慮する。 | ①資料の保存場所 収蔵庫・書庫・会議室・ギャラリー ②保存場所の設定 地下・地上何階 ③保存建物の周辺 山・谷・湖・海 ④保存建物の地域 国・都・道・府・県・郡・町・村 |
| 資料活用条件の把握 | 展示・保管・時期的活用・常時活用 |
| 資料保存管理状況の把握 | 空調設備の有無・空調設備運転期間・保管管理体制。 |
今回、上記環境対策の原則を基本に資料保存に関する問題を移動棚の省スペースという特長を生かしながら、解決もしくは改善・緩和することを検討した。
コンゴーマルチクリーン移動棚の目的及び最適保存環境概念
本システムは、移動棚内部の収納物をより安全に保存するために、棚内を安定した湿度環境に推移させ、汚染物質を充分に除去し清浄な空気環境を合わせて保持し、生物劣化・湿度劣化を顕著に抑制し、より有効な保存環境の創出に寄与することを目的に開発したものである。
移動棚内部の資料保存のための環境改善を目的として、移動棚に湿度調整機を設置し、設定された調湿空気を下部台枠ダクトより放出し、棚内の湿度を均一にするための穏やかな対流を起こし、湿度調整された空気がまんべんなく棚内にいきわたるよう設計した。
更に、棚上部に取り付けられた電子フィルターにより、棚内の粉塵、カビの胞子や細菌等を除去した清浄空気を調湿装置の中に再吸入し、空気循環を繰り返すシステムとなっている。
その相乗効果により、安定した湿度環境を維持し、その調湿機能・対流作用・清浄空気定湿化・静菌効果・劣化遅延効果・濾過機能・除菌効果により上記目的を達するものである。
| 効果 | 内容 |
| 1. 調湿機能 | 収納物の保存環境に合わせた湿度環境を作る。 |
| 2. 対流作用 | 棚内環境を均一にし、菌の付着を防ぐ。 |
| 3. 清浄空気室湿化 | 最適湿度特性、湿度収束特性を持つ。 |
| 4. 静菌効果 | 棚内微生物の生育速度を抑える。 |
| 5. 劣化遅延効果 | 収納物の湿度による劣化速度を抑える。 |
| 6. 濾過機能 | 棚内の塵・微生物等を浄化する。 |
| 7. 除菌効果 | 棚内の微生物を取り除く。 |

システム概要
(1)移動棚上部に設置した電子フィルターは内部に直径3ミクロンのグラスウール繊維のフィルターを持ち、それを静電誘導の原理で静電気を帯びさせる事により、1ミクロン以下の微細な粒子も高効率で捕集する事ができ、風速1m/secで空気が通過する場合の圧力損失がわずか2mmH₂Oという低流風抵抗設計になっている。捕集しきれなかった微細な粒子等を帯電した状態で棚内に戻すという従来までの難点もなく、保存資料に適した棚内の空気清浄を行う性能がある。
(2)電子フィルターにより浄化された空気を調湿装置に取り込み、湿度を調整して、移動棚下部台枠部に取り付けたダクトから、棚内空気よりやや温かい調湿空気として放出させる。この際、資料や展示品等に直接風が当たらない構造になっており、ダクトからの吹出風速も0.5m/sec程度の微弱なものになっている。
(3)上記(1)、(2)を繰り返し循環させることにより、保存環境を良好な状況に推移させそれを維持するものである。


実験結果
| 実験項目 | 実験内容 | 結果 |
| 清浄空気定湿化 確認実験 | 湿度センサーで設定した値にマルチクリーン棚内部が保たれ、また上、中、下段において相対湿度が収束しているか確認する。 | 保存環境を一定の湿度に保つ最適湿度特性(調湿機能)と収束特性を確認でき湿度による劣化、いわゆる「蒸れ」等防止することができた。 |
| 対流作用確認実験 | 棚内部に湿度センサーを設置し、調湿された空気が棚全体に行き渡っているか確認する。 | 対流作用によって棚隅々まで調湿された空気が行き渡り収束特性も確認することができた。 |
| 静菌効果確認実験 | 棚内でのカビの生育状況を確認し評価する。 | 清浄空気定湿化を対流作用の相乗効果による静菌効果を顕著に確認することができた。 |
| 除菌効果確認実験 | 棚内での落下菌数を確認し評価する。 | 対流作用と濾過機能の相乗効果による除菌効果を顕著に確認することができた。 |
(1)清浄空気定湿化確認実験及び対流作用確認実験
①最適湿度特性
マルチクリーン棚と通常棚との比較をすると、通常棚は相対湿度67~78%の範囲で推移し、棚の各部位によって異なっているのに対し、マルチクリーン棚は55~60%の狭い範囲で推移し、棚の各部位の湿度変化も、一定のものとなっていることが確認できる。これにより、収納物に対し最適な湿度環境を棚内に作り出していることが判明し、最適湿度特性が確認された(図1)。

