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海を越える図書館 
日本から台湾へ、つたわる図書館のノウハウ

國立臺灣大學  社會科學院 
辜振甫先生紀念圖書館


interview

話し手:鄭 銘彰さん(國立臺灣大學 社會科學院 辜振甫先生紀念圖書館 主任) ※所属・役職は取材当時のものです。
 

 
辜振甫先生紀念圖書館について、新築の経緯と館の概要を伺います。
 
 辜振甫先生紀念圖書館は今年(2014年)9月15日にオープンしました。当館は、このたび新築された台湾大学社会科学部棟(地下2階、地上8階)のうち、地下1階から地上2階の一部を占めています。建築設計は伊東豊雄氏、家具設計は藤江和子氏と、いずれも日本の建築家を起用しました。
 本学では20年ほど前からキャンパス移転計画が進められてきました。一部の学部を除いた全学部を、旧キャンパスからメインキャンパスへ移転するというものです。今回の社会科学院の移転・新築も、その計画の一部という位置づけでプロジェクト化され、実行されました。
 旧キャンパスでは、社会科学院の中に3つの図書施設(法律社会学部図書分館、経済学部図書室、政治学部図書室)がありました。今回の移転を機に、それらの3施設が保有していた蔵書を統合して保管することになったため、当館が新設されました。
 当館の収容能力は46万冊で、現時点では23万冊の図書を有しています。地下1階の閉架書庫には手動式・電動式移動棚を採用しており、計14万冊の収容が可能です。また、日本統治時代の資料も多く所蔵しています。延べ床面積は約4,645m2、席数は学習室と合わせて423席です。
 社会科学部棟は2006年に設計を開始し、2010年3月2日に着工、2013年5月に竣工となりました。図書館の家具配置は、着工以降の土木工事スケジュールと合わせて検討しました。2011年春にようやく最終図面が決まりましたので、非常に短い期間で完成させたといえます。ちょうど着工の頃の2010年3月1日に、私がこの館の主任に就任しました。私自身は、1995年の台湾大学中央総合図書館建設プロジェクトにメンバーとして参加し、図書館スタッフの意見をまとめて家具の決定などを行ったことがありましたので、今回の移転にはその時の経験が役立ちました。
 
図書館の特長について教えて下さい。
 
 辜振甫先生紀念圖書館は、学生や教師だけでなく卒業生や外部研究者など様々な人が利用できる場として設計されました。特に1階の開架スペースは、中庭と一体感のある「森のような図書館」というテーマで作られた空間で、棟のなかでも非常にシンボリックな場所です。直線的で無機質な空間ではなく、自然の中に生まれたような空間にデザインされています。中でも樹木のような88本の柱や、木漏れ日を彷彿とさせる天井のデザインなどが特徴的です。
 さらに、藤江和子さんの設計による図書館家具の多くは、建物とリンクしたデザインになっています。竹集成材でつくられた開架書架は曲線を描く形が印象的なだけでなく、すべての書架の端の位置が建物の88の柱とぴったり合う設計になっています。雑誌架も同じ形にデザインされています。天井の空き部分と同じ形の模様が施されている閲覧椅子もあります。
 
新館建設において最も苦労したのはどういった点ですか。
 
 設計事務所から上がってくる図書館のデザインについて、ゼネコンとその都度調整したことです。当館の新築計画は、社会科学院移転プロジェクトの一部分でしたので、デザインを変更するたびに当然プロジェクト全体への説明や学内手続きを行わなければなりませんでした。
 また、移転の予算も限られていたため、学校からの補助金や総図書館(中央図書館)からの補助金、台湾セメント(民間企業)からの寄附金、OB・OGからの寄附金など、あちこちから調達しなければならなかったのも大変でした。
 
新館建設にあたっては何か情報収集をされましたか。
 
 台湾内だけでなく、日本の新しい大学図書館を視察しました。そこで得た知識をもとにしながら、当館の蔵書計画や、それに基づく書架の計画などを決めていきました。
 日本の図書館の視察では、家具などをはじめとするハードの作りの緻密さだけでなく、利用者サービスや運営に関する細やかさにも驚かされました。例えば、自習室を2つに分け、片方はPC利用も可能な一般エリア、もう片方はPCを禁止したサイレンスエリアとする方法です。これによってPCを使わない利用者も、他者が使うキーボード音に悩まされず集中して自習できるようになります。このゾーニング方法は明治大学中央・和泉図書館の視察で学び、当館でも採用しています。また、インフォメーション・コモンズという名のエリアなど、討論もできるスペースを一部設けています。この手法は成蹊大学図書館、九州大学図書館などから学びました。
 また、日本の図書館の蔵書に関する計画や管理方法も、当館の運営上大変参考になっています。
 
