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本記事は、金剛株式会社が1995年08月10日に発行した機関誌「PASSION Vol.17」の内容を、当時の記録として公開するものです。
・ 記事内の情報は発行当時のものであり、現在の状況とは異なる場合があります。また、当時の社会情勢や倫理観を反映した表現が含まれている可能性があり、現代の基準に照らし合わせると一部不適切と感じられる箇所もあるかもしれませんが、資料的価値を考慮し、原文のまま掲載しています。
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※ 本記事は、著作権法上の引用の範囲内で掲載しています。当時の記録として、皆様に楽しんでいただけましたら幸いです。

(左奥より先哲資料館・図書館・公文書館)

中央が「百柱の間」の存在する図書館
大分県立図書館
| 建築名 | 豊の国情報ライブラリー (大分県立図書館・公文書館・先哲史料館) |
| 所在地 | 大分市大字駄原587番地(南王子町2丁目) |
| 設計監理 | 大分県土木建築部建築課 中核施設建設室 株式会社 磯崎 新 アトリエ |
| 施工 | 大林・後藤・森崎共同体 |
| 書架工事 | 金剛株式会社 |
| 敷地面積 | 15,410.15m² |
| 建築面積 | 6,669.24m² |
| 延床面積 | 23,002.22m² |
| 構造 | 鉄骨鉄筋コンクリート(一部鉄筋コンクリート)地下1階、地上6階(図書館部分地上3階) |
| 工期 | 平成4年10月1日~平成6年12月15日 |
| 開館 | 平成7年2月28日 |
| 藏書能力 | 160万冊(開架30万 、公開30万冊。開架100万冊) |
芸術の中の図書館
平成7年2月28日、大分市にオープンした大分県立図書館。公文書館・先哲史料館の2館が併設した複合施設、「豊の国情報ライブラリー」の中心施設である。建築の設計者は、地元、大分県が生んだ世界的建築家・磯崎新氏。入口に足を踏み入れると、宇宙にいるような錯覚を覚える吹き抜け構造のエントランスホール。そして、階段を上れば、「百柱の間」と呼ばれる開架覧室。古代ローマやバビロンにあったものを再現したという。その名の通り百本の柱が寛大な正方形の空間 (1辺68m)に、同間隔(7.5m)で立ち並ぶ。イギリスから運ばれてきた、高くて白い天井は静かな波を思わせる。そして、そこから柔らかい自然の光が床を照らす。そんな芸術ともいえる大分県立図書館が、21世紀へ向けての新しい図書館像として、今、話題となっている。


マルチメディアがもたらす図書館機能
建築というハードのすばらしさに加え、ここ県立図書館は運営・サービスの充実といったソフトの面でも注目されるところである。
特に、今回新しく導入されたコンピュータシステムは、県立図書館としてあらゆる面での機能が発揮されるといえよう。

