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ENVIRONMENTAL SCIENCE NOW1997 現代生活環境と抗菌

熊本工業大学 応用微生物工学科 教授 岩原 正宜

注意発行当時の記述について

本記事は、金剛株式会社が1997年12月22日に発行した機関誌「PASSION Vol.21」の内容を、当時の記録として公開するものです。

記事内の情報は発行当時のものであり、現在の状況とは異なる場合があります。また、当時の社会情勢や倫理観を反映した表現が含まれている可能性があり、現代の基準に照らし合わせると一部不適切と感じられる箇所もあるかもしれませんが、資料的価値を考慮し、原文のまま掲載しています。

掲載されている商品やサービスは、既に販売・提供を終了している場合があります。現行の製品については、改めて最新のカタログ等をご参照いただくか、弊社までお問い合わせください。


※ 本記事は、著作権法上の引用の範囲内で掲載しています。当時の記録として、皆様に楽しんでいただけましたら幸いです。

熊本工業大学 応用微生物工学科 教授 岩原 正宜

はじめに  

「快適な生活文化・環境の創造」をキーワードに、経済的豊かさから精神的豊かさへと生活意識の変化がもたらされ、生活環境も多様化するようになった。また近年、院内感染の原因菌であるMRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)や病原性大腸菌O-157やサルモネラ菌などの感染症が流行し、有害微生物の抗菌・抗カビ技術のニーズが広がり、急速な進歩を遂げてきた。そのため「抗菌」に対する関心がにわかに高まり、衣食住を初めとする生活関連分野での「抗菌グッズ」の開発や食品工業、電子部品工業、医療産業などの微生物制御技術に至るまで広範囲にわたって抗菌技術が応用されている。

しかし一方では、私達の身体はもちろん生活環境の至る所に微生物は棲息し(表-1,2)、皮膚(表-3)や腸内の常在菌のように、共生というかたちでお互いに恩恵を受けながら生活していることも忘れてはならない。そこで、現代社会における生活環境で、これらの微生物との関わり合いをどのようにし、抗菌技術利用の現状と将来展望について述べてみたい。

微生物汚染・劣化と主な原因菌
表1:微生物汚染・劣化と主な原因菌
器具名一般生菌数/100㎠大腸菌数/100㎠
まな板1.0×10⁴~3.7×10⁷0~6.5×10⁵
ふきん1.1×10⁵~9.5×10⁸2.4×10²~2.2×10⁷
しゃもじ5.3×10³~7.8×10⁷3.6×10~1.1×10⁵
包丁3.5×10³~1.2×10⁷0~1.4×10³
スポンジ9.3×10³~7.7×10⁹0×2.4×10⁹
水切りバット1.8×10⁵~9.7×10⁵4.3×10³~2.4×10⁴
竹ざる3.1×10²~2.0×10⁵2.5×10³~1.4×10⁴
手指3.2×10²~9.2×10⁵3.6×10~1.7×10⁴

表2:調理器具および手の細菌数

部位グラム陽性
球菌※2
グラム陽性
桿菌※3
グラム陰性
桿菌
真菌
(カビ)
わき部6.5×10⁵1.6×10⁷4.5×10²0.07
そけい部4.7×10⁴1.9×10⁶5×100
手指7.7×10⁵8.6×10²0.50.16
足指7.0×10⁵2.2×10⁶2.43.8

表3:微生物が多く生息する人体部と微生物の数(1㎠当たり)※1普通せっけんを使って毎日風呂に入り、風呂後12時間経った時の値、※2ブドウ球菌、※3コリネバクテリウム

なぜ日本人は「抗菌」好きなのか?  

