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NEW OFFICE NOW1991 いま、オフィスは地方も面白い

寿商事株式会社 貝塚病院 有限会社進栄塗料商事 重機部品株式会社 住友商事株式会社 ニッカウヰスキー株式会社 湯朝硝子株式会社

日本のニューオフィスは独自性発揮へ

 1986年、問題が積もりすぎた日本のオフィスの現状を打開・改善しようと、通産省が「ニューオフィス化推進についての提言」を打ち出した。狭く、暗く、汚い事務所を「人間の生活の場」「情報化の中核の場」「企業文化発現の場」「国際化の前線の場」として見直そうという提案は、1987年のNOPA (New Office Promotion Association)の設立を機に、たちまちのうちに全国に普及した。
 それに伴ない日本のオフィス業界は飛躍的な進歩を果し、さらなる発展を続けている。西欧諸国の模倣から始まったオフィス設計は、西欧諸国を越えつつあると言う人もいる。確かにいつの時代もデザイン界をリードしてきたイタリア等の国々に、個々のデザインの完成度、品質の高さでは到底かなわないが、数多いバリエーションを駆使してシステムを作り上げると言う分野では独自性を出し始めたと言えるかもしれない。

ニューオフィスの落とし穴― ニューオフィスとは何なのか1

 業界では各社ともコンセプトを立て、「オフィスのありべき姿」「将来のオフィスの展望」などの論を展開している。快適で、コミュニケーションが円滑にとれ、創造性高いオフィス、あるいはCIの手段として、またOA機器増加の対策として、さらに若者の入社・定着率を上げるためetc・・・オフィスシステムのカタログは訴える。数々のバリエーション、外国人モデルを起用した洒落た雰囲気、印象的なキャッチコピー。ニューオフィスで働くという夢にすぐ手が届きそうな気になる。
 だが、ここに大きな落とし穴がある。機器を導入するだけで明日にでもすぐニューオフィスができると思い込んでしまう。

イメージだけが先走ってしまい実情に合わないオフィスにしてしまうかもしれない。ニューオフィスシステムを正しく導入し、効果を挙げると言うことは、実際には非常に困難で、時間のかかる作業であり、カタログの形をそっくり持ってくるだけでは成功しない。
ニューオフィスの条件とは何か?
正しい導入には何が必要か?
自分の企業に最適なタイプは?
ニューオフィスの効果とは?
などを、マスメディアに惑わされず、基本から十分に理解し、導入コンセプトをしっかり固めた上で現状を見直すことが大切である。

オフィスリニューアルの心得

 「何のためにオフィスを新しくするのか」「理想の実現のためには何が必要であるか」を把握し、明確なコンセプトを立てる。コンセプトを決定したら、トップの承認を得る。大切なのは決定したコンセプトは最後まで貫くこと。イメージ先行のコンセプトでは説得力がなく、事が進まない。

 次に肝心なのは予算枠。こちらが先に決まっている場合もあろう。あくまで枠内で収めるため、導入後の効果に優先順位を付ける。この時にやむを得ず先送りした項目については、いつどのような形で実行するのかという将来の展望も忘れてはいけない。全く新しい組織を組むのでない限り、現状の問題点、変えられない点、業務の流れなどがあるはずなので、その調査を行う。できるだけワーカーの意見を聞くことが望ましい。

 ワーカーの中からプロジェクトチームを作るのも良いだろう。また、3年後までの人員などの増減を考え、スペースには余裕を取っておく。会議室、収納、移動スペースなどを合わせ約13㎡/1人という指標もある 。コンセプト、調査が完了したら、その資料を全てプランナーに提示し、アドバイスを受ける。希望項目を漏らさず理解してもらうことが大切だが、その全てが実現しないかもしれないと覚悟しておくことも必要である。

 

