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木金書架の耐震性能実験について

㈶ベターリビング筑波試験センター 試験部 第二試験室 室長 藤本 効

注意発行当時の記述について

本記事は、金剛株式会社が1995年08月10日に発行した機関誌「PASSION Vol.17」の内容を、当時の記録として公開するものです。

記事内の情報は発行当時のものであり、現在の状況とは異なる場合があります。また、当時の社会情勢や倫理観を反映した表現が含まれている可能性があり、現代の基準に照らし合わせると一部不適切と感じられる箇所もあるかもしれませんが、資料的価値を考慮し、原文のまま掲載しています。

掲載されている商品やサービスは、既に販売・提供を終了している場合があります。現行の製品については、改めて最新のカタログ等をご参照いただくか、弊社までお問い合わせください。


※ 本記事は、著作権法上の引用の範囲内で掲載しています。当時の記録として、皆様に楽しんでいただけましたら幸いです。

昨年(平成6年7月28日、10月18日の2回)、大分県立図書館用書架の耐震性能実験を、建設省建築研究所にて実地する貴重な機会を得ることができた。
この実験を行った結果について以下に述べさせていただく。  

●書架の構造特性

書架、特に今回のような意匠性を考慮した設計の場合は、タンスや食器棚に比べて剛性が低くなる。
これは、タンスなどは面状部材(パネル)により構成されているのに対して、書架は独立した柱(片持ち柱)構造になっているためである。
建築物にたとえると書架は超高層ビルなどと同じ柔構造、タンスは鉄筋コンクリート壁構造と同様な構造といえる。(図1参照)

柔構造と剛構造の違い
図1:柔構造と剛構造の違い

今回実験の対象とした書架の構造特性は以下のようになる。

 
●固有周期が長い (Y方向で1.7Hz)
●高さ方向に振幅が大きくなる(鞭を振ったような状態)
●見た目の振幅が大きい割には転倒しにくい
●平面的なアスペクト比が大きいためX、Y方向の剛性の差が大きい 

図2は別に行ったJIS S 1039に基づく静的荷重試験の結果を示したものである。
Y方向のそれに対しておよそ1/50程度のものである。もっとも、これは一単位の書架の場合であり、実際は複数の書架を連結して使用するので剛性の差はさらに大きくなる。  

書架の剛性
図2:書架の剛性

●入力した地震波

使用した振動台は表1に示すような性能である。(概略を図3に示す)。入力地震波は、エルセントロ、タフト、八戸の三波で、それぞれ原波形を最大速度で25、50kineレベルに基準化して使用した(表2参照)。なお、25kineレベルの地震とは建物の耐用年数中に数回発生する中地震、50kineレベルはその期間に一回発生するかどうかの大地震とおおよそ定義される。加振方向は書架のX(書架間口)、Y(書架奥行)方向および45度方向である。

振動台上に6m×6mの今回設置条件床
写真1:振動台上に6m×6mの今回設置条件床(セルプレベリング、コンパネ、フローリング)の架台を取付けて実験を行なう。
振動台の性能
表1:振動台の性能
振動台の概要
図3:振動台の概要
入力地震波の特性
表2:入力地震波の特性

<参考>
●エルセントロ地震波
アメリカのエルセントロに設置されてから記録された一連の地震の総称。特に、1940年5月18日インペリアルヴァリー地震による記録が世界的にも有名で、最大加速度0.33Gを記録し、各種構築物の動的解析の地震入力として広く用いられている。  
●タフト地震波
カリフォルニア州タフト市に設置された強震計に1952年7月21日に記録された最大加速度174galの地震。この記録が各種構築物の動的解析に広く用いられるようになった。  
●十勝沖地震波
1968年5月16日十勝沖に発生した地震。大都市における大火災の新しい様相を示したものとして大きな反響を呼ぶとともに、附帯設計を行った鉄筋コンクリート造物の被害が多く、新たな課題を残した。
(「大地震」講談社出版より)

