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読書の新たな魅力を創出する
「共読ライブラリープロジェクト」への取り組み

帝京大学メディアライブラリーセンター


interview

黒板塗装が施されたスチール書架
話し手:中嶋  康さん(帝京大学メディアライブラリーセンター グループリーダー)、中満 恒子さん( 同上 チームリーダー・運営管理担当)、辺見 純子さん( 同上 チームリーダー・情報利用サービス/企画システム担当)、堀野 貞美さん( 同上 チームリーダー・情報メディアサービス担当) ※所属・役職は取材当時のものです。
 
 

  
—はじめに、帝京大学メディアライブラリーセンターの概要と特長について伺います。
 
 帝京大学メディアライブラリーセンター(以下、MELIC)は、2006年に新館としてオープン後7年目になります。MELICのある八王子キャンパスは人文・社会学科系を中心に6学部11学科と短大2学科で構成され、約18,000人の学生が在籍しています。蔵書数は68万冊、職員数は13名、2012年度の入館者数は約75万人です。
 特長としては、(1)高い開架率、(2)ユニークな選書、(3)「指定図書制度」の採用、の3点があげられます。(1)開架率は実に98%を占めており、ほとんどすべての図書に学生がアクセスできるオープンな環境となっております。(2)選書で特長的なのは、選書規程を基に、学術書以外にマンガや文庫・新書、ライトノベルなどの資料を購入している点です。マンガは受賞作品を中心に選書していますが、その他に学生からのリクエストがあったものはほとんど購入しています。(3)「指定図書制度」は学習支援の観点からの取り組みで、授業で使用する図書や参考図書を教員別に配架しています。本だけではなく視聴覚資料も同様です。
 その他、学習支援の新しい形として2012年度から4カ年計画で取り組んでいる「共読ライブラリー」プロジェクトが挙げられます。読書を通じた学習基礎力、自己考察力の向上を図る取組みは学生をはじめ学内外から反響が寄せられています。
 
 
—「共読ライブラリー」プロジェクトの誕生秘話についてお聞かせください。
 
 MELICでは「共読ライブラリー」以前にも学習支援として、先ほどの「指定図書制度」をはじめ「図書館ガイダンスの授業での必修化」や「POP展示を中心とした読書授業連携」、「ビブリオバトル」などを段階的に導入し、学生との接点を作ってきました。その他にも、学生が気軽に立ち寄れるようにパブリックスペースにおいて「緑陰文庫」を創造したり、「イルミネーション」を行ったりした結果、集う場としても定着しています。このように図書館に足を運んでもらうための工夫やアイディアを実践してきましたが、新館効果が弱まってきた2011年度に、貸出数が初めて減少に転じてしまいました。その頃、松岡正剛氏の松丸本舗※1など、本に対する先進的でスタイリッシュな取組みを知り、協力してプロジェクトを実施することになりました。松岡正剛氏が提唱する手法は、本を手に取ってもらう工夫や読書の楽しみなど面白い仕掛けが盛りだくさんで、偶然にもMELICが考えている事と重なったのです。松岡正剛氏が提唱する「本を薦めたり、連ねたり、読み合わせたり、評し合う」という「共読」の考え方をベースに、単に資料を並べるための本棚導入ではなく、本棚を使った「本」と「人」のコミュニケーションによって新たな読書の魅力を創り出し、読書推進へと繋げていく「共読ライブラリー」のコンセプトへ発展させていきました。
 
※1: 松丸本舗…松岡正剛氏と丸善のコラボレーションで出来た書店。テーマに沿って本を並べる等、独自の取り組みを展開した。(2009年10月23日−2012年9月30日)
 
 
—共読ライブラリーの具体的な取組みについて伺います。
 
 まずは展示架を作ることからはじめました。書き込みが簡単で、ディスプレイ的にも有効な黒板を使った本棚を採用することにしました。黒板本棚を使ったコミュニケーションは、「本を読むことに真っ正面から取り組もう!」というメッセージを具現化する良いきっかけとなりました。共読を実践するにあたり、職員全員で編集工学研究所によるワークショップを受講し、実際に本棚を作り、書き込みやディスプレイする手法、アレンジを学びました。そうして作られた本棚群を「MONDO書架」と名付け、5つのテーマで資料を紹介し始めました。

 

①S-MONDO(Special)
 ゲスト著名人が学生や教員の質問に本で答える問答棚

②C-MONDO(Career)
 キャリアを切り開く棚
③L-MONDO(Life)


 人生を豊かにする棚
 (編集工学研究所と図書館員が3ヶ月に1度の交代で行います)

④T-MONDO(Teikyo)  帝京大学を発信する棚
⑤New Books  図書館員が週代わりでオススメ本を紹介する棚


  
 次に、読書術コースウェアの導入を開始しました。これは授業と連携し読書リテラシーの獲得を目指すものです。編集工学研究所の読書術レッスンを帝京大学の学生向けにアレンジし、3週間のオンライン読書術コースを実施しました。2012年度に教育学部1年生に試験的に導入し、70%の学生が最後の課題まで修了しました。現在は教育学部に加え、文学部史学科と短大1年生に対して行っています。 

 学生には共読サポーターという名称で、MONDO書架づくりに参画してもらっています。昨年の1期生は18名からスタートし、2期生も含めると40名程度になります。サポーターの学生にとっても自分が黒板に書いた言葉が人の読書のきっかけとなっている姿を見るのは素直に嬉しいことで、次の取り組みへの糧にもなっているようです。MONDO書架の貸出率は70%強です。New Books の棚などは1週間に1度模様替えして、返却された資料は再配架されません。本棚に並んだ本との一瞬一瞬の出会いが付加価値となって学生の関心を集めているようです。10年間も借りられなかった本がMONDO書架に配架した途端に借りられていくこともあります。 
  

—ワークショップの感想としてどうでしたか? 
  