1 step2 step3 step4 step
調査、分析、コンセプトゾーニングレイアウト意匠
(主な手順)●建物の大きさ、構造
●各部門の人員と仕事内容
●ワークステーション ×人員=広さ
●各施設の数と機能 機能→広さ
●仕事の関連で各部門の相互の位置を決める
●残ったスペースに各施設を使いやすく配置
●人間の心理や習慣を考慮する
●機能性を考慮する
●立体的に考える
●材質・色などを決める
●美しさを考える
(主な目的)コンセプトや各部門の広さ、施設の数と広さを決める。主要通路に面して各々を配置する家具やマシンを正確な寸法で各ゾーンの中に配置する空間を演出する
ニューオフィス作りの手順

次に紹介するオフィスは、そのコンセプト、導入経緯、方法、予算、期待する効果などは様々であるが、おしなべて言えることは、何らかのプラス面が得られたということ。オフィスリニューアルの参考になるエッセンスを読み取って戴きたい。

1.ワーカーの意見を取り入れた機能的オフィス 寿商事株式会社

業種:雑貨の卸売、倉庫業 食品の製造加工、レジャー施設
ワーカー数:グループ180名(男120名女60名) センター60名(男38名女22名)
所在地:本社/川内市向田本町17-14 (0996)22-7121 鹿児島営業所、吉田配送センター/鹿児島郡吉田町室/浦3925-2 (0992)94-4391
売上高:140億円
オフィス予算:建物10億円 什器備品 9千万円(センター含む)
施工面積:336㎡
1人当たりの執務スペース:8.8㎡

老舗が試みたニューオフィスプラン

九州自動車道の南端、鹿児島の手前薩摩吉田I, C. で下りて数分、山の中に白い建物が忽然と現れる。吉田町は鹿児島市の北5km、今後の発展が見込まれる。寿商事㈱の鹿児島営業所オフィス・吉田配送センターの特長は、鉄骨構造を採用し大きなスパンを実現したこと。これはオフィス及び倉庫内のレイアウトの効率を重視したため。
メーカーから入荷した品物をデパート・スーパーへ毎日大量に出荷しており、高速道路に近いということは非常に有利である反面、移転により繁華街から離れるため、雇用問題に影響が出るのではないかという懸念が生じた。そのマイナス材料を解決しようと模索した成果が、このオフィスである。

人に優しいオフィスの実現

コンセプト

各部署から1名ずつの代表者と調整役を1名、計6名を選出、「新築計画委員会」を結成した。週に一回のミーティングを持ち、倉庫とオフィスの現状把握から問題点を指摘し、理想の業務形態。購入品などを討議。ワーカー全員の意見を極力取り入れた。機能的なオフィス作りを目指した。コンセプトは4つ。

  • 人に優しいオフィス作り。快適に能率良く働ける空間を実現し、遠方からの通勤者に報い、地理的欠点をカバーする。
  • 省エネルギーの実現。自然光の積極的な利用,配電の工夫などを行う。
  • 将来への先行投資。5年後、10年後のオフィス形態の発展を見越して器を大きく作っておく。
  • 企業の体質を変化させる第一歩とする。「老舗」という古い殻を脱ぎ、サービス産業として新しい分野へ発展する。

当初はオフィス勤務の女性だけに、機能的な机と座り心地が良い椅子を選択する方針であった。営業部ではフリーアドレスにし、個人のキャビネットは使用しない、というプランまで出たが、帰社した時に「自分の場所がない」というのは寂しい、という意見などの条件により、全ワーカーの備品一式を購入。

レイアウト

「人」「物」「情報」の動線を分析し、無駄の無いラインを決定。以前のオフィスでは、その広さのため、ワーカーの一日の歩行距離は5kmにも達していた。歩行距離が長いほど疲労は増し、移動時間は無駄になり、流れの中断のため能率も落ちる。決定した動線を基にレイアウトし、机の下にコード類が収まるようコンセント類の取り出し口を配置した。特に配慮したのはコピー、FAXのOA機器の設置場所。オフィスの中央へ設置し、どのエリアからも距離を等しく取り、誰でも自らOA機器を利用するような雰囲気を作った。また余ワーカーの視界の中に有るので、情報の受取ミスも防止出来る。クロス張りのローパーティションで防音と目隠し効果を狙った。

