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やなせたかし先生の多彩な創作世界を伝える、
家族で楽しめる美術館

香美市立やなせたかし記念館


interview

香美市立やなせたかし記念館
話し手:鈴木 康将さん((公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団 学芸員)、新谷 智子さん((公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団 学芸員) ※所属・役職は取材当時のものです。 
 
—はじめに、館の概要と特長を伺います。
 
 香美市立やなせたかし記念館・アンパンマンミュージアムは、アンパンマンの作者・やなせたかし氏のふるさとである高知県香北町に1996年7月に開館しました。当初の予想を上回る大勢の方々がアンパンマンの世界を楽しむために県内外から訪れたため、アンパンマン以外のやなせ氏の作品を展示し、漫画・イラスト・絵本・詩など幅広い芸術文化を発信していく場として、1998年8月に「詩とメルヘン絵本館」が新たに開館しました。そして、その他のイベントや地域の文化活動の場として2001年7月に「別館」が開館。2011年10月には収蔵庫を増設し、現在は「アンパンマンミュージアム」、「詩とメルヘン絵本館」、「別館」、「収蔵庫」の4棟で構成されています。 豊かな自然に囲まれ、日常の喧騒から離れゆっくりとした時間を過ごしていただける大人も子どもも楽しめる美術館です。県内外より年間約20万人の方が訪れています。
 アンパンマンミュージアムには、当館のためにやなせ氏が描き下ろしたタブロー画をはじめ、アンパンマンの絵本原画など、アンパンマンの世界を多彩に展示しているやなせたかしギャラリーや、「それいけ!アンパンマン」の過去のアニメ作品を上映しているアンパンマンシアター。アンパンマンたちが暮らす町をミニチュアで再現したアンパンマンワールドなどがあり、実際に触れたり探したりできるような仕掛けがあちらこちらにあります。館内に順路はありませんので、好きなように楽しんで観ていただくことができます。
 「詩とメルヘン」とは、やなせ氏が編集長となって1973年から30年間発行していた詩とイラストレーションの雑誌のタイトルです。詩とメルヘン絵本館では、やなせ氏の描いた雑誌「詩とメルヘン」の表紙原画や挿絵をはじめ、詩や漫画など、アンパンマン以外の幅広いやなせ氏の創作世界を紹介しています。来館して「これもやなせたかしさんの作品だったんですね。初めて知りました」と、その幅広い仕事に驚かれる方もいらっしゃいます。また、「詩とメルヘン」ゆかりの作家や国内外の絵本作家による原画展も開催しており、そういった企画展を楽しみに来て下さる方も大勢いらっしゃいます。 
 
—新しく増設した収蔵庫について伺います。施設計画について配慮したことや考えたことはありますか。
 
 もともと、アンパンマンミュージアムの3Fに1室、詩とメルヘン絵本館地階に1室の収蔵庫があったのですが、予想を上回る収蔵量の増加で収蔵スペースが不足し、窮状を知ったやなせ氏が建築し寄贈してくれることとなりました。そして、2011年10月、2階建て延べ712平方メートルの新収蔵庫が完成しました。
 庫内はまず、1Fにトラックヤードがあります。その奥に荷解き室と作品の調査などを行う一時保管庫があります。一時保管庫の奥には、アンパンマン関係の原画を保管している作品庫が1室あります。額装されている原画は箱に入れて移動棚に、額のないものは酸アルカリ吸着シートを入れたキャビネットに保存しています。
 2Fには、アンパンマン関連書籍や雑誌「詩とメルヘン」のバックナンバーはじめ、やなせ氏に関連する資料を保存する書庫が1室、アンパンマン以外のやなせ氏の作品や、その他の作家による作品を保管する作品庫が1室あります。作品庫内はすべて空調を温度20℃湿度55%に設定し24時間稼動させており、温度と湿度は空調の温湿度計のほか、自記式温湿度計で計測しています。また、各作品庫の入口には粘着マットを置き、埃の侵入を防ぐようにしています。 3Fには、アンパンマン関係の玩具・グッズ類の保存庫が1室あります。
 さて、収蔵庫の施設計画において配慮したことといえば、建物の壁面の装飾とエコロジーの2点が挙げられます。
 建物壁面には表側に縦8.6m、横21mのアンパンマン、裏側には縦7.5m、横21mのばいきんまんのモザイクタイル画が施されています。アンパンマンは2.5センチ四方のモザイクタイル273,840枚。ばいきんまんはモザイクタイル235,200枚。やなせ氏が収蔵庫のために描き下ろした原画をもとに、タイルを用いて再現しました。とりわけ赤いタイルについては見本にない色味のものだったため、特別に焼きました。「収蔵庫というのは窓がほどんどなく、愛想のない建物なので、思案した結果、外壁をモザイクタイルのアンパンマン壁画でカバーすることにしました。観光スポットであると同時に周囲の景観にとけ込むようにデザインは派手に、色彩は淡くおさえました。僕はミュージアムの前の広場が子どもたちの楽しい笑い声や歌声であふれるようにといつも夢見ています」とのやなせ氏の想いを受け、壁画にすることとなりました。
 また、もう一つの意向として、「環境に配慮したものであること」があり、屋上に太陽光発電を設置することとなりました。ただ、建設地が山に近く日照時間が少なかったため、大規模なものではなく、一般家庭用の太陽光発電を導入しています。ちなみに、収蔵庫内の天井照明は、ほぼ全て消費電力の少ないLEDにしています。
 
