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第3世代のマンガミュージアム
地域活性化への挑戦

合志マンガミュージアム


interview

話し手
話し手:橋本 博 さん 合志マンガミュージアム 館長 NPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクト 代表
※所属・役職は取材当時のものです。
 
 
 県産材で作られた立方体が並ぶ空間で、くつろぎながら約1万5千冊のマンガが読める施設。それが、平成29年7月にオープンした合志マンガミュージアムです。バックヤードを含め、施設全体で約4万冊のマンガが保管されています。
 「地域密着型のマンガミュージアム」として注目される同館。かつてマンガ専門の古書店を営んでいた橋本館長に、マンガの力を使った地域活性化への挑戦についてお話を伺いました。
 
 
合志マンガミュージアム外観

 
 
ー国内にある80館以上のマンガ関連施設と比べた際に、合志マンガミュージアムはどのような位置づけだとお考えですか?
 
 私は合志マンガミュージアムを「第3世代のマンガミュージアム」だと考えています。「第1世代のマンガミュージアム」は、宝塚市立手塚治虫記念館(兵庫県宝塚市)や石ノ森萬画館(宮城県石巻市)のようにマンガ家個人を顕彰する施設で、「第2世代のマンガミュージアム」は京都国際マンガミュージアム(京都府京都市)をはじめとする、都市部にある大規模なマンガミュージアムを指します。当館はそのどちらにも属さない、地方都市にある小規模で地域密着型のマンガミュージアムです。幅広いマンガを扱いながらアーカイブ機能も兼ね備えています。
 
 
コンビニ本が置かれたフリーゾン
入館料がいらないフリーゾーンにはコンビニ本を配架

 
ショーケースに展示されたマンガ雑誌
貴重なマンガ雑誌や貸本マンガはガラスケース内に展示

 
 
ー地域密着型のミュージアムということですが、オープン後、周辺にお住まいの方の反応はいかがでしたか?
 
 ミュージアムがある合志市はベッドタウンですから、行政は地域を観光で活性化することは難しいと考えていたようです。しかし当館ができたことで一気に知名度が上がり、フリガナがなくても「合志」を「こうし」と読むことができる方が増えてきたみたいですね。地元住民の中には「遠方に住む親戚に『合志市ってマンガミュージアムがあるすごいところなんだってね!』と言われたんです!」と喜んでいる方もいらっしゃいます。先日催した開館一周年の記念イベントには、大変多くの地元の方々が参加してくださり、たった一年でこんなに地域に愛される施設になるとは予想外でした。
 
 
合志マンガミュージアム内観
思い思いの姿勢でマンガに没頭

 
 
 一年間での来館者数は開館当初に目標としていた倍の3万人を超え、その多くを占めるのが地元の方々です。小学生を筆頭に様々な年代の方に利用されています。地元小学校の社会科見学や、中学校の職場体験学習、長期休暇に実施される先生方の研修も積極的に受け入れています。ただ「マンガが読めるところ」というだけではなくて、公的施設を利用する訓練や社会経験を提供する場としても地域に貢献したいと考えているからです。
 合志市には書店が一軒もないので、新刊書籍等に触れやすい環境とは言えません。しかし、だからこそマンガミュージアムの存在価値があると思っています。当館では隣に建つ合志市西合志図書館と合同イベントを企画するなど、協力・連携しながら活動しています。児童書は図書館で、マンガはマンガミュージアムで、といったように、図書館とマンガミュージアムを行ったり来たりする親子連れも見かけます。両館の存在が、この地域の書籍文化に寄与できているのであれば嬉しいですね。
 
 
合志マンガミュージアム内観

 
合志マンガミュージアム内観
お気に入りの場所でマンガを楽しむ

 
 