フロア

電算室は、現場の強い要望によってアクセスフロアが採用された。タイルカーペットは社屋の一部に利用。外観、感触も重要だが、タイルカーペットの利点にはコード類をある程度下に敷き込め、取りだし口を自由に作ることができるという点がある。フレキシビリティを増す意味でも、早期の実現を望みたい。

照明

倉庫には天窓を作り、オフィスも南側を窓にしたので日中は照明が不必要。顔を上げれば緑が目に優しい。ブラインドで明るさを調節、蛍光灯はブロック毎にスイッチを設け、日中不在の多い営業エリアの照明を消すなど、長期的展望にたった経費節約を試みた。

OA

電算室、営業部他、計12台のディスプレイは全て液晶画面の奥行きの小さいものに統一した。机上スペースにゆとりを作り、孤独に黙々と入力するイメージを和らげている。電算とオフィスの間仕切りにガラスを使い、全員オフィス内を向くレイアウト。異なる部署同志のコミュニケーションを図っている。

オフィスの中心にある、便利なコピー機とFAX

ファイリング

天井高と窓高の壁面収納家具、電算室にはスライド式の二重の壁面収納家具を採用。中央テーブルには情報の流れをスムーズにするため。

奥に見えるスライド式壁面収納家具で省スペースが可能となった。液晶ディスプレイはコンパクトで便利。

アート

 ワーカーが最も自慢するひとつがトイレ。特に女子トイレは壁面の鏡、タイルのカラーなど、細かい所まで女性たちの意見が生かされている。新築委員会は解散したが、意見の出しやすい雰囲気ができたことが何よりの副産物だという。オフィスは禁煙で、備品もきれいである。同時に新築した独身寮も豪華で、家具付ワンルームの和室と洋室が選択できる。食堂横の和室はアフター5にワーカーがくつろいだり、料理や生け花などのサークル活動に利用するよう計画された。

大スパンが生かされた整然とした物流センター倉庫。通路や天窓、マットにまでワーカーの意見が取り入れられた。

ニューオフィス導入を考えている経営者へのアドバイス

「少なくとも、経営者である限り、10年に一度、什器備品を新品にできるくらい儲けることをしたいものですね。それができないにしても、誠意を見せる。その思いやりがないと社員も気持よく仕事が出来ない、つまり生産性が落ち、結局悪循環に陥りますよ。とは言っても、一度に買替えるのは難しいですから、一部分ずつ替えていったり、古い机でもレイアウトを替えたり、いくらでも工夫は出来るはず。見栄も有りますけれど、無理してでも良いものを揃えたいですね。」

2. ワーキングエリアとしての病院にメスを 貝塚病院

業種:総合病院
ワーカー数:160名(男30名女130名)
所在地:福岡市東区箱崎7-7-27 ☎ (092)632-3333
病室数:大部屋180 、個室30室
オフィス予算:建物 20億 備品 6百万
施工面積:190㎡
1人当たりの執務スペース:8.6㎡

機能性と快適性を求めて

 天神から車で15分、山笠で有名な箱崎神社と九州の最高学府九州大学のお膝元の町箱崎。地下鉄貝塚駅を降りてすぐ、貝塚病院の建物が目に入る。内科、外科、脳神経外科などを含む総合病院である。正面玄関を入るとロビー天井の緑の光が優しい間接照明と大きなレリーフが印象的である。

 病院は24時間眠ることのない、ワーカーにとっては決して楽ではない職場である。精神的にも肉体的にも衰弱した患者に、常に笑顔で接しなければならない究極のサービス業と言える。ナースと言えば悪名高き5K7Kの仕事。ナースの定着率を上げること即ちワーキングエリアとしての病院の施設の早急な整備が現在叫ばれている。

