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未来への発信
〜時を経て見えてきたもの〜

石巻NEWSee


interview

話し手の写真
話し手:武内 宏之(左) 石巻NEWSee館長・株式会社石巻日日新聞社 常務取締役、 太田 倫子(右) 一般社団法人 キッズ・メディア・ステーション 代表理事    ※所属・役職は取材当時のものです。
 
 

 宮城県石巻市、東松島市、女川町を購読エリアとする石巻日日新聞社が運営。震災直後に発行した号外「手書きの壁新聞」や当時の被害状況の写真を展示している。また、同社が大正元年の創刊以来、紙面で刻んできた石巻地域の歴史を伝える郷土史コーナー、地元の子どもたちによるマイクロライブラリーもある。
 
 
悔しさの証拠「手書きの壁新聞」

 
 震災後、国内外から多くの方が被災地視察に来られる中で、石巻市には被災について説明する場所がありませんでした。そこで、石巻の状況を説明することも被災地の新聞社の役割と考え、平成24年11月に石巻日日新聞創刊100年の記念事業として石巻NEWSee※1 をオープンさせました。こじんまりした施設とはいえ、オ ープン後1年間は1日で180~200人もの方が訪れ、一人ひとりに対応できないほどの来館者がありました。
 東日本大震災で、石巻日日新聞社は津波で輪転機の一台が水没し、停電でパソコンも使えない状況でしたが、被災した地域住民に情報を伝えるべく、手書きの壁新聞を作り6箇所に貼り出しました。「紙とペンさえあれば、『伝える』という自分たちの仕事はできる」「平常時に新聞を発行するのは当たり前、非常時こそ正しい情報を発信するのが新聞社の使命」といった思いが強くなり、新聞社の原点、報道の原点を確認する日々でした。
 手書きで発行した6日間分全てがそろっているのは、アメリカのワシントンD.Cにある報道博物館「NEWSEUM」※2 、 横浜市の「ニュースパーク(日本新聞博物館)」、そしてここ石巻市の「石巻NEWSee(以下:ニューゼ)」の3箇所です。ワシントンD.C.と横浜では、きちんと温湿度管理した状態の中で永久保存されることになっています。大変光栄ではありますが、私たちにとっては、津波で多くの仲間を失った震災を伝える壁新聞です。もろ手をあげて喜べません。複雑な気持ちです。
 さらに、発災から3日ほどすると、大手の新聞社は平時と同じように印刷した新聞を発刊し始めました。なのに「こっちは手書きかよ」と、弊社の記者にとって「手書きの壁新聞」は、「これしかできなかった」という悔しさの証拠に過ぎないのが本音です。
 
※1 “ニュース”とフランス語で博物館を表す“ミュゼ”を合わせた造語で「ニュース博物館」を意味する。※2   歴史的な出来事の報道した新聞、写真、映像等を収集・公開する博物館。
 
 

壁に並ぶ額に入れられた手書きの新聞
平成23年3月12日〜17日の6日間、石巻日日新聞社が発行した手書きの壁新聞

石巻NEWSeeでは6枚全てを常設展示している
 
額に入れられた手書きの新聞
被災者に情報を提供した手書きの壁新聞は、現在、当時の状況を伝える貴重な震災資料となった

 
手書き新聞を作成する様子
平成23年3月15日「手書きの壁新聞」を作成する石巻日日新聞社の社員
石巻日日新聞社提供
 
 
時間と共に変化する役割

 

