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豪雨の教訓から25年― 都市型浸水への「備え」

清須市 五条川防災センター

話し手 奥村 哲也 さん 清須市 五条川防災センター

聞き手 清田 龍一 (金剛株式会社 営業本部名古屋支店)
    宮﨑 涼子 (金剛株式会社 DX共創G) 

※所属・役職は取材当時のものです。

 愛知県清須市。庄内川、新川、五条川という3つの大きな河川に抱かれたこの地は、古くから水と共に歩んできた街です。しかし、2000年に発生した東海豪雨は、この街に深い爪痕を残しました。河川に挟まれた地理的条件ゆえに、一度浸水が起きれば街は孤立し、物流は寸断される。その教訓を胸に刻み、2024年、新たな防災の要所として誕生したのが「五条川防災センター」です。

 同センターの運用を担う危機管理部の奥村主任に、拠点としての役割と実情、そして限られた空間を最大化する備蓄の知恵について話を伺いました。 

なぜ今、この場所にセンターが必要だったのか

東海豪雨の教訓と「陸の孤島」を防ぐ拠点

 「清須市は庄内川、新川、五条川という3つの大きな川に挟まれています。2000年の東海豪雨の際、このあたりはどこへ行くにも行き来ができない陸の孤島状態になりました。」

奥村主任は、市の記録や先輩職員から受け継いだ当時の状況を説明してくれました。東海豪雨の際、旧清州町役場があったこの周辺は、周囲の道が冠水し、行き来ができない状態になったといいます。
 実は清須市内にはすでに「新川防災センター」が存在していましたが、それは庄内川と新川の間に位置しています。一方で、五条川の西側にあたるこのエリアには、これまで拠点となる施設がありませんでした。 

「川に囲まれたこの地区が孤立した際、支援の起点となる建物がなかった。それが今回、この場所にセンターが作られた大きな理由です。地盤が高く浸水リスクの比較的低いこの場所に、新たなセンターを造りました。
 もちろん、小中学校などの各避難所にも最低限の食料や水などは備蓄していますが、やはりスペースには限りがあります。大きな資機材(救助用ボートなど) や膨大な食料をすべて各校に分散して置いておくのは現実的ではありません。だからこそ、ここを確実な『備蓄拠点』として整備し、いざという時に物資を提供して各避難所で活用してもらう。それが、このセンターがここにある一番の理由です」

五条川防災センターの位置関係

経験のない職員へ教訓を繋ぐ「ハードウェア」

 物理的な「拠点の空白」を埋めると同時に、市にはもう一つの切実な課題もありました。それは、職員の世代交代です。東海豪雨から25年以上が経過し、市役所内でも当時を直接知る職員は少なくなっています。奥村主任自身も「自分も含め、災害経験のない職員が増えていることが課題」だと語ります。

「当時のことを知っている上司も、あと数年で定年を迎えます。大きな災害を直接経験していない私たちが、いざという時に何をすべきか。それを補ってくれるのが、この施設だと思います」

 経験を、誰が担当になっても機能する「施設」という形にして残していく。整然と管理された備蓄倉庫や、機能的な動線は、単なる効率化のためだけではなく、経験のない世代が動くための「ガイド」としての役割も担っています。

防災倉庫

限られた空間で命を守る「備蓄・動線・設備」

多様なニーズに応える備蓄と、無駄のない循環

 センターの1階の防災備蓄倉庫には約4.5万食の食料や資機材が保管されています。食料、毛布、簡易トイレの他ペットケージなどが整然と並んでいます。

「食料については、市民の3割が避難してきた東海豪雨の経験をベースにしています。ただ、備蓄は『置いておけばいい』というものではありません。期限が1ヶ月程度に迫った食料は、啓発も兼ねた防災訓練等での配布、フードバンクへの寄贈など、地域社会の中で無駄なく循環させています。
 備蓄している食料は、炊き出しが必要なものではなく、基本的には『調理不要でそのまま食べられるタイプ』を揃えています。災害が発生した直後は、水や火を確保するのは大変で、何より調理に時間をかける余裕がありません。」
封を開ければすぐに配れて、その場で食べられる。このスピード感が、避難所を支える拠点には不可欠だと感じました。