ーミュージアムが様々な角度で地元の方々の暮らしに根付いている様子が伺えます。これから地域の活性化が期待できそうですね。
 
 そうですね。ですが、ミュージアムという「ハコ」を作っただけでは、本当の意味での地域活性化は期待できません。施設から地域が持つ価値を発信して、まずは住民が地域の魅力に気づき、その地域への矜恃(きょうじ)、つまり「プライド」を持つことが重要なのです。
 そのために有効だと考えているのが、マンガを「作る」ことです。地域に眠っている偉人や受け継がれている文化をストーリー化して、地域を紹介する「ご当地マンガ」を制作するのです。私が代表を務めるNPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクトなども協力しながら、すでに数冊を刊行し、現在熊本の地元紙にも連載中です。
 先日刊行した熊本県天草地方を舞台にしたマンガは、天草市から相談が寄せられたことをきかっけに制作がスタートしました。出来上がったのは石工の物語です。世界文化遺産に認定された大浦天主堂をはじめとする長崎県の歴史的建造物に、彼らの技術が発揮されていることをストーリーにしました。そのように誇らしい歴史があるにもかかわらず、地元の方ですらマンガを読んで初めて知った方もいらっしゃったようです。
 合志市にも明治期から終戦後しばらくまで続いた合志義塾という私塾がありました。独特の教育方針で全国的に有名な学校でしたが、今では知っている人も少なくなっています。そこで『カタルパの樹-合志義塾ものがたり』という学習マンガを作りました。画力、ストーリーのクオリティーの高さが評価されて熊本日日新聞社の出版文化賞を受賞したこともあります。
 「うちのまちには何もない」なんて言う方もいますが、本当は知らないだけで、各地域にはマンガにできるくらい素晴らしいエピソードやキーパーソンの足跡が眠っているはずなんですよ。地域密着型のマンガミュージアムとして、集めたマンガを並べるだけではなくて、地域を巻き込んだ企画を打ち出すことも重要なミッションだと考えています。
 
 
熊本ゆかりのマンガ家コーナー
熊本ゆかりのマンガ家コーナー 熊本県は人口に占めるマンガ家・評論家・研究者が多い

 
歴史別に分けられた本棚
1960年代から2010年代まで10年刻みで配架

 
 
ー第3世代のミュージアムである合志マンガミュージアムには、アーカイブ機能も備わっているのですよね。
 
 マンガミュージアムの館長という立場以前に、一人のコレクターとして、そしてマンガを愛する者として、今まで日本で刊行された膨大な量のマンガがきちんとアーカイブされていない現実を危惧しています。同時に、出版業界の低迷によってマンガそのものが無くなっていくのではないか?と危機感を募らせています。
 実際、管理する場所と人手の不足を理由に、他のマンガミュージアムや図書館などから当館宛てに続々とマンガが送られてきています。当館がオープンする以前から私が個人的に集めていたコレクションや知人から受け継いだものと合わせると10万冊以上になると思いますが、冊数が多すぎて途中で数えるのをやめてしまったほどです。
 私はそれらのマンガコレクションは、次の世代に渡すために一時的に「預かっているもの」だと思っているんですよ。とにかく現物を残して、選別や評価は次世代に託すつもりです。そのためにも当館のようにアーカイブ機能を持った施設が欠かせませんが、どんどん増えていく蔵書の管理を小さな当館だけで行うのは限界があります。ですから、他のマンガミュージアムや自治体などとネットワークを作って協力し合う必要があるんですね。最終的には国レベルでマンガをアーカイブする必要があると思っています。
 現物を保存するには土地が必要ですから、いっそのこと当館のある合志市を中心に、熊本県を全国のマンガの収蔵拠点にできないか?と構想しています。これは大都市ではなく、合志市のように土地にゆとりのある地域にしか果たせない役割です。
 そのように大きな夢を描きながら、この合志マンガミュージアムをマンガが大好きな人たちが集まる「聖地」にしたいと考えています。同時に、地元の人たちに愛され続ける施設であることも目標です。
 
 
バックヤード
橋本館長にバックヤードを案内していただく コンテナの中身は全てマンガ

 
 
 マンガを使った町おこしに関心のある自治体からの問合せも、県内外問わず増えています。当館が所蔵するマンガは寄贈されたものがベースですし、施設も使われなくなった旧郷土資料館をリノベーションしたものです。開館のための大規模な予算が必要ないので、小さな自治体に適したモデルケースとして注目を集めているのでしょう。
 海外では日本のマンガが学術的研究対象としても高く評価されていますが、日本でもようやくその価値が見直されてきました。未来へ残すべき「文化財」としてマンガの地位が向上すれば、自分の住む地域にマンガミュージアムがあることが住民にとって誇りになります。これからもマンガを使った町おこしはますます発展していくことでしょう。そうして生まれた自負心が地域を活性化させる原動力になるのではないかと思います。
 
ー地域密着型マンガミュージアムのパイオニアである合志マンガミュージアム様のこれからの動きにますます注目が集まりそうですね。本日はありがとうございました。
 

(取材日:2018年7月26日)
取材・執筆:宮脇 薫子 金剛株式会社 復興推進本部 戦略室
※取材当時 

合志マンガミュージアム
所在地:熊本県合志市御代志1661-271
T E L: 096-273-6766
開館時間:10:00~18:00
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、
    毎月末日(土・日・祝を除く)、年末年始
    ※展示替えによる臨時休館あり

URL:http://koshi-mm.com/
 

 
講師マンガミュージアム看板
40号表紙
この記事は「PASSION vol.40」に収録されています
 
 
 

 

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