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日本のトイレ革命はここから始まった
便器のストーリー

TOTOミュージアム


interview


赤い便器の展示

話し手
話し手:大出 大 さん(右)TOTOミュージアム 館長、山崎 明子 さん( 中)TOTO株式会社 広報部 本社広報グループ、宮副 琢 さん( 左)TOTO株式会社 広報部 本社広報グループ ※所属・役職は取材当時のものです。

 
 
 物心がつく前から誰もが毎日お世話になっている製品。TOTO株式会社は「衛生陶器」、耳馴染みのある言葉で言い換えると「便器」「洗面器」をはじめとする住宅設備機器を長年 に渡って製造・販売している。
 今では当たり前の、毎日の生活には欠かせない衛生陶器。しかし、それが日本人の生活に根付くまでには長いストーリーがあった。
 TOTOミュージアムを一周すると、日本の水まわりの歴史が見えてくる。
 
 
水滴マークのロゴと建物
 
 TOTO株式会社は、北九州市小倉北区に位置している。
 小倉は不思議な魅力のあるまちで、北九州中心地の都会でありながら昭和を感じるまち並みや市場が残っている。小倉の観光ガイドでも「昭和レトロ」を特色の一つに挙げており、整備された綺麗な駅を出ると、昭和の雰囲気を感じられるエリアが日常風景としてあちこちに広がっている。
 TOTOミュージアムはその小倉駅からバスで15分程の場所に位置しており、TOTO株式会社本社の敷地内にある。車を走らせると国道3号線沿いの交通量の多いエリアに、丸みを帯びた白い建物が見えてくる。
 建物は「水滴」と「緑豊かな大地」をイメージしてデザインされており、「人と地球のまいにちに潤いをもたらす環境作りに貢献する」というメッセージを表現している。水滴をイメージした特徴的な建物形状そのものがTOTOミュージアムのロゴマークにもなっている。また、白を基調とした館内の様々な場所にも水滴の装飾が施されており、訪れた人は清潔感のある柔らかい空間に包まれる。
 
 
外観

 
ミュージアム一階の案内板
水滴があしらわれた案内板
ディテールへの配慮がこの柔らかい清潔感のある空間を作り出している
 
 
小倉の地で102年目
 
 オープンは2015年8月28日。近隣の方々に親しみをもっていただくことを想定し、当初は年間2万人ほどの来館者を見込んでいた。しかし、初年度には9万5000人もの方が来館、その後は年間7万人程が訪れており、想定を大きく上回る来館者でにぎわっている。無料で見学できる企業ミュージアムとして観光雑誌にも取り上げられており、海外からの来館者も1割ほどいる。
 TOTOの原点は明治45年(1912年)に名古屋の地で事業をしていた日本陶器合名会社(現:株式会社ノリタケカンパニーリミテド)内に作られた製陶研究所だ。まだ下水道も十分に整備されておらず、国産の腰掛式水洗便器が日本に存在していなかった時代の話である。1900年初頭から舶来品の衛生陶器が輸入されてはいたが、高級な建物にしか備え付けられておらず、一般には普及していなかった。
 後にTOTO初代社長となる大倉和親は、視察で訪れた欧州で、便器や浴槽、洗面器などの衛生陶器がもたらす衛生的な水まわり文化に触れ、やがて日本にも必要になると確信した。明治45年(1912年)より製陶研究所で国産品の開発が開始され、2年後の大正3年(1914年)に国産初の腰掛式水洗便器が誕生した。明治以降の近代化を進める中、様々な分野で「欧米をお手本に追いつけ追い越せ」といった進歩や発展があったが、日本の水まわりの変遷もそうであった。
 そして大正6年(1917年)、大倉和親は「原料の入手先が近い」「燃料の産出場所が近い」「輸出の際の積み出し港が近い」といった理由から、小倉の地に「東洋陶器株式会社(現:TOTO株式会社)」を設立した。
 創立の地から東京に本社を移す一部上場企業も多いが、TOTOは創立時より小倉から本社を移していない。100年以上、小倉の地で地域と共生しながら存続してきた。
 TOTOミュージアムを小倉に造ったのも、創立の地をこれからも大切にしていきたい、という意志の表れだった。自然に溶け込むユニークな外観は、周囲との環境の調和を図ってい る。
 
 
第1展示室
第1展示室
   
 
会社のDNAを伝える場所
 
 TOTOミュージアムの第2展示室には荘厳な雰囲気の「TOTOのこころざし」というコーナーがある。創立者や歴代の社長の想いに触れられる場所だ。展示品の中に、初代の社長大倉和親から2代目社長に送られた書簡があった。これはTOTOの経営思想を表している根幹の言葉で、「先人の言葉」として脈々と受け継がれている。(下図参照)
 
 
先人の言葉
「先人の言葉」
 
 
 館長の大出さんによると、ここは「会社のDNAを伝える場所」。大出さん自身、ミュージアムの中で一番大切に思っている場所だ。
 
 「やっと100年企業の仲間入りをさせていただきましたが、100年続くのは難しいことだと思います。様々な困難を乗り越えてきた背景には、創立時からの普遍的な想いがあり、それがなければ今日のTOTOはなかったと思います。
 若い人と話をすると、彼らは生まれた時から洋式の便器があり、「ウォシュレット※1」があり、TOTOは保守的な会社、と思っている方が多い。ウォシュレットは販売を開始してから今年で39年目になりますが、元々日本になかった“おしりを洗う”という文化を根付かせました。また、さまざまな革新的な商品の開発により人びとの生活を豊かにしてきた自負があります。」
 TOTOが創立時からつくってきた洋式便器が、従来の日本のスタイルだった和式便器の出荷数を上回ったのは創立から60年後の1977年だった。洋式便器を日本に浸透させ、現在の快適なトイレに欠かせない温水洗浄便座を普及させる土台を作ったTOTOは、快適な生活文化を創造しつづけてきた。
 T O T Oミュージアムは地域の方々や取引先のお客様はもちろんだが、一般社員も来館者の対象として考えている。
 TOTO社員の方に話を伺うと、ミュージアムを訪れ創立者の言葉に触れることで更に理解が深まった、と教えてくださった。百聞は一見にしかずというが、モノには力がある。
 このコーナーでは創業の想いや創立者の言葉、関連する資料や商品を見せることで「TOTOの姿勢を世の中に伝えていこう」「TOTO社員として引き継いでいこう」という想いを表している。
 