21世紀のオフィスを模索

コンセプト

開かれた明るい空間を第一に考慮して設計した。患者とのより親密なコミュニケーションを持つために、カウンターを広く、低目に作るなどの工夫が盛り込まれた。 (1)21世紀を目指したオフィス作り。具体的には、機械化の波に沿った、OA機器中心のオフィスを目指す。端末、プリンターなどの増設に伴う人員の増減に即座に対応するために、レイアウト変更のフレキシビリティを持たせる。 (2)ペーパーレスの推進。業務のOA化を進め、手書きの書類を削減する。 (3)機能的で清潔な空間の実現。オフィスとは、清潔で仕事の能率が上がるさわやかなスペースでなければならない。ごみ、匂い、騒音などを追放したオフィスを作る。清潔で整ったオフィスであることが最も基本的な事であり、その条件がそろっていれば仕事の能率も上がる機能的なオフィスが実現する。

グリーンを反射する間接照明と大きな陶製のレリーフが、落ち着いた暖かい雰囲気を感じさせてくれる。足下の板張りの床等、建物に自然を取り入れている。

レイアウト

コンセプト通り、OA機器の増設、ペーパーレス時代に対応できるよう、平デスクと連結用のデスク天板を用いてデスク上のスペースを広く確保。また私物のスペースを最小限に押さえるため、個人のサイドキャビネットは用意されていない。

ファイリング

カルテの収納には省スペース実現のため、丸ハンドル式の移動棚Zを使用。院内の文書などはまだ個人レベルでの管理だが、将来は収納スペースを増やし、OA機器を活用したファイリングを導入する。

プリンターをオフィスの隅に設置するなどして騒音を防いでいる反面、ある種のノイズも必要だと古賀信也事務長。静かすぎるとかえって注意力がそがれ、不安を生じさせる。せせらぎなどのBGMや空調機械の低い定期的な振動音なども効果的に利用すべき、とのことである。

清潔さと快適さをイメージして作られたオフィス。24時間多数の人が出入りする忙しい場所である。 壁面をもっと収納スペースとして活用して欲しい。

デスク・チェア

レイアウト変更が自在で、サイドキャビネットの代わりに足下のデッドスペースを生かせる収納ボックスのあるタイプのデスクに決定。電話やOA機器のコードも収納でき、デスクの上はすっきりとしている。特にナースステーションのチェアはグレードの高い物を選んだ。座高、背もたれ角度、座面角度などがガス圧式で容易に変えられる。立ち仕事の多いナースが、ちょっとひと休みという時に背筋を伸ばせるようにしたものである。

ナースステーションでは、グレードの高いチェアを採用。背もたれ角度、座面高さなどが簡単に変えられる。過酷な立ち仕事の多いナースが、リラックスできるように配慮されたもの。

アート

ロビー正面の巨大な陶製のレリーフと、緑の天井に反射させた照明、ロビー中央は木製の床材を使用しており、足先から体温を奪われる事もなく、自然の森の中のような穏やかな雰囲気を醸し出してくれる。ナース寮も本館と同時に建築。保育室も完備したきれいなマンションである。広い窓の明るい食堂もワーカーに好評。ナースの更衣室には大きな鏡と化粧台を作った。常時人と接する仕事として、身だしなみを整えるためというのはもちろんだが、若い女性の心理としては、アフターファイブへの接点としても嬉しい。

大きな鏡とさんご色の化粧スペースが嬉しいナース更衣室。勤務中は接客としての身だしなみを大切にし、アフター5も華やかでありたい。

ニューオフィス導入を考えている経営者へのアドバイス

「これからはカラーコーディネイトが重要になってきます。従来のグレーの机椅子はもちろんいけませんし、ただ機能だけを追求した物も面白くありません。いかにきれいなカラーをオフィスに取り込んでいくか、機能プラスアルファの機種の選択が大切でしょう。また、今回の経験からです、業者さんとよく打合せをし、自分の意見をしっかりと伝えること。イメージだけが先走りすると、いざ出来上がって使いはじめてさぁ困った、ということになってしまいます。その前には自分の意見をきちんと作っておくことは当然です。