いま「抗菌グッズ」が空前のブームで、市場には数多くの商品群が出回っている(写真-1,2)。実は昭和30年代後半に防菌・防臭加工した靴下や肌着などの繊維製品が売り出されたが、当時は抗菌効果や耐久性の点で消費者の信頼が得られず、定着しなかった。しかし、最近は若者、特にOLを中心とした清潔感にこだわる消費者が増え、身体を清潔に保ち、美しくありたいという願望を満たす為の抗菌や消臭を売り物にする商品が相次いで開発されている。例えば、靴下、肌着、寝具以外にも台所用品、文具、ぬいぐるみ、家電、建材から車のハンドルまで、ありとあらゆる品目の抗菌グッズが販売されており、恐らく1000品目以上にのぼると思われる。  

市場に出まわっている主な抗菌グッズ類
写真1:市場に出まわっている主な抗菌グッズ類

なぜ日本人はこれほどまでも「抗菌」好きなのだろうか? その要因として、まず日本の気候の春から秋にかけての高温多湿が挙げられる。特に、梅雨前後の温度と湿度は、カビや細菌を繁殖させたり食品を腐敗させ、食中毒の原因が日常的にどこにでも存在するという環境で我々は生活している。そのため、古来から健康な生活を営むためにはどうしても「清潔さ」が必須の条件であった。このような生活環境が日本人を清潔好きな国民に育てあげたと考えられる。さらに、昭和40年の高度経済成長期以来、気密性や断熱性が高い住居が次々と建てられ、冷暖房設備が装備されるようになり、一年中が微生物やダニの増殖に適した住環境が形成されるようになった。その結果、カビの胞子やダニの死骸による喘息やアトピーなどのアレルギー性疾患が蔓延するようになった。

銀繊維混紡の不織布(左)とガーゼ(右)
写真2:銀繊維混紡の不織布(左)とガーゼ(右)

一方、感染症の増加も現代社会の変化と無関係ではない。 例えば、①真空パック技術→非常に希な例ではあったが、嫌気性のボツリヌス菌(写真-3)によるレンコン食中毒事件。②コンタクトレンズ→脱着時の角膜の傷から菌が感染し、炎症を起こす。③カラオケのマイク→水痘ウイルス(身体に水泡とかゆみ)。④ペット→ネコの糞(トキソプラズマ感染症:発熱、肺炎、妊婦では流産・死産の危険性)、ハトの糞(クリプトコックス感染症:発熱、嘔吐、頭痛・めまい、時には髄膜炎)、犬・ネコ・ハトなどの糞(キャンピロバクター感染症:公園の砂場の糞から感染、激しい下痢)。⑤24時間風呂→レジオネラ感染症(インフルエンザ様症状、ひどい場合には肺炎)。

ボツリヌス菌
写真3:ボツリヌス菌菌

⑥同一抗生物質の多用・院内感染→MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(写真-4):一般に病原性が低く健康な人では発症しないが、手術後や重症患者のように抵抗力が弱い人が発病し、死亡する場合も多い。いわゆる病院内で感染する代表菌)。⑦冷蔵・冷凍庫の普及→食品の大量買いだめ。低温では微生物が全く増殖しない(表-4)とか、殆ど死んでしまうという誤解があり、食品を冷蔵庫で長期間保存した為に腐敗菌や食中毒菌が増え、それを知らずに食べて発病することがある。

黄色ブドウ球菌
写真4:黄色ブドウ球菌

⑧エアコンの普及→吹き出し口からカビの胞子が部屋中にまき散らされ、喘息や部屋の汚染を引き起こす。⑨調理の集中と均一化→病原性大腸菌O-157の集団感染:地域の学校給食をセンター方式で集中調理するようになり、コストダウンによる経費節減にはなったが、事故が起きれば集団感染につながるという危険性がある。⑩食品流通の国際化と生食の普及→低温輸送システムの普及により、国内外から新鮮な食材や食品が手軽に入手出来るようになり、美味しく食べる為に加熱処理せずに生で食べる機会が増え、食中毒の確率が高くなった。  

種類最低温度最適温度最高温度
低温菌-10°~5℃10°~20℃20°~40℃水生菌、腐敗菌の一部
中温菌10°~15℃25°~40℃40°~50℃糸状菌、酵母、病原菌の大部分
高温菌40°~45℃55°~75℃60°~80℃温泉、堆肥などに生息