②収束特性
マルチクリーン棚と通常棚との比較をすると通常棚内部、上段、中段、下段ではその設置されている外部環境の影響により、異なった湿度変化をしている。 マルチクリーン棚は、外部環境の影響を抑えながら棚内部、上段、中段、下段をほぼ一定の湿度環境に推移させていることが確認された(図2)。
対流が起こりにくい棚内部隅を測定しても全体の湿度は下がり、湿度変化も一定になっているため、調湿された空気が棚内部隅まで行き渡っていることが確認された(図3)。
以上の結果より、調湿された空気は対流によって棚内部の環境を一定均一にする効果が確認された。


(2)静菌効果確認実験及び除菌効果確認実験
実験条件
本実験は、マルチクリーン設置棚内を結露状態にし、システムにとって、最も過酷な状態で実験を行っている。通常棚は相対湿度45~99%(湿度測定限界以上)と大きな変化を示しているが、マルチクリーン棚はシステム能力の限界に達しながらも65~85%の範囲に収め、湿度変化も少なく収束特性も確認できた(図4)。

静菌効果
前記の実験条件でポテトデキストロース寒天の入ったシャーレ上に濾紙を敷き、濾紙中央部にカビを植え付け落下菌の影響を極力避け、植え付けたカビの生育状況を評価した結果、通常棚では付着しにくい落下菌も生育し、中央に植え付けたカビも生育していることが確認できた。
一方マルチクリーン棚は除菌効果により落下菌も認められず、中央部に植え付けたカビの生育も抑えられていることが判明し、静菌効果が確認できた。
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除菌効果
前記の実験条件でポテトデキストロース寒天の入ったシャーレを棚内に入れ落下菌の数で除菌効果を評価した結果、通常棚は落下菌の数は多くシャーレ全面に生育していることが確認できる。
一方マルチクリーン棚は落下菌の数は少なく生育もしていないところから除菌され、かつ静菌されていることが確認できた。
以上の実験結果から、以下のことが明らかになった。
A. マルチクリーン棚を使用することにより、調湿効果が確認できた。
B. マルチクリーン棚の場合、対流による湿度収束効果が棚内の均一且つ、安定した湿度環境の維持にとって重要であることが確認できた。
C. マルチクリーン棚を使用すると棚内相対湿度を長期的に設定湿度範囲に保ち、静菌効果・劣化遅延効果が確認できた。
D. 電子フィルターを使用することにより、除菌、特にカビの除去に顕著な効果が確認できた。
E. マルチクリーンは、棚内の安定した湿度環境を保持し、汚染物質を充分に除去する相乗効果があり、より有効な保存環境の創出に寄与することが確認できた。
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最後に
KONGOでは移動棚の先駆メーカーとして、保存環境に正面より取組んでまいりました。
今回、東京国立文化財研究所保存科学部名誉研究員 門倉武夫先生・熊本工業大学応用微生物工学科教授 岩原正宜氏の専門分野よりの助言のもと、金剛環境科学実験室に於て、各種実験を実施しデーターを蓄積し開発を進めてまいりました。
本マルチクリーン移動棚は、特に棚内部の保存を中心とした新しいコンセプトを持ち除菌効果・静菌効果・劣化遅延効果の相乗効果をもつ保存環境のための移動棚として開発いたしました。 マルチクリーン移動棚がより有効な保存環境の一助となれば幸いと考えます。
【参考文献】「調湿装置 空気清浄装置付き移動棚の実験的考察」
(1996年9月30日刊行)
