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アートが生まれる場所で、アートを守る。~ TERRADA ART STORAGE 京都 ~

寺田倉庫株式会社

京都市立芸術大学キャンパス(A棟6階)内のアート複合施設:TERRADA ART STUDIO 京都とTERRADA ART STORAGE 京都 

話し手:(右から)
林 愁人さん
(寺田倉庫株式会社 プレミアムストレージグループ ストレージマネジメントチーム チームリーダー)
桐田 麻唯香さん
(寺田倉庫株式会社 プロパティマネジメントグループ コンストラクションマネジメントチーム デザイン担当)
※所属・役職は取材当時のものです。

東京都品川区に本社を構える寺田倉庫株式会社は、1950年の創業以来、保管業を主軸に事業を展開してきました。特に美術品やワインといった専門性の高い物品の保管に強みを持っています。同社は、単に物品を保管するだけではなく、その文化的な価値を次世代に継承することにも力を入れています。
今回は、同社の美術品保管事業の歴史やサービス内容、そして関西初の美術品保管庫「TERRADA ART STORAGE 京都」についてお話を伺いました。

ー1970年代に美術品・貴重品保管事業を開始された経緯についてお聞かせください。

当社は1950年に国の備蓄米の保管指定倉庫としてスタートしました。
そこで培った温度・湿度管理のノウハウを生かし、まだあまり他社が参入していなかったニッチな保管物を取り扱っていく中で、美術品やワインの保管を開始することになりました。

ー美術品保管サービス(TERRADA ART STORAGE)のサービス内容と美術品の保管環境において、特に配慮されている点(温度・湿度管理、セキュリティ、災害対策など)について、お聞かせください。    

当社は、1点ものや個人の私物、貴重品をお預かりすることが多く、美術品のサイズや数、ご利用用途に合わせた部屋の大きさやオプションサービスなど、さまざまなプランを提供しています。

保管庫内は年間を通して、温度20℃±5℃・湿度50%±10%と美術品保管の適正環境を維持しています。また、カードキー認証や監視カメラなどのセキュリティも完備。自然災害対策としては、施設ごとに耐震補強などの対策を行っており、お客様に安心してご利用いただけるように努めています。

美術品の取り扱いについては、2016年にTERRADA ART ASSIST(株)という関連会社を設立し、お預かりしている美術品のコンディションチェックや修復、輸送、展示や梱包、保険といったサービスもワンストップで提供しています。

ー美術品保管サービスの運営において、最新技術(AIやロボットなど)は導入されていますか?

セキュリティ面においては、常に新しい技術やシステム導入も検討はしているものの、自動倉庫のようなオートメーション化については現時点では難しいと判断しています。
特に美術品の場合は、1点1点取り扱い方法が異なるケースが多く、繊細で取り扱いに専門知識が必要となりますので、ロボットではなく、熟練スタッフがしっかりとお客様をサポートする体制をとっています。

その一方で、デジタルとの融合には積極的に取り組んでおり、スマホでコレクションの管理ができたり、サービス依頼をオンラインにて承ることが可能です。

ー昨年8月に開設された、御社にとって関西初の美術品保管庫「TERRADA ART STORAGE 京都」について開設の経緯や目的をお聞かせください。

京都市立芸術大学(京都芸大)のキャンパス内に京都市が設置した『学外連携・政策連携スペース』を民間企業に貸し出すという、公募に選定されました。

京都は芸術大学が多く、文化的・歴史的な都市ということもあり、当社としても以前より注目していたエリアでしたので、この公募は当社にとって絶好の機会でした。ただ、公募条件のひとつとして『学外連携・政策連携スペース』とする条件があり、単なる商業目的ではない外部交流を目的とした公共性が求められていました。

そのため、アーティストたちに制作環境を提供するレンタルアトリエ「TERRADA ART STUDIO 京都」と美術品保管庫「TERRADA ART  STORAGE 京都」、学生たちが交流可能なフリースペースを併設する形で提案をしました。
公共施設の一角に保管庫を設けるというのは、当社としても初めての試みでした。芸術大学という芸術が生まれる場所で、アート制作と保管ができる、大学・市と当社が一体となって芸術を盛り上げる空間になったと思います。