 ニューゼは新聞社が運営する施設です。来てくださった方に対して、震災のデータだけでなく、取材を通して得た現在の被災地の状況を、課題も交えながら伝えています。今年の11月でニューゼがオープンして丸5年になります。これまでは、入館料と来られた方への震災講話を無料にしていましたが、施設の運営と維持のために、今年4月から講話については有料にさせていただいています。近隣には、石巻市が設置した「復興まちづくり情報交流館」、NPO法人が運営する震災の伝承施設「つなぐ館」があります。さらに3年後の2020年には、国が設置する「復興祈念施設(仮称)」が石巻市内に完成予定です。ニューゼがオープンした当時とは違って、こうした震災を伝承する環境が整ってきている状況の中で、被災地の新聞社の施設としてニューゼは一定の役割を果たした、という認識があります。でも、復興は、「目に見える復興」だけではありません。被災した方の心の問題、被災した地域の経済状況など「目に見えない復興」への対応や対策は、むしろこれから本格的に必要になってくると思いますし、目に見えないだけに気づくのが遅れてしまうこともあります。地元新聞社の施設として、これからは「目に見えない復興」に目を向け取材を続け、地域内にそして全国に伝えていきたいと思っています。
 
 

震災講話を行う様子
ニューゼで震災講話を行う武内館長
石巻日日新聞社提供
 
 
 さらに、最近、被災地の新聞社として「伝える」のもつ意味が広がってきました。震災当時の石巻のことを私たちと同じ “今”を生きる方々に知ってもらうために、現地で「伝える」施設として活動をしてきたニューゼですが、東日本大震災のことを語り続けるだけではなく、未来の被災地である「未災地」の被害を最小限にとどめるための情報を伝える役目も担っているのかな、と5年経った去年からそう思うようになってきたのです。震災直後は自分のまちのことで精一杯で気付きませんでしたが、 時間が経って気持ちの余裕が出てきたのかもしれません。
 6年前の震災は、私たちにとってはひどい体験でしたが、この体験を全国各地の皆さんに伝えることで防災・減災に役立ててもらう「教科書」にしてほしいと思います。そうしてもらうことで、「震災後、全国からいただいた支援に対する恩返しの一つにしたい」と言う石巻市民もいます。
 ですから今は、「伝える視点」を石巻に限定せず、「自分が住んでいるまちが被災したら…」と考えてもらえるように教訓としてお話しています。例えば沿岸部に大きな津波が来たらその町はどうなるのか、時間が経つとどうなるのか、人々はどの様にガレキの中から立ち上がってきたのか…と、取材を通してずっと見てきたことを伝えています。
 震災から時間が経ってくると、もう一つ気になることがでてきました。復興が進むにつれて、被災者の関心が新しいまちづくりに向いていくのは当然ですが、その中で、震災前に先人たちが築き上げてきた「石巻」が忘れ去られるんじゃないか?という危機感を抱いたのです。石巻日日新聞は大正元年の創刊です。紙面で刻んできた石巻地域の記録を持っています。新しいまちができて、「さて石巻ってどういうまちなの?」となったときに、地元の新聞社として答えられる記録・情報があります。先程話したように、現在、石巻では伝承環境が整ってきているので、ニューゼの今後の役割は「震災」を伝えることに加えて、震災前に石巻の先人たちが築き上げてきた歴史、文化を引き継ぐ活動もしていきたいと思います。もちろん、地元の人たちへは、周期的に繰り返す津波についての意識を啓発し続ける役割もあります。
 そこで、ニューゼの中には、石巻の年表を貼り、石巻の歴史の本などを置いた郷士史料コーナーを設けています。これまでは、石巻の外から来られた方に対して、壁新聞をはじめ震災当時の状況を説明するのがメインでした。これからは、石巻の人たちが自分たちのまちの歴史をつなげていくためにニューゼを活用してほしいと思っています。
 
 
ニューゼを舞台に世代を超えたコミュニケーションを
 
その郷土史料コーナーの横には「こどもライブラリー」と名付けられたマイクロライブラリー ※3  があります。本棚に並んでいるのは石巻の子どもたちが「おすすめする本」と子どもたちによる 「オリジナルの本」。このライブラリースペースを企画・運営しているのは、 一般社団法人キッズ・メディア・ステ ーション ※4  です。ニューゼを活動拠点に、石巻の子どもたちが自分の言葉で情報発信するための様々なワークショップを開催しています。 ※5 
 