 また、ペットケージの備えは近年のニーズを反映したもので、アレルギーの問題など、多様な避難者への配慮が、こうしたハード面の整備にも現れています。

空間効率を極める「移動棚」と現場の動線

 今回の施設設計において、課題の一つが「限られたスペースに、いかにして効率よく物資を収めるか」でした。当初は固定棚の設置も検討されましたが、面積が不足していたそうです。移動棚によって備蓄スペースを集約したことで、倉庫内に「余白」が生まれました。

「建物の大きさは変えられません。その限られた中で収納量を計算し、移動棚という選択肢を検討しました。
 実際に現場で感じたのは、空間効率の良さです。棚を寄せてスペースを空けることで、低い車両であれば建物の中まで入ってこられるようになりました。雨の日でも、濡れることなく物資を積み込める。また、棚の背後にも扉を設け、通り抜けができる設計にしています。災害時の混乱の中で、数分の短縮が、現場では重要なものとなります。 」

ライフラインを維持するタフな設備スペック

 五条川防災センターには、災害時に機能を維持するための設備が随所に施されています。

「東日本大震災の際、耐震性の高い中圧ガス管を通じてガスの供給が継続できた実績を踏まえ、このセンターでは中圧ガス管から供給を受ける非常用発電機を導入し非常時に備えています。」

 さらに、NTTと連携した特設公衆電話の設置も行われています。スマホが普及した現代でも、災害時の通信規制下では、優先的に繋がるアナログ回線が命綱になります。

特設公衆電話(とくせつこうしゅうでんわ)とは:地震や台風などの大規模災害時に、被災地での通信手段を確保するため、避難所などに臨時に設置される公衆電話です。通話料は無料で、家族の安否確認などに利用できます。

特設公衆電話:電話機を接続することで通話が可能

日常に溶け込み、未来の備えを支える

平時から市民に「開かれた場所」にする意味

 このセンターがユニークなのは、災害時以外、つまり「平時」の活用方法にあります。通常、防災拠点といえば堅牢で閉ざされたイメージがありますが、五条川防災センターは日常的に市民が訪れる場所となっています。

「2階には研修室や会議室があり、普段は市民の方に貸し出しを行っています。教室や地域の集まりなど、いろいろな用途で使っていただいています。普段からセンターに足を運んでもらうことで、いざという時に迷わずここへ避難してきたり、物資を取りに来たりできるようになる。建物に馴染みを持ってもらうことが、防災に繋がると考えています」

 防災センターを「特別な場所」ではなく、「日常の延長線上にある場所」にすること。 地域の活動の折り自然とリスクに触れられる、この設計こそが、五条川防災センターが目指す「無理のない備え」の形であると感じました。

「自助」を「公助」が後ろから支えるカタチ 

 インタビューの終盤、奥村主任は市民の方々との関係性について、実感を込めて語ってくださいました。
センターには市民向けの備蓄がありますが、それはあくまで緊急時のセーフティーネットであり、普段からの個人の備えが肝心です。センターが備蓄をしていても、それがすべての人に即座に届くわけではありません。まずは各家庭で備えてもらう自助が社会のために必要です。その上で、足りない部分を私たちが支える公助となります。この両輪が回って初めて、街は守られます」

 2階の防災コーナーには、啓発用のハザードマップが掲示され、市民が日常的に「自分の足元のリスク」を確認できるようになっています。

取材を終えて

 清須市での取材を通じて改めて感じたのは、都市型水害は決して他人事ではなく、日本全国どこでも「常に隣り合わせにある危機」だということです。河川に囲まれた地理的条件や、時間の経過とともに被災経験を持つ職員が減っていくという課題は、多くの自治体が共通して抱えているリアルな悩みでもあります。
 「雨の日も物資を濡らさずに積み込めるよう、建屋内に車両スペースを確保する」というお話は、現場の視点そのもので、大変勉強になりました。私たちは単に棚を納めるだけでなく、こうした現場ごとの目的に合った空間を一緒に構築していきたいと考えています。道具の先にある使い勝手や安心を、これからも共に考え、形にするパートナーでありたいと思います。 

写真:五条川は、春になると川沿いに桜が咲き誇る、全国的にも有名な桜の名所です。

(取材日 2026年5月19日)

清須市役所 五条川防災センター
住所:清須市清洲一丁目6番地1
TEL:052-693-5010
FAX:052-693-5020
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