 
第2展示室入り口
第2展示室 大出館長の言う「会社のDNAを伝える場所」
 
ミニチュアの便器

 
箱に詰められたミニチュアの便器
第2展示室に展示してある、戦後間もない頃の衛生陶器商品の模型
当時はショールームもなかったため、商品のイメージを分かりやすく伝えるために、営業はこれを持ち歩いて説明した(下写真)
 
洋式トイレの使い方の啓発ポスター
ミュージアムにはTOTO製品のみならず、日本の水まわりの歴史も紹介されている
洋式トイレや水栓金具の黎明期には、国が使い方の啓発ポスターも製作していた
 
※1 「ウォシュレット」はTOTOの登録商標
 
  
はじまりは社員の想い
 
 実はミュージアムができる以前から、T O T Oには歴史資料館があった。水まわり製品は入替と同時に捨てられてしまうもので、保存されずあまり残ってはいなかった。しかし、「こういうものは残していかないといけない」と古い製品を現場で回収して、少しずつ集めていた社員がいた。展示品が集まったところで、元女子寮だった建物をリノベーションして、20 07年に歴史資料館はオープンした。
 他の企業ミュージアムでは、企業方針として製造ラインからあがった初号機を展示用に保存すると ころもある。
 しかし、TOTOの歴史資料館のように一社員が自発的に始めた収集がミュージアムまで進化したことも、企業の在り方として正解ではないだろうか。歴史資料館誕生秘話から、「社員は人財」という言葉を思い出した。全てのことは人が為している。
 
たくさん並べられた便器
世界では水資源が逼迫している地域もある中、TOTOは早い段階から節水のチャレンジをしてきた。かつては一回の洗浄水量は20Lだったが、今では3.8Lにまで減らすことができている
 
 
それぞれが大切にしているもの
 
 館内を案内いただいた宮副さんは、「私は食器の展示に思い入れがあります」と話してくれた。TOTOミュージアムには多数の食器が展示されている。下水道の整備が十分にされておらず衛生陶器の需要がそれほどなかった時代、このままでは会社の経営が困難になる、と会社創立の翌年より食器の製造販売を開始した。それから1970年まで、実に50年以上もの間TOTOを支えてきた。
 また、同じく案内してくださった山崎さんの思い入れのある展示品は初代ユニットバスルームだ。実は、国産初のユニットバスルーム※2はTOTOの開発商品である。1964年の東京オリンピックに合わせて、ホテルニューオータニは急ピッチで建設を進めており、短工期で完成する浴室が求められ考案された。その後40年以上経過し、初代ユニットバスルームは現存しないものと思われていた。しかし、TOTOミュージアムがオープンする1年前に、ホテルニューオータニの使われていなかった客室で偶然に発見され、ミュージアムに移設された。その後、2 016 年に初代ユニットバスルームは、一般社団法人建築設備技術者協会により「建築設備技術遺産」に認定された。TOTOのみならず日本にとっても貴重なものだ。
 ミュージアムに展示されているモノは人と人、人とモノとのご縁が繋がり、今日私たちにその姿をみせてくれている。
 社員の想いから始まった歴史資料館はミュージアムへと成長を遂げ、役目を終えた製品はさまざまなプロセスを経てミュージアムに集まり展示されている。来館者は製品とそれに関わった人たちの想いから歴史を学び、多様な価値観を引き出して未来を創造していく。
TOTOミュージアムから感じたことは、社員一人ひとりが大切にしている想いが未来へ受け継がれている確かな流れだった。
 
※2 JIS規定による 
 
 
ユニットバスルーム
山崎さんの思い入れのあるユニットバスルーム
ホテルニューオータニに納入した初代モデルで平成28年(2016)に(一社)建築設備技術者協会より「建築設備技術遺産」に認定された
 
瑠璃色のティーカップ
宮副さんがお気に入りの食器コーナー
当時TOTOがその色を出すのを得意としていた瑠璃色の食器で、現在のTOTOのコーポレートカラーになっている
 
TOTO初代ロゴマークが入った陶器
唯一現存する初代ロゴマークが入った衛生陶器
 
 
 
(取材日:2019年7月29日)
取材・文:宮﨑 涼子 金剛株式会社 復興推進本部 海外事業チーム
※取材当時 

TOTOミュージアム
所在地:福岡県北九州市小倉北区中島2-1-1
TEL:093-951-2534
開館日:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日、夏季休暇、年末年始
URL:https://jp.toto.com/museum/
 
 

 
トイレ川柳

ミュージアムショップでは、2005年にウォシュレット®2千万台突破を記念して始まったトイレ川柳が印字されたトイレットペーパー型の川柳集や、ミュージアムのオリジナルグッズが並んでいる

40号表紙
この記事は「PASSION vol.41」に収録されています
 
 
 

 

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