閲覧席にも用いられているモンローチェアー美しい曲線を描く背もたれと、革張りの座面が、快適さと高級感を感じさせる。

建築と同じ基調の木製パネルで仕切られている。
ネットワークへの期待
県下の市町村図書館とオンラインを結ぶことによって、市町村図書館から県立図書館蔵書の検索、貸出、予約ができるというシステムが取り入れられた。このことで、市町村図書館にとっては、高価な本や利用度の低い本は県立図書館に任せ、地方それぞれの利用度の高い本を集中的に揃えていくということができ、地方なりの図書館づくりができる。また、オンラインによって予約された本は、協力車や郵便で各市町村の図書館へ運ばれてくる為、地方の人が時間と交通費を費やして大分市まで行かなくても県立図書館を利用できるということにもなる。
一方、県下の図書館設置率は低い位置を占めており、図書館振興の動きも高まってきている。そこで、資料の貸与や助言等といった「一村一館」体制への支援にも重点を置いている。現在は、県内4市町の図書館とのオンラインであるが、これを機にネットワークを含めた、大分県内図書館の活性化が期待できるといえよう。
迅速に対応する開かれた図書館
来館した人が利用者用端末機を使って、館内の資料を自由に検索するということが可能となった。これまでのカードによる検索方式と違って迅速に情報を得ることができる。しかもタッチパネル式の端末機(一般資料室4台・子ども 1台・郷土資料室1台)が設置されており、両面に触れるだけで目的の資料が検索できる。もちろん、キーボード入力用の端末機(一般資料室2台)も設置されているが、この使いやすさが開かれた図書館の要素の一つとなっているといえる。この他、CD-ROMの検索も可能となった。
また、このシステムは「豊の国情報ネットワーク」といわれる情報網とも結ばれており、それぞれ家庭にあるパソコンを利用しての図書館蔵書の情報収集も可能となった。目的の本を探してから図書館へ足を運ぶということができるようになったのだ。
検索システムの他にも、館内には、マイクロフィルムの閲覧からプリントアウトまで出来るマイクロリーダー、文字の小さな本でも気楽に読める拡人読書器といったものが情報化といわれる時代にふさわしく調えられている。そして、なんといっても視覚障害者用誘導システム。図書館の入口から対面朗読室までの音声による道案内役である。さらに、対面朗読室には文書朗読システムを設置し、なかなか利用しがたい視覚障害者にとっても安心して利用できる環境となっている。
時代に添う蔵書計画
当館は、160万冊という全国でも有数の収蔵能力をもつ。オープン時の蔵書冊数は約50万冊。うち19万冊が一般資料室に並び、隣接された子ども室に約3万冊、郷土資料室に約2万冊と合計約24万冊(排架能力30万冊)の本がワンフロアーに収蔵されている。
この他にも、新聞約110紙、雜誌約1,900誌、そして約1,000本のLDやCDを誰もが自由に利用できる。情報化社会を迎え、県民の高まる需要に応えるべく、体制が調ったといえる。
そして、オープン後、5ヶ月経った今もなお、図書館資料のさらなる整備充実を目指し、蔵書計画が絶えずすすめられている。
効果的快適情報空間
「開架閲覧室の中心ともなる一般資料室。百本の柱のそれぞれの周りには、4本の円筒(空調機・間接照明) が、立っている。そして、これらの間には整然と並べられた書架群。とにかく資料が豊富である。一般図書や参考図書といった書籍の他、雑誌コーナー・新聞コーナー・AVコーナーとそれぞれの分野で分かりやすく、使いやすい配置となっている。しかも、19万冊もの本に囲まれているはずのこの空間は何故かゆとりが感じられる。それは、この天井の高さにある。本が多くなると窮屈になってしまうため、吹き抜けという縦の空間を生かした構造が考えられた。外観の見えるガラス張りの窓側を中心とした所々のスペースには、160席の閲覧席と74席のソファが、用途に応じた最適な演出で設置されている。


たくさんの本をしっかり支えた書架が、奥深く美しく並ぶ。

表紙を正面に、見やすくズラリと並べられた雑誌。利用者が興味を持ちやすいということで、特に充実を図ったとのこと。

全国紙から地方紙、地元紙に至るまで、新聞の閲覧に合った机で、気軽に利用できる。

天井の高い空間の中にある閲覧席は、何とも快適である。
明るさを生む子供の利用
入口のすぐ右に設置されたのが子ども室。遊びのス ペースと「書架の森」ともいう、ユニークな書架の並びで、楽しい雰囲気である。子供にとっても自由に、また、一般利用者へ対しての防音策ということもあり、独立した一室となった。しかし、その隔たりは大きな一枚張りのガラス壁である。これは、ワンフロアー開架閲覧室をよりオープンなイメージにするためである。さらに、壁はあっても見通しが効くため、親子共々、安心して利用できるという機能も持っている。開館以来、子供の利用者が非常に多く、特に休日、この子ども室は大にぎわいと、充実の効果がうかがえる。おはなし会などをする「おはなしのへや」や教育者へ対する情報提供の場「子どもの本資料室」も、この一角に設けられている。

年齢に合った本を、年齢に合った高さの書架で配置された「書架の森」。
県内情報を集中管理
入口より一番奥に位置する郷土資料室は、これまでにない施設である。「県内の資料・本はすべてここで…」という目的で設置された。大分県内に関する歴史・産業・文化などの資料をはじめ、郷土人の哲学・芸術・文学の著作等、各分野にわたる多様な資料・本が揃えられている。
資料には大小様々。閲覧するのが大変という巻物・絵図等は畳の間が利用できる。一見、「何の隔たりもないこんな所に畳が・・」と感じそうであるが、実はそういったゆったりと閲覧できるという機能を備えたものであることも、開かれた図書館のあらわれである 。