3. こだわりの実現ーコンセプトが導いたニューオフィスの成功 有限会社進栄塗料商事

業種:塗料販売業
ワーカー数:17名(男14名女3名)
所在地:本社 熊本市神水本町2-5 (096)384-3485
営業所:熊本市流通団地2-10 (095)377-2400
売上高:5億円
オフィス予算:建物1億円、什器備品 1千万円
1人当たりの執務スペース:7.9㎡
施工面積:122.8㎡

業界のイメージを一新

 市街地から車で南へ10分、サテライトシティとして発展する町並みの中のひときわ美しい区画が熊本流通団地である。52.9haの敷地には様々な規模、様式の建物が並ぶ。建物はまさに企業の「顔」、経営者のポリシーが如実に表れていて興味深い。中心にあるのが漁瀟洒な熊本市流通情報会館。週末には各種イベントも開催され、市民にもポピュラーなエリアである。
 その向かい側に(有)進栄塗料商事の営業所はある。建築の際、情報会館の造りを非常に意識した。シルバーを基調としたモダンなイメージに合わせ、光沢のあるタイルとミラー仕上げの窓を使った建物は、見る角度によって色を変え、多彩な表情を見せる。エントランスには二つの水をアレンジした「ゆとり空間」が作ってある。日本庭園を思わせる清流、池には鯉が遊び、来訪者や従業員が安らぎを感じる場所となっている。

コンセプト

オフィスと建物全体は切り離して語れない。設計から細部まで太田力夫社長のポリシー「大胆で新しいイメージ作り」「整頓された快適な空間」で貫かれている。ニューオフィス導入の理由は3つ。

  • きれいで新しいイメージ作り。塗料業界が持つ、いつも手を汚しているペンキ屋のイメージから脱却し、顧客、求人市場へアピールする。
  • 以前から模索していた、快適な生活空間としてのオフィスの実現。
  • 地場企業、中小企業で年々深刻になっている若い優秀な人材の確保の足掛かりとする。


レイアウト

「いくつかのレイアウト案の中から。スッキリしているということでこの型を採用しました。それでも当初は、新しいレイアウトにかなりの抵抗があったという。現在では、程よくプライバシーを保ちながら、体の向きを変えればコミュニケーションが容易であるこのレイアウトが従業員に好評である。」

照明

正面玄関、会議室など壁面になるべく広く窓を取った。また玄関エントランス、ロビー階段、倉庫など数多くのサンルーフがあり、自然の光を取り入れている。照明は目を配慮した蛍光灯を使用。フロアタイルカーペットを使用。電源、電話回線の取り出し口を数ヵ所に設けてある。

正面玄関のエントランスのせせらぎはとてもユニーク。庭園のごとく配された石の間を、常に水が流れている。

空調

オフィス内は禁煙。オフィスにはまだ大変珍しい天井冷房床暖房方式を採用。空気の流れに無駄がなくコスト的にもメリットがあるが、更に理想的な頭寒足熱の形が実現したことが注目される。本社のキッチンで採用したところ、女性社員に非常に好評だったので今回オフィス全体に採用した。冷え性の女性のみならず、男性にもあのひやっとした嫌な感覚は経験済みと思うが、スチールデスクに長時間座っていると足先や肘から体温が奪われ、健康をそこなう可能性がある。最悪の場合には神経痛になることもあるというので健康上の効果は計り知れない。

