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『知恵の蔵』を担う人を育てる

和歌山大学附属図書館


interview

話し手:渡部 幹雄さん(和歌山大学附属図書館 館長) ※所属・役職は取材当時のものです。

1F ラーニング・コモンズ
 
 

2014年12月に新棟がオープンした和歌山大学附属図書館。そのリニューアルを牽引して来られた渡部館長にお話を伺いました。
 
 ―もともとは地方公務員として公共図書館にいらっしゃったそうですね。
 
 はい。長崎県北高来郡森山町(現・諫早市)と滋賀県愛知郡愛知川町(現・愛荘町)で町立図書館の立ち上げに携わり、愛知川町立愛知川図書館の初代館長も務めました。どちらも立地条件は良いとは言えませんでしたが、そのような中でも地域の方々に大変喜んで使って頂ける図書館をつくることができました。こうした経験から私は、図書館は 地域に合った “オーダーメイド”のものを作るべきだという信念を持っています。図書館はその地域の課題を解決することで、地域に貢献できる場であるべきです。過疎地域なら過疎地域に役に立つ設備や選書を用意する。それができれば、たとえ立地条件は悪くても必ず人は来てくれます。また、図書館づくりや運営をするにあたって国内外の図書館を数多く視察しました。その中で、やはり図書館こそが地域の繁栄を支える 『知恵の蔵』だと確信しました。何か特色があって繁栄している地域には、必ず立派な 図書館があったのです。
 そのような考えを確立しながら愛荘町の教育長も務め終えたころ、和歌山大学附属図書館で図書館改革のプ ロジェクトがあるとのことで、山本前学長からお声掛け頂きました。そして2010年にこちらに赴任したのです。  
 
―図書館は地域 の課題を解決し、地域に貢献するべきとおっしゃっていましたが、大学図書館としては地域をどのように意識されているのですか。
 
 やはり大学図書館と してできる一番の地域貢献は、人材を育ててその地へ輩出することだと捉えています。私自身は特に地域の『知恵の蔵』である図書館を支える人材の育成に注力すべきと考え、教授という立場で「地域図書館論」などの講義を担当しています。学生を実際に図書館に行かせて調査させ、改善提案をさせるなど、現場を重視した実践的な教育をしています。
 

 

1F カフェ
 
リニューアルによって開放的な空間になった2F閲覧席
 
 

―「人を育てる」ことを通して地域へ貢献することを意識されているのですね。2011年から取り組まれた和歌山大学附 属図書館のリニューアルにも、その考えが表れているのでしょうか。
 
 そうですね。和歌山県の地域特性に関する知識と、学際的な広い視野をあわせ持った人材を育てるために、図書館棟の中に紀州経済史文化史研究所、教養の森センター等も同じ建物内にあります。
 図書館の内部も、学生にとって使いやすいよう整備し、新しい施設を「クロスカルセンター」と名付けまし た。「クロスカル」とは、「Cross(クロス)」と「Culture(カルチャー)」「Local(ローカル)」を掛け合わせた造語です。大学図書館を、教養・文化・国際・地域資源・人材などの『ロ-カル』・『カルチャー』が集い、『交流(クロス)』する場にし、それによって新しい価値を創造できる場にするという考え方です。
 
―クロスカルセンターの概要について具体的に教えてください。 
 
 フロアごとに機能分担をし、利用の段階にあわせて回遊しながら階を上っていく構造になっています。1Fは「コモンズ(共用空間)・出会いの広場」としてラーニング・コモンズのスペースやカフェを設け、人が集いやすいフロアになっています。2Fは「教養の門・知識の交差点」として、調査相談や教養を深める場です。3Fは講座やアクティブラーニング、論文指導などを行う「企画・発信・交流」の場としています。4Fには教養の森センターが入っており、学際的な視野を育成する場としています。
 それからリニューアル時には、学生に寄り添った目線で考えることを意識し、工夫しました。3Fにある教員の部屋はガラス張りにし、中がどうなっているかが外からも一目でわかるようにしています。中にいる教員と目が合えば、学生も入って来たり話しかけたりしやすいですよね。ちなみにそれまで館長室だった部屋はマルチルームにし、壁一面をホワイトボードやスクリーンにしてしまいました。「学生を育てる」以前に、学生にとって使いやすい図書館でなければいけません。

 
 