表4:微生物の生育と温度

以上のように、現代人の生活環境は各種の微生物で汚染される機会が増えているが、余り神経質になるのも問題がある。
清潔にし過ぎると常在菌が少なくなって、自然のバランスが崩れ、悪玉菌が急激に増えることがあり、かえって危険な場合がある。
とはいえ、不潔にした方が良いと言っているのではなく、普通に清潔にしておれば大丈夫である。しかし、身の周りにいて危害を与える微生物に対する情報や知識は持っておく必要がある。

「抗菌グッズ」の効果と落し穴  

今や3000億円市場に膨れ上がった「抗菌グッズ」市場であるが、果たして抗菌グッズの効果はあるのか?害は無いのか?「抗菌」の定義は?などの疑問があるに違いない。
そこで、その質問に答えてみたいと思う。  

1)「抗菌」とは?  

「抗菌」という用語以外に、「殺菌」、「消毒」、「除菌」、「静菌」、「滅菌」という言葉が使われますので、その定義を述べてみたいと思います。  
滅菌:すべての微生物を死滅または除去すること。
殺菌:病原菌を含めた有害微生物を死滅させること。
消毒:病原性微生物を死滅させること。
除菌:微生物を存在する物より取り除くことで、排除された微生物は生きていることが多い。
静菌:微生物の増殖が阻害された状態。
抗菌:微生物に対して増殖阻害、さらには死滅させること。  

このように、これらの用語は内容的に重複した部分もあり、一般にはなかなか正確に区別しにくいかも知れない。  

2)生活用品に使用される抗菌・抗カビ剤の分類  

①無機系―銀、銅、亜鉛、チタンなどをゼオライト、セラミックス、シリカゲル等に吸着させ、微粉末化したもので、金属イオンが溶出して効果を示すタイプが多い。熱に強く、樹脂などへの練り込みが容易で加工性に優れ、生活用品を中心に製品化が展開されている。抗菌効果は低いが持続性がある。抗菌性砂場や絵の具のように他の材料と混合して使用するものもある。(表-5)

主な無機系抗菌剤
表5:主な無機系抗菌剤

②有機系―500種類程度が用いられているが、汎用されているのは数10種類である。微生物の細胞壁や細胞膜に結合してその機能を攪乱・破壊することにより抗菌性を示す。四級アンモニウム塩のようなアルキル化剤が主流である。水に溶解し易いものが多いので効果は高いが、持続性が低い。

③天然系―安全性と環境に対する配慮から、人に優しい商品への利用が注目されている。カニ・エビの甲殻由来のキトサンはあらゆる分野に利用されているが、最近では、植物起源のものが市場に出ており、和カラシ・ワサビ・ヒバ・孟宗竹などの抽出物やヒノキチオール、また遠赤外線を放出するトルマリン(電気石)のような天然鉱物を利用した製品開発が活発である。  

3)抗菌加工法の種類  

①練り込み法―抗菌剤をプラスチックや合成繊維製品の製造工程で練り込む方法。抗菌剤が溶出しにくいので効果は低いが、長期間効果が持続する。まな板、歯ブラシ、台所用品、抗菌靴下等多数。
②コーティング法―製品の表面に抗菌剤入りの高分子でコーティングする方法。抗菌剤は溶出し易いが、膜に傷がつき易い。

抗菌塗装やヒノキチオールをマイクロカプセルに包括して繊維製品に吸着させたものもある。抗菌肌着・靴下・ふとん等。
③スプレー・含浸法―製品に抗菌剤を染み込ませたり、表面に吹き付ける方法。抗菌効果は高いが、持続性に乏しい。折り紙、ノート、ラベル等が商品化されている。

上記のように、各種抗菌剤と加工法とを組み合わせることにより、多種多様の「抗菌グッズ」が開発できる。最近の傾向として、天然の抗菌剤をマイルドに、長期間効果を持続させる目的で、必要な時に抗菌性が発現する工夫がなされている。例えば、微生物が接触した時に効果が顕著である(無機系・有機系抗菌剤)とか、光が当った時にのみ急激な抗菌性が発揮される塗料や無機化合物(酸化チタン)などがある。また、「抗菌グッズ」の効果については種々の評価があるが、これは試験法や評価法が適切でない場合が多い。しかし、一般には「宣伝されている程は効果が見られない」というのが正直な評価であろう。  