●加振実験の結果

加振により得られた結果の概略を表3に示す。入力地震波の最大加速度はエルセントロが最上位で以下タフト、八戸と続くが、書架上部の応答加速度はそれと相関していない。各入力波における書架の振動性状はほぼ同様で、図4に示すような状況である。  

書架の振動パターン
図4:書架の振動パターン
実験結果
表3:実験結果

X方向加振では50kineレベルでも本の落下する状況は生じない状況であったが、Y方向では速度レベルに関わりなくすべての地震波で本の落下を生じた。
なお、Y方向加振時は書架を金物で床に固定してあったので転倒を免れたが、実験書架を目視観察した結果では、床固定がなければ50kineレベルでは確実に転倒する状況であった。
本の落下状況から判断すると、連結した書架の端部の方が落下しやすいと言える。これは、応答加速度の測定結果と一致している(図5.1.1~5.1.3参照)。

応答加速度波形

応答加速度波形


地震波と本の落下量は次に示すようになる。  
25kineレベル→エルセントロ(1275) >タフト(1028) >八戸(818)
50kineレベル→タフト(2185)>エルセントロ(1910) > 八戸(2119)
※( )内は最大応答加速度(単位gal)を表す。

応答加速度の大小と本の落下量の多少は25kineレベルでは相関が見られるが、50kineレベルでは逆転が生じている。後者の書架頂部の応答加速度波形を比較すると、最も被害(的確な言葉でないかもしれないが)の大きいタフトは、位置の違いによる波形位相差が顕著である(加速度のピーク発生時間が位置により違う、図 5.2.1~5.2.3参照)。
これは書架が高さ方向だけでなく、その長手方向でも振動(蛇行運動)していることを示すもので、位相差の大小が被害と関係していると言えよう。位相差が大きくなる原因としては、入力波の振幅・速度変化の度合い(加速度の大小ではなく小規模でも速度の急変が多いか少ないかの問題。車で急発進、急停車を繰り返すのと同じ)などが考えられる。

エルセントロ50kineY方向加振風景
写真2:エルセントロ50kineY方向加振風景
(上段の書籍のみ落下)

●まとめ

図書館の開架書架に求められる耐震性能は以下の項目である。  
(1)書架が壊れない
(2)書架が倒れない
(3)本を落下・飛散させない  

今回の書架は上記の(1)、(2)は満足しているが、(3)の条件を満たすことはできなかった。しかし、逆説的に言えば、積載物である本(特に上部の書棚の本)が落下することにより書架全体の質量が軽くなり、加わる地震時水平力が小さくなり書架が壊れる可能性が非常に低くなる。また、重心も低くなるので転倒に関しても同様になる。落下した本によりどの様な、どの程度の人的被害が生じるか判断できないが、少なくとも損壊、転倒した場合よりもその程度は低いと考えられ、書架の配置間隔を適切に余裕を持ったものにすれば、開架書庫全体の地震時安全性は高くなるであろう。

ところで、本は墓石と同じように地震時に剛体振動をする物体である。したがって、書棚と本の間の摩擦が切れた時点で本は滑り出し落下する。よって、本を落下させないためには書架本来の重要機能である本の取り出し易さを犠牲にするような方法で本を書棚に載せるか、書架自体が振動しないように免震機構を持たせなければならない。書架の機能を損なわずに前記の三項目を達成するには、書架あるいは書架をおく床・建物に免震機能を持たせるのが最も有効な方法である。これが今回の実験から得られた教訓である。

●おわりに

地震波を書架に入力させその耐震性を確認するのは重要であるかもしれない。だが、フロアレスポンスでない地盤面上の波で確認するのは妥当ではない。書架は、地盤上に置くのではなく、床の上に設置する。通常、床の応答加速度・振幅は地盤からの入力よりも増幅し高層建築物上階では数倍以上になる場合がある。したがって、入力波としては設置する建物の地震応答を解析により求め、その結果得られた床面の加速度波形(フロアレスポンス)を用いて実験を行うべきであろう。  

タフト50kine45’方向加振風景
写真3:タフト50kine45’方向加振風景

(1995年8月10日刊行)