—実際に開館してみて気づいた点や課題などはありますか。
 
 周辺に自然が多いため、虫の侵入および虫害、トラックヤードや通路の湿度が不安定になるなどの心配があります。一時保管庫というクッションがあるおかげで、まだ作品庫に虫やカビが発生したことはありませんが、現在、建設会社とも打ち合わせをして、よりよい解決方法を模索しているところです。
 収蔵庫の環境だけでなく、作品保存についてもよりよい方法を模索中です。現在は作品庫において、同じシリーズの原画ごとにまとめて、箱に入れて保管しています。地震などがおこった際、原画への衝撃を和らげてくれるというメリットがあるため、原画を箱に入れて保管していますが、ダンボール箱から発生する酸によって原画がダメージを受けないかどうか心配です。中性紙保存箱に移して保管するという手段が最良かもしれません。また、当初の予定から変更して移動棚への作品の出し入れを片側のみから行うことにしましたので、出し入れする方向と反対側の支柱の袖孔に、さらしをねじって作ったひもを張ることで落下防止として使用しています。これは他館の方から教えてもらった工夫です。
 そのほか、庫内の収蔵棚には間仕切りをつけた仕様のものもありますが、設置時にはどの棚にどの作品を収納するか決定しきれていなかったので、実際に作品を入れてみて、サイズに合わせて間仕切りを外したりしました。さまざまな作品にも臨機応変に対応し、安定した保存環境で管理できるようにしていきたいと思っています。 
 
—今後の展望を教えて下さい。 
 
 作品の保存に関しては、収蔵庫内の保存環境や保管方法についての課題を解決し、よりよい活用を考えていきたいです。湿気や虫害のリスクなどについても、文化財虫菌害防除作業主任者の資格を持つ学芸担当者もおりますので、今後はIPMの勉強などを通じて更に知識を深めることが解決の糸口になると思っています。今のところ害虫の発見やカビの発生などはありませんが、常にベストな環境・方法を考えていきたいと思います。
 これからも、やなせたかし氏の多彩な創作世界について更に多くの方へ知っていただくために、より積極的な情報発信を行っていきたいと考えています。 
 
—本日はありがとうございました。
取材・文:木本 拓郎(金剛株式会社 業務本部)
     原田 亜美(金剛株式会社 社長室)

 

PHOTO GALLERY

やなせたかし記念館外観
キャビネット
移動棚
移動棚

香美市立 やなせたかし記念館  
所在地:高知県香美市香北町美良布 1224-2
開館時間:9:30〜17:00(7月20日〜8月30日は9:00〜17:00)
休館日:毎週火曜日(火曜日が祝日の場合は、その翌日)
    ※但し、下記の期日は無休期間です。
    3月25日〜4月6日、4月29日〜5月5日、
    7月20日〜8月31日、12月24日〜1月7日
URL:http://www.anpanman-museum.net/

PASSION37表紙
この記事は「PASSION vol.35」に収録されています
 
 
 

 

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