一方、抗菌剤や食品添加物を排除してしまうと、その結果増殖するカビや病原菌の害の方がはるかに恐ろしい場合もある。ただ、抗菌グッズも上手に利用すれば、効果的なものも多いが、「悪玉菌」だけではなく、常在している「善玉菌」まで殺してしまうことも知っておく必要がある。また、気化性ガスを利用して抗菌加工した蒲団やカーペットなどのように表面積の大きい繊維製品では、有害ガスの発生量が多いので、長期間、連続的に使用するものでは健康を害することがあるので注意が必要である。

いずれにしても、抗菌グッズの効果を過信すると「抗菌製品だから安心」と洗浄や洗濯を怠り、逆効果になることが多い。抗菌グッズの使用の有無に拘らず、従来どおり蒲団の日光消毒、まな板の熱湯消毒、手洗い、洗浄、部屋の換気などを実行することを忘れてはいけない(表-6)。つまり、一般の人が普通に生活するうえでは、清潔度も抗菌もほどほどにを心掛けながら、平素から普通の清潔度は保ち、必要な場合に「抗菌剤」を上手に利用することが望ましい。

汚染ふきんの洗浄法と付着細菌数
表6:汚染ふきんの洗浄法と付着細菌数

今後の動向  

「抗菌グッズ」市場は3000億円以上に膨らみ、やや落ち着いたとはいえ、まだまだ増大の傾向にあるが、現在その効果が問われており、淘汰されながら定着してくるものと思われる。今後は、医療や食品製造施設を中心に、一般の日用品のみならず住環境をトータル的に微生物制御システム化する傾向が強くなってくると考えられる。
現在、北里大学では医療用の繊維製品を中心としたトータル抗菌化の研究・開発がなされている。また、東京医科大学でも小児病棟などの建材や周辺用具、事務用品・機器などを含めたトータル抗菌化された病棟に移行している。

さらに、市場規模の大きい分野として建築・建材分野があり、鹿島建設や大成建設などの大手ゼネコンが取り入れ始めている。それ以外の分野では、金剛株式会社と筆者らが開発し抗菌システムを書籍や文化財、標本、光学精密機器などの保管に応用して成功している。このシステムは、微生物増殖の必須条件である「水分、栄養分、温度」のうち「水分」を微生物の生育限界値以下に、連続的にコントロールすると同時に“もとを断つ”という意味で、カビの胞子、微生物、塵埃などを除去・低減する機能を兼備しており、抗菌剤は全く使用されていない。

このように“自然にやさしい環境微生物管理”を実現したシステムとして今後の発展が期待できるが、必要に応じては無機系・天然系の抗菌剤を併用したものも必要になると思われる。
また、人体や繊維製品からの臭いの発生メカニズムに基づいて(図-1)、繊維製品衛生加工協議会が「抗菌・防臭効果などの統一評価基準」を設定し、①抗菌防臭効果、②効果の耐久性、③加工の安全性、の3点について基準をクリアーした製品にSEKマークを付けているが、他の製品でもこのような「統一評価基準」を設ける必要があると思う。

汗をかいた時などの臭いの原因
図1:汗をかいた時などの臭いの原因

引用文献  

  1. 石井泰造:「微生物制御実用事典」(フジ・テクノシステム)  
  2. 内堀毅:「抗菌抗カビ技術と応用」(シーエムシー)  
  3. 高島浩介:「一目でわかる 図説かび検査・操作マニュアル」(フジ・テクノシステム)  
  4. 弓削治:「抗菌・防臭加工の繊維製品」(讀賣新聞・9年4月30日)  
  5. 村尾澤夫、藤井ミチ子、荒井基夫:「くらしと微生物」(培風館)  
  6. 西川勢津子:「住まいと体の“バイキン”退治」(主婦の友社)

(1997年12月22日刊行)