 これまでは分類番号順で資料を並べているだけでしたが、ワークショップでは、(1)一定のテーマで選ぶ(例えば表装が赤い本のみを選書して書棚を「赤の棚」と名付ける)、(2)魅せるディスプレイを意識する、(3)本の内容をコメントする、(4)情報をどのように編集し、ストーリーを作り上げていくかを考えるというように、これまでの業務と全く違った角度での本や資料との接し方を学びました。ワークショップを経て、1人1人の職員が1冊の本の並べ方について色々と考えるようになりました。例えばイラスト描きやコメントの付け方などといった思いがけない職員それぞれの才能を発掘することもできました。本棚は模様替えの都度バージョンアップしていることが目にみえて分かります。 

  
—このようなプロジェクトを実施するにあたり、学内調整はどうだったのでしょうか? 
  
 共読ライブラリープロジェクトは、図書館だけではなく、大学のブランドアイテムとして位置づけることも目指しました。つまりブランディングです。学長をはじめ多くの大学関係者が携わり、支持を得てきました。 

 共読ライブラリーのブランディングの根底には本学の教育理念である「自分流」があります。「自分流」とは「生き方の哲学そのもので、自分がなすべきこと、興味あることを見つけ出し、自分の生まれ持った個性を最大限に生かすべく知識や技術を習得し、それを自分の力として行動する」ということです。共読を通じて培われる力=読書リテラシーはまさに「自分流」を支えてくれることになります。このブランディングを学内外に積極的に情報発信することで、認知をいただけたことは幸いでした。 
 全学で推進していくための具体的な行動としては、5つ挙げられます。(1)学生が主体的に共読ライブラリーを運営していける組織体を作ること、(2)教員に推進側のメンバーとして参画してもらうこと、(3)学長をリーダーとした全学的プロジェクトのイメージ作りをおこなうこと、(4)外部の評価を大学内に還元すること、(5)すべてを記録し編集することです。 
 ちなみに、これまで松岡正剛氏と冲永佳史学長の共読対談は2回実施、昨年の図書館総合展ではフォーラム主催やブース出展を行うことで、外部から多くの声をいただきました。今年も図書館総合展に出展します。   
  
—課題について伺います。 
  
 共読ライブラリープロジェクトはまだ始まったばかりです。「読書術コースウェア」の学習基礎力向上(本の読み方からスタートする)の段階から図書館は携わっていますが、まだ全学部まで至っておりません。教員との連携はさらに強化していかなければならないと考えています。 

 本プロジェクトは4カ年計画として大学事業計画に折込まれています。当然それに見合った成果を出していく必要があります。その大変さも痛感しています。 
    
—最後に、展望について伺います。 
  
 黒板本棚で人が感じている思いや薦め(リコメンド)を見える形にできました。共読に取り組んで今年で2年目になりますが、今後はリコメンドをシステム上で共有していきたいと考えています。SNS等の導入と情報発信の仕掛けを作り、バーチャルな共読環境が構築できればと思います。それには学生や教員だけではなく、一般利用者までをも含んだリレーションを増やし、学内外のイベントと連動した形にできたら面白いと考えています。 

 さらに、「MELICブッククラブ」へ発展させていきたいですね。今後の共読サポーターの増員と育成はその推進者としての一端を担ってくれることになるでしょう。 
 4年間のプログラムなので、今後も温かく見守ってください。 
    
—本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
取材・執筆:木本 拓郎 金剛株式会社 業務本部
      原田 亜美 金剛株式会社 社長室

      ※取材当時 

PHOTO GALLERY

白のスチール書架

指定図書コーナー

BFメディアラウンジ

「緑陰文庫」開催時のBFメディアラウンジ【帝京大学メディアライブラリーセンター提供】

イルミネーションを配したBFメディアラウンジ

イルミネーションを配したBFメディアラウンジ【帝京大学メディアライブラリーセンター提供】

本棚にチョークで装飾する様子


チョークで装飾された本棚

MONDO書架(New Books)

チョークで装飾された本棚

MONDO書架背面(New Books)

チョークで装飾された本棚

MONDO書架(C-MONDO)

チョークで装飾された本棚

黒板仕様の側板

4名の話し手のみなさん

 中嶋さん  辺見さん 堀野さん 中満さん

帝京大学メディアライブラリーセンター
所在地:東京都八王子市大塚359
開館時間:平日 8:45〜22:00、土曜 8:45〜18:30
休館日:祝祭日・年末年始・臨時休館日
URL:https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/tosho/tos.html

PASSION37表紙
この記事は「PASSION vol.35」に収録されています
 
 
 

 

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