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特色のある図書館を目指して

棚倉町立図書館


interview

話し手:藤田 直一さん (棚倉町立図書館長) ※所属・役職は取材当時のものです。
 
 

 

関連記事:時の経過に耐える建築を。(棚倉町立図書館 Another PASSION)

 
 
ー棚倉町立図書館の概要について教えてください。
 
 蔵書数は6万冊ほど、閲覧席数は77席という規模です。新築にあわせて、昨年(平成25年)7月にここJR磐城棚倉駅前に移転してきました。磐城棚倉駅は水戸と郡山を繋ぐJR水郡線の駅であると同時に、その西に走るJR東北本線の新白河駅までをつなぐ白棚線というバスの発着点にもなっており、この地域における交通の拠点となっています。そのため、学生さんの通学の利用がとても多い場所です。学生さんや迎えに来た親御さんが、電車やバスの待ち時間に図書館を利用されている姿をよく目にします。広さは移転前のおよそ4倍になりました。広くなったおかげで児童向けの「お話し広場」を設けることができ、親子連れの利用者もよく見かけるようになりました。公民館機能を有していることも特徴的です。玄関から入ったところは町民ホールとなっており、左手が図書室、右手が多目的ホールや会議室となっています。主に町民の皆さんの文化活動や学習に使っていただいています。特に多目的ホールのひと部屋については軽防音構造になっています。そのため、図書室隣接でありながらカラオケやダンスといった音が出る活動ができる工夫がされています。町民の皆さんの日常の移動手段は車なのですが、駅前だとアクセスがいいという意識があるようで、こういった集会活動の場として気軽に使っていただいています。 
 
ー図書館が移転新築された背景について教えてください。 
 
 移転新築の背景には、利用者からの閲覧スペース拡充の要望と東日本大震災があります。こちらに移転してくる前、図書館は公民館と隣接するかたちで棚倉城跡にありました。震災により被害を受けた公民館の方は取り壊しを余儀なくされ、棚倉町は公民館機能を一時期失いました。それで、図書館と公民館の複合施設として新築することとなりました。震災後ですから平成23年から着手し、設計、建築を経て平成25年には竣工、オープンすることになったわけです。計画立案からオープンまで2年間という異例のスピードです。 

 
 

免震書架
震災の教訓を活かして免震書架を導入。書架下部の免震装置が地震のエネルギーを吸収する。
 
 

ー新しくなった図書館の役割についてどのようにお考えになりますか?
 
 取り壊しになった以前の公民館の中には歴史資料室がありました。公民館の取り壊しに伴い、それらの資料は現在の図書館を含め町内の複数の公共施設に分散して保管されることになりました。そのため、現在、棚倉町には歴史資料室や資料館、博物館といった施設はありません。また、観光案内所もありませんので、町内外の一般の方にとって、棚倉町の今と昔を知るための施設は図書館ということになります。現に駅前という立地からか、休日になると観光客の方が町のことを尋ねに図書館に立ち寄られます。棚倉町のことを広く知っていただくための場というのがこの図書館の役割でもあると思っています。
 
ー町の情報の拠点ということですね。選書もそういったことを意識されているのでしょうか?
 
 はい。予算規模からも利用者から寄せられる全てのリクエストを受け入れて対応していくのは難しい面があります。ベストセラーの図書や雑誌をもっと揃えて欲しいといったリクエストは確かに多いです。しかし、この図書館の役割から考えて棚倉ゆかりの本や棚倉を知ることができる本を揃えていくのも、特色ある選書の方法の1つであると思います。また、図書館では年中行事に即した図書の展示や、読書感想画展、棚倉町ゆかりの人についての展示なども行っています。例えば先日は、明治から大正期を生きた文豪、田山花袋に関連した展示を行いました。田山花袋は栃木県館林市の出身ですが、義兄が東白川郡長だった縁から若いころに棚倉町に滞在していたことがあったそうです。田山花袋の文壇デビューのきっかけは棚倉滞在中に知り合った地元の豪商の娘さんの影響によるものと言われています。彼女は東京の女学校に在学していたことがあり、自身も歌を詠んだりされていたため、明治の詩人、大和田建樹の門下となり、その縁から文壇に人脈をお持ちでした。当時は無名の文士が知己もなく文壇にデビューすることは極めて困難でした。田山花袋を育てたのは棚倉町だと断言する研究者もいらっしゃるくらいです。 
 
 
田山花袋関連の書籍

田山花袋関連の書籍

 
 
ー館長は学芸員資格をお持ちとのことですが、学芸員の観点から見て図書館ができることとはどういったことでしょうか?
 
 現在ここには司書資格を持った正職員はおりません。田山花袋の著書を展示した場合、司書であればその著書についての説明はもちろんできますが、学芸員であればその本を起点に著者の生きた時代背景やこの土地の文化などにまで話を広げることができます。これからは展示だけではなく、図書館の利点を活かした講座を考えていってもいいのかもしれません。図書館ですので講座を聞いた人がその場で関連図書にあたって理解を深めることができます。町の情報を求めに来た人に対してより深くより良質な情報を提供できるという点で観光案内所とは違う図書館ならではのサービスが展開できます。また、先に申しました通りこの町には博物館がありません。しかし、駅前という利点から、町の情報を求める人たちが図書館に足を運んでくださっていますし、私自身学芸員資格を持っていますので歴史資料や郷土史についての問い合わせには対応できています。通常は博物館には学芸員、図書館には司書というように施設も職員も分業されています。しかし郷土を知るための施設という点では同じですし、図書館が資料館機能を果たすことはできます。いずれ司書資格と学芸員資格を両方持った職員を配置することができればいいと思っています。
 
ー学芸員資格と司書資格を両方持った職員がいる図書館ですか。いいですね。
 
 さらに、専門性が高くなくてもいいから商店街の人たちみんなが町のことを知って、町の案内ができるようになればいいなと思っています。そうすれば町全体を博物館にすることができます。観光客が町のことを知るために商店街にもっと足を運ぶようになれば、商店街の活性化にもつながります。図書館はそのお手伝いと情報提供をできる施設として十分な役割を果たすことができます。それが実現できれば、県内でも特色のある図書館になると思います。
 
ー町全体が資料館や博物館、その情報資源の拠点が図書館というわけですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材・執筆:矢賀部 仁 金剛株式会社 社長室
※取材当時 

PHOTO GALLERY

児童向けの「お話し広場」

棚倉町立図書館
所在地:福島県東白川郡棚倉町大字棚倉字新町21-1
開館時間:午前9時から午後7時まで
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)
 

棚倉町立図書館表札
PASSION37表紙
この記事は「PASSION vol.36」に収録されています
 
 
 

 

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