多様な事例の視察の結果、日本のデザインやノウハウを取り入れられたのですね。他にも日本からのノウハウ受け入れや、日本との交流の事例はありますか。
 
 視察以外でも、日本の大学図書館とは交流を持っています。例えば2006年から、九州大学図書館とスタッフ同士の研修・勉強会などを行っています。九州大学の国文学の先生が当館所蔵の統治時代資料の調査に来て、目録作成の補助をしてくださったこともあります。
 
日本を含む各国の大学図書館では現在、学習支援の動きが活発ですが、なにか取り入れていらっしゃいますか。
 
 当館に設置したインフォメーション・コモンズも学習支援の一つですが、より細かな支援は総図書館で行っています。総図書館では、自習室を24時間開放しています。また、2006年10月から自習室の一部を改築し、ラーニング・コモンズとしました。ここではTA(Teaching Assistant)による学習支援を行っています。TAは主に大学院生が務めており、彼らにとってもTAという役目は誇らしいことのようです。自習室は2室あり、合計800席近い席数がありますが、テスト前は満席になることもあります。辜振甫先生紀念圖書館ではTA制度を取り入れる予定はありませんが、キャンパス移転によって総図書館と地理的に近づいたことを活かして、支援の内容を役割分担していきたいです。
 
他にも、総図書館との連携や役割分担はしていますか。
 
 現在総図書館とは、毎朝一本の定期便で相互貸借をしています。総図書館では自動書庫を取り入れる計画もスタートしていますので、総図書館の収容力が向上することによって、今後は資料の相互貸借をより一層充実させられるのではと見込んでいます。
 また、総図書館におけるテスト運用を経て、2014年10月からは辜振甫先生紀念圖書館でもディスカバリーサービス※1の運用を開始しました。先生方から好評だったPrimo※2を取り入れています。ちなみに、台湾内の他の国立大学でもディスカバリーサービスを運用している館は多くあり、国立師範大学、国立清華大学、国立政治大学、国立陽明大学などがその例です。現状では、台湾の大学図書館においてはPrimoのシェアが大きいようです。
 

※1 ディスカバリーサービス…図書館が提供する様々なリソースを同一のインターフェイスで検索できるサービスのこと。情報の「Discovery(発見)」を支援するサービスという意味がある。通常は、OPAC(オンライン蔵書目録)、電子ジャーナル、データベース、機関リポジトリ等、収録対象や検索方法が異なるリソースを使い分ける必要があるが、ディスカバリーサービスにおいては、これらを一括検索することができる。(文部科学省ウェブサイトより抜粋)
※2 Primo…アメリカの図書館システムベンダであるEx Libris社が提供するディスカバリーサービス。

 
 
最後に、辜振甫先生紀念圖書館の今後の展望をお聞かせください。
 
 国立大学図書館の中でも、社会科学分野をつかさどる分館として、台湾内で中心的な役割を果たせるようにしていきたいと考えています。まずはスタッフの専門知識とサービスの向上を目指したいですね。
また、当館が所蔵している法律・経済・社会学などに関する合計10万冊の戦前の資料は、今後文化財にもなっていく見込みがあるほど価値ある資源なので、引き続き厳重に保管していくつもりです。
そして、台湾大学から社会で役立つ人材を輩出するための一助として機能する図書館にしたいと考えています。
 
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

取材・執筆:原田 亜美  金剛株式会社 社長室
※取材当時 

PHOTO GALLERY

2階

地下1階

日本統治時代の資料

開架書架

天井の形と同じ模様の閲覧椅子

雑誌架

窓際の閲覧席

鄭さん

國立臺灣大學 社會科學院 辜振甫先生紀念圖書館
所在地:臺北市大安區羅斯福路四段一號
開館時間:〈学期中〉
     月〜金曜8:20〜22:00 土曜9:00〜22:00 
     日曜9:00〜17:00
     〈夏/冬休み〉
     月〜金曜8:20〜22:00 土曜9:00〜22:00 
     日曜 休館
休館日:祝日、夏・冬休み期間中日曜
※詳細はホームページ参照 
U R L:http://web.lib.ntu.edu.tw/koolib/

PASSION37表紙
この記事は「PASSION vol.36」に収録されています
 
 
 

 

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