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北九州の地からつなぐ
私たちのみらい

安川電機みらい館


interview


デジタルサイネージとロボットの融合
 
話し手
話し手:岡林 千夫さん 株式会社安川電機 人事総務部 安川電機みらい館 館長 ※所属・役職は取材当時のものです。

 
 安川電機の最新の技術、モノづくりの魅力、みらいへの創造。そんな空間を体感、学習できる施設が「安川電機みらい館」です。
 2015年、安川電機創立100周年事業の一環として整備された「ロボット村」の一部として同館はオープンしました。
 『地域』『子どもたち』というキーワードを元に、オープン当初から同館の運営に携わってこられた岡林館長に、コンセプトや取り組み、みらいについてお話を伺いました。
 
ーロボット村、安川電機みらい館などの設立に至った経緯、目的を教えていただけますか。
 
 2015年、安川電機は100年企業に仲間入りを果たしました。その記念事業を行うにあたって、「100年の歴史の継承すべきDNAの再確認」と「感謝の心をみらいにつなぐ」という二つのテーマを決めました。
 具体的には、創業の地である北九州へ恩返しがしたいという思いがありました。安川電機が築いてきたDNAには、諸先輩方の関わりもありますが、北九州という土壌無くしては語れません。そこで、北九州市について調査を行いました。人口減少に伴い、将来人口が年々減っていくことがわかってきましたが、15歳から19歳の若者は増えているというデータもありました。
 そんな北九州市の「黒崎」に安川電機は100年間立地しています。1988年に小倉を都心、黒崎を副都心と定め、商業的に経済を活性化させる「北九州市ルネッサンス構想」が立ち上がりました。当時は商業利益も多くありましたが、年々落ち込んでいきました。そこで、1992年に地域住民、企業、各種団体などの協力により「副都心黒崎開発推進会議」という組織が設立され、2015年には「新・黒崎まちづくり戦略 黒崎タウンドシップ宣言※1」として、黒崎のまちづくり計画資料を市長へ提出しました。資料には「北九州市とJR九州、安川電機が一緒になって、従来の商業一辺倒のまちづくりではなく、新しいまちづくりをする」という趣旨の内容が書かれています。黒崎は、産業地区と商業地区が隣接している全国的にめずらしいまちです。その特徴を活かした新しいまちづくりをきっかけに、2015年にロボット村を完成させました。ロボット村は、YASKAWAの森、安川電機みらい館、安川電機歴史館、ロボット工場、本社棟、厚生棟で構成されています。我々は、ロボット村を北九州市の産業観光に使ってもらえるような場所にしたいと思っています。
 
※1 タウンドシップはTown + friendshipを合成した黒崎発の造語
 
 

外観

 
 
ー安川電機みらい館のコンセプトについて教えてください。
 
 安川電機みらい館(以下「みらい館」という)は、ロボット村の中核を担う施設です。企画当時のコンセプトは「製造業のまち北九州として、ロボットをはじめとする安川電機の技術やモノづくりの魅力を伝える」、「来場者と多様なコミュニケーションを想定」と過去の資料に書かれています。
 当時、私は館長に急遽任命され、コンセプトを初めて聞いた時に「誰に対してだろう」という疑問を抱きました。そこからは、休み返上で企業博物館の情報を収集し、実際に2館にアポイントをとって、立ち上げた人の話を聞きました。その2館は「地域活性化」や「企業イメージ向上」「次世代育成」などのコンセプトを掲げていましたが、効果を測定する方法について尋ねると、どちらも「わかりません。来館者数ぐらいです。」という回答でした。私は、どのようにして効果を測定しようかと大変悩みました。
 そのようなときに、創業者である安川第五郎の信条だった「至誠通天※2」を想起するような出来事がありました。私はホテル業を主に手掛けているある方とお会いし、実際にみらい館を見学していただきました。その方に「ホテル業はディズニーに似ていて、ホスピタリティという観点では、『ここでしかできないもの』を大切にしており、それによる効果はほとんど考えていません。みらい館も同じではないでしょうか。効果ばかりを気にしすぎですよ。」と言われ、私は目からうろこが落ちました。
 この出来事をきっかけに社会や地域が期待することや、若者の理科離れに対してできることなどをリストアップし、「みらい館でしかできないこと」を考えました。疑問だったコンセプトの対象が『次世代を担う子どもたち』につながり、『安川電機らしさを活かして、新しい体験、気づき、学びの機会を提供すること』がコンセプトだと決めました。企業博物館はゴールが無いと思っています。コンセプトにいかに近づけるかを目標に日々業務に取り組んでいます。
 
※2 吉田松陰の言葉で「誠を尽くせば、願いは天に通じる」といった意味
 
 
内観
2F FUTURE EXPERIENCE

 
内観プロジェクションマッピング
自社製サーボモータ256個とプロジェクションマッピングが魅せるエンターテイメント
「メカトロニクスウォール」

 
 