どんな資料も、畳の間でゆったりと閲覧できる。
図書館の主役はあくまでも資料
利用者は、情報(資料・本)を求めて、図書館へ訪れる。つまり、図書館の主役は資料でなければならない。そのことに立脚し、さらに機能性を再重視した上で家具の設計はすすめられていった。設計を手掛けたのは(株)磯崎新アトリエ及び(株)GK設計。今回、当社はこの家具の主となる書架の製作に携わった。
オリジナル開発への試み
書架を形作る一つ一つの構成部品。これらの詳細な仕様を決定するにあたっては、図面による検討、それに基づくサンプル提示という形がとられた。
一つの部品に対して設計者は次々とアイデアが浮かぶ。その度毎に図面作成→検討→サンプル提示という過程を繰り返しながら、開発はすすめられていった。新しい試みとあって、設計・製作ともに張りつめた緊張の中で執り行われた。
これは、市場にない材料・機構への挑戦でもあったともいえる。


建築を生かしたデザイン
木パネルは、主として建築の仕様からきている。書架の木パネルの目地寸法は、建築の木パネルの目地(15mm)に統一された。そのため、支柱にあたるこの目地部分には、今までに経験のない程、繊細な寸法(2列平行)での棚受穴の加工が要求された。また、つき板は、1.0mmという厚さの仕様である。これにさらに耐久性と美しい仕上がりを考慮。様々な方法を試みた
結果、0.5mmのつき板の2枚直交ばりという特殊な方法がとられた。
まわし縁にもこだわりがある。幅5mm板という、家具業界では事例があまりみられないものであり、そのため、特殊な接着剤の開発、特殊な製作方法ということが必要となっていった。
機能性を生かしたデザイン
支柱から棚板、ベース、アジャスターに至るまで全てが市場にない新しい仕様の開発となった。ベース部分は、まず、耐震性・安全性を重視し、耐震実験や改良を積み重ね、作り出されたものである。そして、アジャスターの存在を、ローレット仕上げされた円筒と組み合わせることで、デザイン・機能の中にも生かされた。棚板にもいくつかの機能性が要求された。強度性の高いものであることはもちろんであるが、棚板・棚側板(棚受)が容易にセットできるものであり、しかも完全な施工精度の仕上がりとなること。そのため、特殊な構造の開発となった。
また、正面の厚みを薄くした、舟形の形状にも理由がある。当初は、もっと厚みのあるものであったが、主役である本をより一層際立たせるために改良がなされ、最終的なこの形状となったのである。このことは、図書館側にとっても強い要望であった。これに付随して、アルミの表面仕上げにも厳しい条件が要求された。アルミ表面の艶消しのためのブラスト加工、微妙な色合わせ、ここでもまた、幾度とないサンプルの製作が必要とされ、最終的な完成度の高いものへと導かれていった。


アジャスターと円筒の組み合わせがデザイン性を生み出している。

特殊ネジによる取付、精度の高い仕上がりとなる構造が考えられた。

書架としての機能的役割をもつほか、建築と一体となった美しさも醸し出す。

波型に配置。 傾斜棚を使用し、テーマ性のある情報を利用者へ提供する。

排架方法は、展示用傾斜棚のほか、通常のものも表紙を正面にしている。分かりやすさと安全性を考え、ポリカーボネイトを用いた。

CDの大きさから、見やすさと取り出しやすさを考え、最下段が比較的高い位置に、しかも展示用となっている。

本の重量が大きいものが多い郷土資料や大型本についてはより一層の安全性を考え、ボックス式が考えられた。

新しい試みがもたらした結果
「木」と「アルミ」という今までに類を見ない書架は、こうした様々な難関をくぐり抜け、ついに、洗練されたデザインとなって生まれた。図書館側と設計者との間に発する問題、設計者と製作との間に発する問題、それぞれの条件・要望・こだわりを十分に満たすために、綿密な打合せ、検討、開発が幾重にもわたり行われていった上での完成である。製作に携わった者としては、前述した通り、市場にない材料・機構への挑戦であった。アルミに関していえば、市場にないものであるため、まず加工するための金型からの製作となり、より以上の時間が費やされていった。押し迫る納期に、焦り・苛立ちを感じなかったわけではない。しかし、「世界にここに
しかない素晴らしいものを創ろう」との合言葉に目標が達成できたといえる。結果として、この新しい試みがもたらした過程や成果が、当社にとっても非常に貴重な体験となった。と同時に、参画できたことを感謝し、誇りに思う。図書館の方々も、ウォール式を中心とした書架ということで見通し等の問題もあり、どうなることか多少の心配はあったが、思ったよりもすっきりとした仕上がりとなり良かったと満足された様子であった。21世紀へ向け、県民の生涯学習のキーステーションとして期待できる、まさにハイテク・芸術ともいえる、県立図書館の誕生である。
(1995年8月10日刊行)