※3 個人や小規模な団体により運営される私設図書館。本を置くだけでなく、本を介した交流の拠点になることもある。
※4 平成23年12月設立。子どもたちの表現活動・情報発信を支援し、子どもたちのつくる力(表現力)・つたえる力(コミュニケーションカ)・つながる力(行動力)を育むことを目的に活動している。
※5 代表的な取り組みは3か月に度、各11日に発刊する「石巻日日こども新聞」。石巻日日新聞社による協力の元、石巻の子どもたちの取材活動により、石巻の今を伝える。発行部数は3万部。
 
 
子どもライブラリー内観
真左:白色の棚はこどもライブラリー
写真右:茶色の棚は石巻の郷土史料コーナー
 
 
  震災当時、被災地支援として全国からたくさんの本が石巻の子どもたちの元に集まりました。そんな「災害があったから出会えた本」に彼らがかなり励まされたみたいです。それをきっかけに開催した「どうして、どの本の、どんな部分に励まされたのか?」を自分の言葉で伝え合う読書会が、こどもライブラリーの開設に繋がりました。
 共有スペースもありますが、基本的には、ひとり1スペースを自分の棚として担当し、「読んでほしい!」と思う本を置いています。1冊ずつにその本のオーナーの名前、おすすめする理由を記したカードを挟み、読んだ人はそこに感想を書けるようになっています。
 
 
子供たちが書いた本
石巻のこどもたちが執筆した、この世に1冊だけの本
「こどもライブラリー」で読むことができる
 
表紙に「悪口を言われた時の対処方」と書かれた本
著者(小学校4年生)の家訓が収められた1冊
直筆サイン入り
 
 
 様々なワークショップを通して分かったことは、子どもたちは自分たちがしたことに対して、感想やリアクションがあることが嬉しく、モチベーションの向上につながるということです。発信するからには、「伝わった」っていう実感がないとやっていて楽しくないし、続かないですよね。ですから、自分のおすすめする本に対して、感想をくれる人や共感してくれる人がいれば、マイクロライブラリーを通して、子どもたちと心のやり取りができるようになるのではないでしょうか。 津波の後、多くの方が内陸に移り住み、ニューゼ周辺の沿岸部は住む人ががくんと減りました。ひとり暮らしのお年寄りをはじめ、地元の大人たちが、ニューゼ、そしてこどもライブラリーにもっと訪れていただき、「今、石巻の子どもたちはどんな本を読んでいて何を考えているのか」ということを、本を通して異世代間でコミュニケーションできたら素晴らしいことだと思っています。こどもライブラリーの活動はまだ始まったばかりですが、ゆくゆくはそういう場所にしていきたいですね。 これから、東日本大震災の記憶に乏しい世代や、震災の経験がない世代が増えていきます。キッズ・メディア・ステーションを立ち上げた当時は、被災地以外の皆さんに、震災のこと、石巻のこと、子どもたちが考えていることを伝えたい一心で活動していました。でも、今、そしてこれからは「被災地の中で」「次の世代に」伝えていくのも大きなテーマになっていくのだと感じています。 
 
 
子供ライブラリーでの記念撮影
画像提供:キッズ・メディア・ステーション

 
工作を行う子供
画像提供:キッズ・メディア・ステーション

 
 
(取材日:2017年7月21日)
取材・執筆:宮脇 薫子 金剛株式会社 社長室
※取材当時 

石巻NEWSee
所在地:宮城県石巻市中央2丁目8-2
T E L:0225-98-7323 
開館時間:10:00〜18:00 
休館日:月曜日
U R L :http://www.hibishinbun.com/newsee/
 

石巻NEWSee外観

 

PASSION38表紙
この記事は「PASSION vol.39」に収録されています
 
 
 

 

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