アート

 太田力夫社長が旅行先などで目を引かれたもの、特に彫刻や陶器などを置いている。商売柄、日頃から模様や色調、素材には気をつけていることが、カーペット、壁紙、タイルなどに表れている。階段の踊場も凝っており、建物全体がアート感覚を持っている。
 中でも目を引くのがオフィスの外にある危険物倉庫。経営姿勢が表れていると言っても良い。通常敷地の隅に追いやられ、薄暗く汚れてさびれた印象があるが、この倉庫は卵を思わせる曲線のコンクリート壁の、ソフトでモダンな建物。
 またトイレも非常に重要視している。「トイレはリラックスし、気分転換がはかれるようなゆったり快適な空間であるべき」と言うだけあって、タイルも大きな、深い色の別注の高級品。

アースカラーを使った階段踊り場は、ほのかな明るさ。ここにもサンルーフがある。全てのサンルーフの内部に塗られているグリーンは、社長の最も好きな色とのこと。

ファイリング

天井までと、腰高の壁面収納家具を採用。大量のカタログ、色見本が収納物のほとんど。個人にはサイドキャビネット一台を用意した。生活時間の大半をすごすオフィスを。我が家のようにきれいにという方針のもと、不要なものがたまらないよう、必ず週一回全員で整理整頓と清掃を実施することになっており、男性社員が先頭に立って5Sを励行している。

BGM

最近BGMの放送設備を購入。近々放送開始予定

危険物倉庫は社屋同様、曲線を強調したデザイン。ソフトさとモダンさが同居している。

ニューオフィス導入を考えている経営者へのアドバイス

「とにかく、整理整頓をしてきれいにすること。不必要なものが無く、片づいていればOA機器の増設や、人員の増減に即座に対処できますから」特に今回のシステムの購入時に金剛の担当から「机の上には物を置かない」とアドバイスを受けたことが一番の収穫だったという。「デスクマットは本社でも全て廃棄させました。見た目もすっきりして気持がいいし、要らないものをため込まないメリットがあります。書類、筆記用具など全て所定の場所に戻してから外出、退社するというルールを作ったので、オフィスの中は常に片づいた状態です。」

4. オフィスの「ゆとり」を模索 重機部品株式会社

業種:建設機械部品販売
ワーカー数:7名(男6名女1名)
所在地:鳥栖市藤木町字十ノ坪146-1
☎(0942)83-2100
売上高:50億円
オフィス予算:土地1億円 建物1億円 備品4百万円
施工面積:112㎡
1人当たりの執務スペース:10.0㎡

新築移転を機に「ゆとりのあるオフィス」作りにトライ、社員の啓蒙も行った 。建築後2年であるが、比較的備品が汚れていないのはオフィス内を禁煙にしてある為、とワーカーは胸を張る。窓が広く、明るさも十分である。今後は壁面収納家具によって得られたスペースを活用し、ファイリングを進め、より整ったオフィスの実現を図る。

5. パーソナル空間を重視した質の高いワーキングエリア 住友商事株式会社

業種:商社
ワーカー数:8名(男5名女3名)
所在地:熊本市花畑町9-24 住友生命熊本ビル5F  
    ☎(096)354-0377
売上高:****
オフィス予算:1千万円
施工面積:178㎡
1人当たりの執務スペース:12.5㎡

マネージャーのブース、一人一人の視線が合わないレイアウトを採用し、各人が集中しやすい余裕のある執務スペースを確保した。パーティションとしても役立っている多くの鉢植えのグリーンが、落ち着いた雰囲気を作っている。あえて動線を長く取ることにより、ワーカー同志のちょっとしたコミュニケーションの機会増加を狙った。

6. スペースの活用法教えます ニッカウヰスキー株式会社

業種:酒類製造、販売
ワーカー数:5名(男4名女1名)
所在地:熊本市花畑町9-24 住友生命ビル5F
    ☎(096)354-0139
売上高:****
オフィス予算:6百万円
施工面積:53㎡
1人当たりの執務スペース:7.8㎡