ー子どもたちをはじめとした一般の方を意識した取り組みについて教えてください。
 
 子どもたちをターゲットに春休みや夏休みにイベントを開催しています。イベントでは、普段必要としている予約や年齢、人数などのみらい館の見学要件を不要にしました。具体的には安川電機の強みを活かして「モーターの手作り体験」ができるモノづくり教室を企画しました。はじめは、なかなかモーターが回らず苦労していた子どもたちでしたが、回った瞬間は満面の笑顔で喜んでいました。Webサイトと市内に数千枚のちらしを配った程度の告知でしたが、開催初日から列ができるほどのにぎわいとなりました。来館者数の3割が市外、県外からだったことは驚きでした。
 イベントを通じて、みらい館が地域を活性化させ、多くの方に安川電機のファンになっていただけるきっかけの場所になれると実感しました。同時に、やはり皆さんモノづくりに興味があるんだなということがわかってきました。
 その後も、地域イベントなどを開催し、仮説を立てて試行錯誤を繰り返しています。
 地域イベントは過去データの分析を元に、休日に開催しています。よく、駐車場の有無やお弁当を食べる場所を聞かれますが、あえて禁止にしています。黒崎は駅とまちが近いため、JRで来て、まちに出て食事をして帰ってもらいたいからです。まちと連携し、アイスクリームの無料券など特典を付けて、みらい館だけで完結させないような取り組みを行ったこともあります。
 そして、みらい館に隣接するYASKAWAの森は、平日の日中に一般開放することで、地域の方々のくつろぎの場としてご利用いただいています。最近は鳥もよく見かけるようになりました。近隣の保育園のお散歩コースにも利用されており、地域への恩返しの一つとして役割を担っています。
 
 
イベントの様子
モーターの手作り体験

 
公園のようなYASKAWAの森

YASKAWAの森 100周年にちなんで、九州各地から100種類の草木を集めて植えられている
 
 
ー来館される方々の反応はいかがですか。
 
 国内はもちろん、アジアを中心に海外からも、学生、企業などさまざまな方が来館されますが、いつも「スタッフの説明と接客」は大変好評をいただいています。
 実は、予約制、年齢、人数などの見学要件を撤廃し、自由観覧をできるようにしようと、スタッフが説明する内容を全てタブレットやパネル展示へ移行しようとしたことがあります。ただし、今はそうしたタブレットの利用などは一部のみとしています。来館者アンケートの結果で、「一番評価が高いのはスタッフの説明と接客」とわかったからです。
 博物館などは集客という観点から自由観覧が多いですが、我々は来館者にきちんとスタッフがついて、小学生や大人、お年寄りなど対象に合わせて説明を行っています。このような接客が、我々が考える『ここでしかできないもの』を実現している一つの要素です。
 スタッフの教育としては社内研修に留まらず、外部講習、博物館見学などにも取り組んでおり、マナー面ではスタッフ全員がユニバーサルマナー検定※3を取得しています。
 
※3 一般社団法人日本ユニバーサルマナー協会が主催している検定試験で、多様な方々へ向き合うためのマインドとアクションをユニバーサルマナーと名付けている
 
 
ーYASKAWAの森のように、環境を意識した取り組みも印象的です。その他にもエコに関して取り組まれていることはありますか。
 
 みらいへつなぐエコを追求するために「100のエコ」と称して、社員、関連会社と協力しながら100項目のエコに対する取り組みをリストアップしました。つくる、ためる、へらす、ひろう、賢くつかうという視点を元に、ロボット村では生産ラインの構築、建物の工夫、環境配慮設備導入、省エネ運用などに取り組んでいます。実際に、従来に対してCO2排出量が半減しています。
 
 
100のエコ展示

 
 
ーロボット業界の動向と今後の安川電機みらい館の展望を教えてください。
 
 カレル・チャペック※4によって「ロボット」という言葉ができてから、来年で100周年になります。ロボットというと「自動車業界向けの産業用ロボット」が多く活躍しています。今、中国を中心に電子部品業界向けが伸びてきていますが、医療や食品などの業界ではまだまだロボットに活躍余地があります。
 日本の課題である「人口減少」によって、約50年後には今の人口の半分になります。ロボットの使い方を考え、実践しながら、非製造業にも展開し、ロボットが活躍する機会をさらに増やしていくことが大切になってきます。みらい館としては、ロボットをより多くの業界へ普及させる一つのきっかけとして、動く本物のロボットを見せます。最近の博物館は、映像系、デジタル系を使っている展示が多いですが我々は違います。我々は、映像やバーチャルには頼りません。それが一つの『ここでしかできないもの』です。
 
 
一階ロボット展示

 
 
ー子どもたちと地域のつながり。確かなデータを元に、試行錯誤を繰り返しながら『ここでしかできないもの』を実現する安川電機みらい館。さまざまな取り組みがとても印象的でした。本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。
 
 
(取材日:2019年7月1日)
取材・文:藤本 和也 金剛株式会社 製造本部 開発一チーム

※取材当時 

安川電機みらい館
所在地:福岡県北九州市八幡西区黒崎城石2番1号
TEL:093-645-7705
開館日:月~金曜日の予約制(対象:小学5年生以上,団体様10~60名)
    詳しくはWebサイト上の工場見学カレンダー参照
休館日:土日祝日・当社休日・会社都合による見学休止日
URL:https://www.yaskawa.co.jp/robot-vil/miraikan/index.html
 

 
みらい館の壁面にある看板
40号表紙
この記事は「PASSION vol.41」に収録されています
 
 
 

 

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