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IPM(総合的有害生物管理)

イカリ環境事業グループ


contribution

寄稿: 川越 和四さん(イカリ環境事業グループ)、 山崎 一三さん(イカリ環境事業グループ) ※所属・部署は取材当時のものです
  
 

文化財保存環境モニタリングへの取り組み
 
 1970年代から文化財保存の現場は、駆除的対処法としての臭化メチル燻蒸が取り入れられ、常識的手法として定着していた。しかしその一方で1975年代より地球環境保護の視点からフロン等によるオゾン層破壊という問題が取り上げられるようになっていた。
 これは成層圏に達したフロンが強い紫外線によって分解され、フロン分子から遊離した“塩素”がオゾン層を破壊するという作用が明らかになったためである。“塩素”だけでなく、同じハロゲン族元素である臭素にも疑いがかけられるのは時間の問題であると考えられた。臭化メチルは1997年のモントリオール議定書第9回締約国会合において2004年末全廃が決定された。その後代替燻蒸剤も開発され文化財保存に使用されているが、文化財保存における生物劣化対策が根本的に見直されようとしている。
 
 こうした情勢の変化に伴って、IPMと呼ばれる手法が普及してきている。すなわち、保存施設内の生物的環境はどのような状態になっているか、さらに物理的・化学的条件はどうか、などといった総合的な現状調査を行い、保存環境が常によりよい状態で維持できるよう努めることが奨められており、すでに実行している施設等も多くなりつつある。
 我々は文化財保存分野において『無害・無影響』をコンセプトに地球環境にも優しく、文化財保存環境にも配慮できるIPMプログラムを推奨している。
 
 


 
 
博物館内のゾーニングと保存環境調査の項目
 
 IPMの取り組みは、博物館内外いわゆる外部周辺の環境状況や博物館内部の建物構造などを詳細に調査をして把握することから始めることが大切である。これらを把握することによりIPMプログラムを推進する場合や保存施設内の生物的環境結果の解析のときに役立つようになる。博物館関係者からよく耳にすることはIPMの取り組みを行いたいのだが、時間と人手がかかることと今まで年一回の駆除的対処法で通年的に採用されてきたことを予防的対処法に切り替えることがなかなかできないと悩みを聞かされることが多い。一度にすべての事をIPMプログラムに移行することは難しいかもしれないが、今まで通り一過性のガス燻蒸を行っていてもIPMプログラムの何か一項目でも行うことができるはずである。それは博物館内外の環境状況把握とその一つ昆虫類のモニタリングである。モニタリングは一過性のものだけでなく回数を長期間継続してデータ結果を積み重ねることと、その都度解析して文化財保存維持管理にフィードバックをすることにより迅速かつ的確に対応ができてくると考えられる。そのためにはIPMプログラムは最初から時間と人手をなるべくかけないようシンプルで継続できる方法を遂行することが望ましいと考える。さらにもう一つ追加すると博物館のゾーニング(区域分け)である。博物館のゾーニングは昆虫類のモニタリングを行う際の基本的なことである。昆虫類は野外の自然環境の中では何万種類も生息していて、人や文化財に対して害のあるものや無害なものも種類が沢山いる。それらをいかに博物館の中に侵入させないように防ぐことができるかがポイント(重要管理点)となる。よって博物館内においては『保存研究区域(収集した資料が常在する区域)』と『付帯管理区域(資料の保存環境を整備したり、館の運営に当たる区域』とに大別し、さらにそれぞれの区域を機能別に細分させ、昆虫類の侵入を防ぐことが必要である。これが博物館の保存環境施設の文化財を生物被害から守るためのバリアー機能の向上に繋がるものである。保存環境調査の調査項目との関係を表に示した。
 
IPMモニタリング(保存環境調査の項目とその手法)
 
 文化財保存は古来より自然の力を借りて『目通し、風通し』が行われていた。化学薬品の発展に伴い、いつしか基本的なことが忘れ去られ薬剤(ガス燻蒸)に頼る駆除的対処法的なことが行われてきた。しかし欧米をはじめ、世界中が文化財保護について報じられる中、文化財を保有する施設においては、駆除的対処法ではなく総合的有害生物管理『IPM』による予防的対処法が大切であることを最近では提唱しつつある。まさに古来の原点に返って文化財保存を考え直す機会にたどり着こうとしている。IPMモニタリングのいくつかを紹介する。
 
 
 

 
 
IPMに基づく文化財保存環境管理システム
 
 IPMの趣旨として、保存環境調査とIPMメンテナンスの組み合わせにおける管理システムを示した。基本的には、それぞれの博物館によって要求される項目は異なるかも知れないが、保存環境調査を行い、その結果を評価し、基準に照らして満足できる状態ならば、次回の定期調査に進み、もしも基準から逸脱している状況が確認された場合にのみ、その項目に対する処置を考え実行する流れとなる。
地球環境の保護が叫ばれる現在、できるだけ不要な殺虫剤など化学物質の使用は避け、文化財の保存環境を整えていく上で、これからの主流と考えていかなければならないのが、やはりIPMの目指すところといえる。その確立のためにも、多くの専門化によって調査結果を判断する基準の策定が求められると思う。
 
 

 
 
システムの設計・検証・監査等、システムの構築全般をサポートします。
 
 先人の残したかけがえのない文化遺産を子孫に伝えていく文化財保存は、自然環境をよりよい状態で後生に残していくことと同様、地球環境保護がもっとも大切な柱であるといえる。
 当社は『美しい街づくり』のもと21世紀への環境文化の創造に精励し、微力ながらもかけがえのない地球環境の保護および文化財保存に尽力したいと考えている。
 
 
(2006年)

PASSION31表紙
この記事は「PASSION vol.30」に収録されています
 
 
 

 

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