1989年の上場を機会に、全国の営業所、工場などのリニューアルを実施。酒税法との兼ね合いで倉庫部分の移動を断念、ただでさえ制約のある変形で狭いスペースの活用法に、双方の担当も非常に頭を悩ませ、討議を重ねた。既設のスチールパーティションのほとんどを廃棄し、腰高の壁面収納家具とローパーティションを使用。視野を広げることと収納スペースの確保を成功させた。斬新に見えるレイアウトは、日中不在の営業マンのスペースの削減と、コミュニケーションを考えて決定された合理的なものである。

7. 光と緑と空気の融合 湯朝硝子株式会社

業種:ガラス製建具等製造・販売
ワーカー数:6名(男4名女2名)
所在地:福岡市博多区井相田2-8-5
    ☎(092)501-8770
売上高:3億5千万円
オフィス予算:建物4千万円 備品5百万円
施工面積:55㎡
1人当たりの執務スペース:8.5㎡

就職希望者に、オフィスのために入社を断られたという苦い経験から、ニューオフィス作りを決意 。色々な高さを組合せたローパーティションを利用して、限られたスペースを効果的に仕切っており、パーソナル空間とコミュニケーション空間を融合させている。加湿器とグリーン、玄関には自社の新製品でもある特製ガラス扉、一方の壁も全面ガラス窓にするなど、小道具も効かせ、室内は明るくハイグレードに仕上がっている。

ニューオフィスのキーワード~ニューオフィスとは何なのか2

ニューオフィスの基本を押さえる手段として、特に話題に上る点を7つのキーワードにした。これを切り口に、ニューオフィスのあるべき姿を模索する。

(1)アメニティ(快適性)と機能性
(2)アート(企業文化)
(3)5S→ファイリング
(4)若者不足
(5)女性とオフィス
(6)光・音・香り
(7)情報化とOA機器

1.アメニティ(快適性)と機能性

 住宅などの快適性は以前から問われてきたが、オフィスにも住空間としての関心が向けられ始めた。だが快適性と言っても、その性質は一様ではない。
本来企業は仕事をする組織であり、しかも発展していかねばならない。そこで仕事の能率を無視するわけにはいかないのである。だが、能率至上主義だけでは、うまく行かなくなってきている。つまり「時代が変ってきている」のである。
 ワーカーを対象にしたアンケートでも、リフレッシュスペース、空調、スペースの広さなど環境に対する不満が必ず上位を占める。興味深いのは、この結果と経営者がオフィスに望む姿の間に微妙にずれがあること。今後経営者は、「能率を上げるための快適さ」を作る能力を問われる。ワーカー達は、快適なオフィスでこそ能力を発揮できること、つまりオフィスの持つ機能に業務処理と創造とがあり、個人レベルもさることながら、チームワークとしての創造性の発揮の重大さに気付き始めている。

2.アート(企業文化)

 アート性を企業に取り入れる時代になった。経営思想芯の通ったコンセプトの表れがいる。貰い物の記念品、トロフィー、表彰状、脈絡ない骨董品にポリシーは見えない。内外に誇れるもの、それは地域の文化的発展への貢献でも、ワーカーの為の広く清潔で使い心地の良いトイレでも良い。独り善がりではなく、真の価値を持つもの。それを作り出し訴える企業こそが生き残っていく。
 たとえば、昨今その効果が注目されているグリーン。空気を清浄にし、OA作業による目の疲れを回復させ、ストレスを和らげる、というデータが挙がっている。即良い結果が得られ、価格・スペース的に見ても導入しやすい便利なアイテムであろう。日光、肥料、水が不足がちなオフィスに最適な、精巧で質の良い人口樹木のバリエーションも増えている。

3.5S→ファイリング

 一見すると便利だが、仕事の能率を考えると、実は非常に有害なものがオフィスの中には誠に多い。OA機器の増加に伴う紙洪水に、東京都が待ったをかけた例にも見られるように、5S→ファイリングの推進はニューオフィス実現の最も中核となるべき思想であり、作業である。(詳しくは「VOICE」(P.10)を参照)
 たとえば何枚も掛けられたカレンダー。ビジネスマンたる者、いちいちカレンダーで今日の日付を確認するようでは困る。予定の確認には、手帳が一冊有ればよい。さらに目の前の視界がスッキリしていたり、検索も素早くなされたりすると、業務処理の効率は抜群となる。

