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郷土に根付いた「平和」の想いを受け継ぐ場所

天草市立天草コレジヨ館


interview


天草コレジヨ館
話し手:宮下 憲一さん (天草市立天草コレジヨ館 館長)、本多 康二さん (天草市観光文化部文化課 管理係長)
※所属・役職は取材当時のものです。
 
 
ー天草コレジヨ館とはどのような施設ですか?
 
 館の名称になっている「コレジヨ(collegio)」とはポルトガル語で「大神学校」を意味します。英語で“カレッジ(college)”に相当する言葉でもあります。かつて、ここ天草・河浦の地に約420年前にコレジヨが開校され、キリスト教の聖職者養成のための教育を行っておりました。現在のコレジヨ館は『コレジヨ展示室』『郷土先達資料展示室』『世界平和大使人形の館』などで構成される資料館です。平成25年にリニューアルする前は旧・河浦図書館とコレジヨ館が併設された総合文化会館という建物でした。平成25年3月に図書館は天草市役所河浦支所内に移転され、現在の「天草コレジヨ館」がリニューアルオープンしました。 
 
 
グーテンベルグ印刷機
グーテンベルグ印刷機(複製)
 
 
ーそれぞれの展示について教えてください。まず『コレジヨ展示室』について、大きなグーテンベルグ印刷機が目を引きますね。
 
 1590年(天正18年)に天正少年遣欧使節団は、日本人として初めてローマ法王に公式謁見し往復8年5か月を懸けて帰国しました。その際に持ち帰った数々の南蛮文化の一つがこれです。ぶどう酒絞り機をヒントにして、ドイツ人のヨハン・グーテンベルグの手により改良されたことからその名がつくようになりました。これが活版印刷機のはしりとされています。この印刷機を使って印刷された聖書が有名な「グーテンベルグ42行聖書」です。世界で現存する47冊のうち、1冊が日本にあります。当時、天草の地ではこの印刷機を用いて世界最大の印刷事業が行われていました。コレジヨが開校されていた1591年から1597年の足かけ7年の間にこの印刷機で印刷された本は29種類。これは「天草本」とよばれ、当時来日した外国人宣教師や学生たちの教科書として使われていました。現在、天草本は12種類が残っており、「平家物語」や「金句集」などがあります。「天草本伊曽保物語」は現在でも「イソップ物語」として知られています。今回の改修にあわせて、天草出身の造形作家gaju(本名:松岡志保)さんが「天草本伊曽保物語」をモチーフにした人形展示『ESOPO(イソポ)の宝箱』を制作してくださいました。これも『コレジヨ展示室』の目玉の一つとなっています。
 
ー『郷土先達資料室』ではどのような展示をされているのですか? 
 
 天草の炭鉱王 田中栄蔵氏と、天草出身の政治家 園田直氏の二人の先達を紹介しています。田中栄蔵氏は、河浦町(現・天草市)の発展の基礎を築いた人物です。明治・大正期、この地は炭鉱で栄えていました。その黄金期を支えたのが当時、旭無煙炭鉱株式会社を経営していた田中栄蔵氏です。炭鉱業はエネルギー政策の転換など時代の変遷により縮小していきましたが、その後も客馬車の開設、道路整備事業などといった交通インフラ整備、私立高等海員養成所の設立、信用組合の創立など、広範にわたり功績を残されました。園田直氏は内閣官房長官、外務大臣(3回)を務めた人物です。1978年、福田赳夫内閣の外相時代に日中平和友好条約の締結を成し遂げました。郷土が生んだ政治家として、コレジヨ館に保管されていたゆかりの品々が今回の改修にあわせてこのように展示されるようになりました。 
 
 
ガラスケースに入った人形
『世界平和大使人形の館』の展示風景
 
 
ー『世界平和大使人形の館』は一変して華やかな展示ですね。 
 
この人形たちは園田直夫人の園田天光光氏から寄贈されたコレクションです。きかっけは第一次世界大戦直後の1920年代にさかのぼります。当時は、日米関係があまり良好ではありませんでした。当時の状況を憂いた親日家の宣教師ギューリックが12,739体の青い目の人形を日本に贈りました。これが全国の小学校に配られ、園田天光光氏が通っていた小学校にもこの人形が届けられたといいます。その後、第二次世界大戦が勃発し、敵国の人形ということで焼却処分命令が下されます。そして1978年、戦火を逃れた300体ほどのうち3体を園田天光光氏が借り受けて東京の三越で展示会を行いました。その時に来場した一人の子供が「どうしてここには日本とアメリカの旗しかないの?」と尋ねたそうです。それを聞いた園田天光光氏が平和の使者である人形を世界中に贈ろうと考え、翌年の1979年、国際児童年に世界100か国に各国の大使夫人を通じて一対の市松人形を贈りました。その返礼で57か国から届いた人形117体がこの人形たちです。それぞれの人形はその国の民族衣装を着てパスポートを持っています。平成24年にこの人形たちの寄贈を受けて、当館で展示することになりました。ここではキャプション解説の他、スマートフォンを介した音声解説でも人形の特徴を紹介しています。壁面に埋め込んだタッチパネル式のディスプレイではそれぞれの人形の出身各国の解説や映像が表示されたり、クイズゲームを楽しんだりできます。また、操作画面が上下して、小さな子供や車椅子の方でも扱いやすい、バリアフリーの検索台で楽しく学べる工夫もしています。 
 
ーキリシタンの歴史から世界の人形の展示まで色とりどりですね。
 
 一見するとそれぞれ切り口の全く異なる展示ですが、共通するのは『平和』のキーワードです。キリスト伝来の背景にあったのは世界人類の『平和』への願いですし、園田直氏の日中平和友好条約締結も『平和』です。世界中から寄せられた人形たちはまさしく『平和』の証です。いにしえの頃から時代を超えて天草の地にDNAのように根付いていた『平和』への想いをひとつに集め、郷土の歴史と『平和』について学べる施設が、“学びの館=コレジヨ館”です。
 
ー今後、この施設をどのように発展させていきたいですか?
 
 その名の通り、平和学習の場として皆さんに利用していただけるようにしたいです。現在、来場者の方のご協力を仰いで折鶴を折っていただくスペースを設けています。この鶴が千羽になったら平和の使者として世界の平和を祈る施設に贈りたいと思っております。また、『世界平和大使人形の館』の隣には『平和学習室』というゾーンを設けています。この場を活用して、年齢を問わず、国籍も問わず色んな人たちが集って平和学習ができるような企画を展開していきたいと思っております。 
 
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。 
取材・文:矢賀部 仁 金剛株式会社 社長室
※取材当時 

PHOTO GALLERY

機会を操作する話し手

ぶどう絞りの要領でネジ式のレバーを手前に引くと圧盤が下がり圧力がかかる

がラスケースに展示された本

天草本(平家物語)

人形の展示

人形展示『ESOPO(イソポ)の宝箱』

郷土史料のの展示

『郷土先達資料室』の展示風景

市松人形

世界中に贈られた市松人形

キオスク端末を操作する少女

キオスク端末

話し手のお二人

天草市立天草コレジヨ館
所在地:熊本県天草市河浦町白木河内175-13
開館時間:9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:
月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌日が休館)
年末年始(12/29〜1/3)
TEL:0969-76-0388
FAX:0969-76-0080
入館料:有料
  

 
PASSION37表紙
この記事は「PASSION vol.36」に収録されています
 
 
 

 

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