3Fマルチルーム 討論形式の授業の様子
 

壁が一面ホワイトボードになっている

 

4F教養の森センター
 
 

 ―リニューアルの中で苦労されたことはありますか。 
 
 ゼロから作った公共図書館と違い、既にあるものを変えていく苦労はありました。私が来た当初の図書館は、箱に入れられた資料が山積みになって廊下に置かれていたり、マイクロフィルムも劣化して酸の臭いが立ち込めていたりして、図書館というよりは本の倉庫、むしろそれ以下の状態でした。ゼロというよりむしろマイナスからのスタートでしたね。まずは学内の使われていなかった旧ボイラー室を改造して貰って、資料をそちらに緊急避難させました。マイクロフィルムについても専門機関に問い合わせながら応急処置を施し、それからやっと設備の改善に取り掛かることができました。
 最も大変だったのはやはり人に関する部分で、図書館職員の方々の意識を変えることでした。図書館は静かにして当たり前という考えがはびこっていたので、カフェを併設したり話しても良いラーニング・コモンズを作ったりすることを理解してもらうには時間がかかりました。たしかに利用者に静かにしてもらうほうが、運営する側はリスクコントロールが少ないため、楽なのです。しかし、楽な仕事は機械にもできてしまいます。図書館職員のすべきことは人間力の要る仕事です。図書館はただ本を貸し出すところではなく、人々や地域の課題を解決し、人を育てる場でなければなりません。そのために、すべての情報をコーディネートし、噛み砕いて伝えることが図書館職員には求められるのです。こうした私の思いを、毎月全職員で行うミーティングの中で繰り返し話すことで伝えてきました。また、職員全員に担当のコーナーを割り振って役割を与えるなどの地道な取り組みによって、少しずつ新しい図書館観を理解して頂けるようになりました。  
 
―施設だけでなく、職員の意識についても改善に取り組んでこられたのですね。利用者の反応はいかがですか。 
 
 平成26年度の利用者は279,354人で、様々なリニューアルに取り組み始めた2011年4月時点からは約90,000人の増加となりました。また、今年の7月末には1日の利用者数が2,807人を記録したこともあり、約4,100人の和歌山大学の学生の約7割が図書館を利用したことになります。リニューアル前には1日の利用者が1,000人を超えることもほとんどなかったようですので、この数字は快挙と言えるのではないかと思います。新たに整備したラーニング・コモンズなどは、毎日ほぼ満席状態です。
 それから図書館に関する講義を受講した学生のレポートに、「将来図書館で働きたい」という記述があったことも一つの成果だと感じています。 
 
―学生が使いやすく、そして人が育つ場へと附属図書館が変わってきていることの表れですね。今後の課題や展望などはありますか。 
 
 「自分が図書館を作る」「自分が図書館をもっと良くする」といった使命感を持って、各地の図書館の現場で働く人をもっと育てていきたいですね。大学で図書館学を学んでも、結局は企業に就職する人が全国的には多いという現状があります。そうではなく、時代を切り拓く意識とミッションを持って、自主的に地方の図書館へ行ってほしいと考えています。
 和歌山県は過疎地域で、日本の課題を凝縮している地域です。そこに位置する和歌山大学だからこそ、地域、ひいては日本や世界の課題に目を向け、地域の『知恵の蔵』を支える人材を育てられると思います。 
 
―ご自身も図書館の館長でありながら学生の教育に携わるなど、人を育てること、それを通して地域に貢献することに尽力されている姿勢に感動いたしました。本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。

(取材日:2015年7月29日)
取材・執筆:原田 亜美 金剛株式会社 社長室
※取材当時 

PHOTO GALLERY

緑の電動移動棚

2F開架図書エリア
水色の電動移動棚

3F 開架図書エリア
丸いテーブルと赤い椅子が置かれた部屋

3F メディアルーム ホワイトボード仕様の机が設置されている
腕組みする館長

渡部館長

和歌山大学附属図書館(クロスカルセンター)
所在地:和歌山県和歌山市栄谷930
T E L :073-457-7905
休館日:試験期を除く日曜日、国民の祝日・休日ほか
    詳細は下記URLを参照してください。
U R L:http://www.lib.wakayama-u.ac.jp/

PASSION37表紙
この記事は「PASSION vol.39」に収録されています
 
 
 

 

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