当社は創業以来、東京・天王洲を拠点にしていますが、元々倉庫が中心だった天王洲をアートシティとして活性化させてきました。自社施設の運営だけではなく、天王洲エリア全体をアートで盛り上げる取り組みなどへも参画してきましたので、この実績が今回の成果にも活かされたのだと思っています。

レンタルアトリエ『TERRADA ART STUDIO 京都』

ー「TERRADA ART STORAGE 京都」にて当社製品を導入いただいていますが、導入時に工夫された点、こだわった点、苦労点はありましたか?

お客様の導線や通路を考慮しながらも空間に最大数のロッカーを確保しなければならない中、絵画100号サイズ(1,620×1,303㎜)の美術品をお預かりできることを基準に、設置するロッカーの高さ・奥行・耐荷重を計算し、細かいサイズ調整に注力しました。

ロッカー自体は強固でなければならない上に、作品に合わせて高さ調整ができる棚板を設ける必要がありましたので、設計の段階から何度も打ち合わせを重ねました。また、奥行があるので、収納する作品によっては、ロッカーの中に入る必要があります。奥半分に作品を収納することも想定され、お客様自身でロッカー内を容易にアレンジしていただけるように、長い棚板を1枚ではなく4分割するというアイデアにたどり着きました。

他にも、ロッカーの最下段は温度・湿度環境を考慮して床との間に空間を設け、お客様が乗っても耐えられるように補強しました。また、扉は重厚感を出すために厚みを持たせ、最上段には梱包材や外した棚板を置くスペースを設けました。

最終的には金剛の熊本の工場へお邪魔し、試作品を実際に目で見て触って、確認しながら微調整を行いました。
通常のロッカーの仕様ではなく、TERRADA ART STORAGE 京都ならではの、今までにない保管庫になったと思います。

保管庫内部以外では、大学キャンパス内の施設であることから日常的に学生さんがいるため、セキュリティ問題や週末の出入り、駐車スペースについては大学側と細かくルールを決めました。
開設までに綿密に準備をした甲斐があり、今のところ運営も問題なくロッカーの契約も順調です。

ロッカータイプA 
ロッカータイプB

ー倉庫内のデザイン(空間づくり)において、重視されている点はありますか?

お預かりするのは、単なる「モノ」ではなく、お客様の記憶や想いが宿る大切な存在です。その「お預かりする」という行為に、新たな価値と体験を添える空間をつくりたいと考えています。

「TERRADA ART STORAGE 京都」においては、京都という土地の文化や歴史から着想を得て、当社のコーポレートカラーの一つである「テラダグレー」という、モダンさを表現するグレーをベースに、鳥居をイメージした日本の伝統色でもある朱色を配色しました。

当社では施設ごとにベーステーマを設定してデザインをしています。

お客様は契約された庫内しかご覧になれないので、知ることはできませんが、同じ保管庫でも隣の部屋は全く違うデザインの空間、ということもあります。

テラダグレーを基調に、鳥居の朱を配したTERRADA ART STORAGE 京都の保管庫内。
伝統と革新が融合したデザインになっている。

ー今後の美術品保管サービスにおける市場ニーズや御社の今後の展望をお聞かせください。

先にも申し上げたように、京都は芸術系教育機関が多く存在し、制作場所や作品の保管場所の需要が高まっています。
また近隣に大阪などの大都市もありますので、関西エリアは当社も機会があればこれからも事業を広げていきたいと考えています。 また、日本のアート市場を活性化させる上で、当社が重要な役割と使命を担っていると認識しています。

今後も教育機関・研究機関や地域との連携を強化し、アーティストを支援できる体制を整えていきたいです。

寺田倉庫株式会社G号オフィス

(取材日:2025年5月29日)
取材・文:永沼 麻子 金剛株式会社 管理本部 広報室
※取材当時

寺田倉庫株式会社
G号オフィス:
東京都品川区東品川2-6-10 G号
URL:https://www.terrada.co.jp/ja/