4.若者不足

 現代青年ビジネスマンは、いかに才能を開花させ、活躍するか、自分という役者を、職場という舞台でどう演じさせるかを大切にするという。いやいや仕事をするのでもなく、生活を犠牲にするという意識さえ持たず、悠々と仕事を楽しむ。その為の環境が整っているか、能力を遺憾なく発揮するにふさわしいか、彼らはシビアに採点する。いずれにしても労働人口は、1995年をピークに下降していく。優秀な人材を確保できるか否かが将来を制するのは明白である。

5. 女性とオフィス

 いまさら女性の職業意識の向上云々を述べるまでもなく、第一線で働くか、補助的な仕事をするかは別として、職場での女性の比率は確実に上がる。労働力を確保するため、企業はそうせざるを得ない。

 既に時代を見越した企業では女性確保のため、女性達の意見を生かしたオフィス作りをしている。女性の方が男性よりもセンスが良く、環境向上への要望も高いと判断してのことだろう。女性を活用できるか否かが企業のネックになった。

6. 光・音・香り

 近頃、異業種からオフィスの環境整備業界への進出が増えている。それだけオフィス環境へ高い関心が寄せられているのである。照明の形、照度や角度、脳波のメカニズムを考慮した最適なBGMの組合せ、アロマテラピー(芳香療法)を基にした香りの空調など、驚くほど開発が進んでいる。香りを集中力の向上やリフレッシュ感覚の増進などの効果を狙ってオフィスに流す装置も出ている。香りやBGMも設置場所、流す時間帯、量など十分な検討を加え、ぜひオフィスに取り入れていきたいシステムである。

7.情報化とOA機器

 企業の生き残り対策として、あるいは成長策として情報の迅速・的確な活用は今後飛躍的に増大することは間違いない。その場合問題になるのはまず機器のためのスペースである。技術の進歩と生産量で性能は向上し、価格は安くなるが、スペースを占めることには相違ない。このスペースについての工夫が求められる。
 第二は、一般的に電気コードが増え、電話線とともにその始末に悩まされることであろう。十九世紀末、電話登場時期のアメリカ大統領執務室に何十本も天井から垂れ下がった電話線の滑稽な写真が思い出される。
 また、OA機器の出す音、熱、電磁波の処理も大切である。作業時間の増加などのための気分転換策も必要だろう。備品導入前に手を打っておくことが経営者にとってもワーカーにとっても重要といえる。

ニューオフィスの将来 ~ニューオフィスとは何なのか3

ニューオフィスとは何か?あえて一言で返答するなら、「付加価値空間」と言いたい。快適性、利便性、創造性、機能性、差別化は全て、主人公たるワーカーが能力発揮でき、仕事が楽しくはかどるためでなければならない。人間として、ひとの役に立ちたい、より良い環境で、仕事そのものに価値を見い出したいという欲求が人間の一番の根源に有る。オフィスは生活をし、遊び、そして仕事をする場所なのである。

ややもすると、経営者の考えとワーカーの要望、あるいはメーカーの姿勢が食い違うこともあるかもしれない。しかし、全てのオフィスが、ヒトにとって何が一番大切であるかを考え、ユーザー・メーカー双方の率直なディスカッションを基に、素晴らしいニューオフィスに成長するだろうと期待している。

参考文献
工藤雅世 『オフィス革命の』洋泉社 1990
安雅正美 『実践ニューオフィス』 日本経済新聞社 1990
通商産業省 『ニューオフィス』通商産会 昭和52年
ファシリティマネジメント 日刊工業新聞社
日経オフィス 日経BP社  他

(1991年2月28日刊行)

金剛株式会社 Y.Himeno