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中学校敷地内にリニューアルオープン
—より地域に根ざした図書館へ

坂井市立坂井図書館


interview

坂井図書館外観
話し手:長谷川 春美さん (坂井市立坂井図書館 参事)、齊藤 裕二さん (坂井市立坂井図書館 館長補佐) ※所属・役職は取材当時のものです。
 
 
  • 坂井市について
  •  坂井市は福井県の北部に位置し、平成18年3月20日に坂井郡の三国町・丸岡町・春江町・坂井町、4町が合併して誕生しました。
  •  平成22年国勢調査によれば、市の面積は209.91平方キロメートル、総人口91,900人、世帯数28,744世帯で、土地利用を地目別にみると、田畑が約36%、山林が約31%を占めており、豊かな自然環境に包まれています。また、人口の年齢別分布は図の通りです。
  
人口の年齢別分布
  • (坂井市ホームページhttp://www.city.fukui-sakai.lg.jp/より)
 
 

ーはじめに、坂井市立坂井図書館の概要を教えて下さい。 
  
 当館は、坂井町立図書館として昭和62年に建設されました。その後平成18年に三国町・丸岡町・春江町・坂井町の4町が合併して坂井市立坂井図書館となりました。坂井市立図書館には他に三国図書館、丸岡図書館、春江図書館の3館があります。4館はシステムが統合されているので、相互貸出・返却の体制も整っています。利用者は図書の受け取り館を4館から自由に選択できますし、どの館からでも返却できます。シルバー人材センターの配送で、週3回相互便が行き来しています。当館から回送に出すのは1回にコンテナ2箱分以上あり、相互利用分の貸出冊数は毎月2,500〜2,600冊ほどです。 
  
ー昨年リニューアルオープンされたと伺いました。経緯を教えて下さい。 
  
 開館して26年経った旧館が老朽化・狭隘化したため、坂井中学校の耐震改修工事に合わせて、中学校敷地内へ移転することになりました。旧館は3万冊ほどの蔵書を見込んだ設計になっていましたが、移転直前の蔵書は7万5千冊を超えており、入りきれず春江図書館に預けているものもある状態でした。 
 新館は2013年1月に竣工、その後図書搬入等を経て2013年5月1日にオープンしました。延床面積は1,115.65m2で、旧館から200m2広くなりました。それだけではなく、2階建てから平屋に変わりましたので、階段や廊下を省くことができ、より多くの書架を配置できるようになりました。現在の蔵書数は約8万冊です。 
  
ー新館の特徴はどういった点ですか。また、移転時に工夫したこと、苦労したことはありますか。 
  
 中学校の敷地内にあるため、チャイムなどの音ができるだけ図書館内に響かないよう、防音性を重視したつくりになっています。基本的に窓は二重サッシで、場所によっては三重になっているところもあり、館内は静かに過ごせる空間になっています。一般開架室の閲覧席を静かに保つためにレイアウトも工夫しました。旧館では別々の部屋だった一般開架室と幼児室が新館では同じ部屋になったのですが、幼児室と一般開架室の閲覧席の距離をあけ、書架を置くことで、書架と図書による吸音を試みました。どのくらい距離をあけ、書架をいくつ間に置けば音が小さくなるか、ラジカセを用いながら実験をしたうえでレイアウトを決めました。 
 また、今回の移転で最も重要であった収容冊数の確保と同時に、閲覧席もできるだけ増やしたいという考えがありましたので、新館では8連5段の免震書架を新たに取り入れました。免震機能がついたことで大きな書架でも安全に使うことができるようになり、効率的に収容冊数と安全性を確保できました。さらに窓際の閲覧席は1人掛けの仕切り付き机とし、効率的に席数を増やしました。旧館にあった4人掛けの閲覧席は、実際には2人程度で利用しているケースが目立ったため、数を減らしました。 
 さらに、坂井町で読み聞かせなどを行っているボランティアの練習・発表の場とすることを念頭において、多目的室も一般開架室の一画に設置しました。現在ここでは、毎週土曜のおはなし会などを開催しています。毎回およそ10名の子どもがあつまります。子どもたちが床に座って使うことを前提としているので、安全・衛生の観点から室内は土足厳禁としました。室内にはボランティアがいつでもスムーズに練習できるよう、読み聞かせ用の道具類を収納できる物置を備えつけています。また、間仕切りで部屋を2つに分けることができますので、2団体での同時利用も可能です。 
 移転に伴って最も苦労したのは、資料の移動でした。資料の梱包は図書館職員で行い、搬出と新図書館への配架作業は業者が行うことにしていたため、梱包した資料の配架場所が業者にも伝わるように「●列目の書架の●段目、右側」などの位置情報を明記したラベルを箱に貼付する必要がありました。また、指示が出しやすいような図面も作成しました。さらに、梱包済みの箱の置き場を確保するのも一苦労で、梱包しては空いたスペースを見つけて箱を置き、空になった書架を動かして新たな置き場を作るというパズルのような作業でした。しかし最終的にはこれらを乗り越えて、配架ミスなどもなく開館に間に合わせることができました。 
  
 
図書館の棚

 

ー中学校の隣という立地ですが、学校との連携や生徒・子どもたちへ向けた取組みはいかがでしょうか。 
  
 扉一枚で中学校の図書室とつながっており、業務時間中は中学校の図書室から自由に出入りができるため、調べ学習などでこちらの図書館をよく利用してもらっています。また、学校の授業に関連している図書などの情報を図書室の司書の先生から頂けるので、より適切な資料を学校や生徒へ提供できるようになりました。中学校図書室と共同で図書を購入しに行くこともあります。昨年は新館開館記念行事として、翻訳家・児童文学研究家の金原瑞人さんをお招きして中学生向けの講演会を開催しました。 
 坂井市には「坂井市子どもの読書活動推進計画」というものがあります。この計画は国で制定された「子どもの読書活動の推進に関する法律」に基づき、坂井市の実情を踏まえて作成されたもので、平成21年より実施されています。この計画において、「子どもの読書活動に関する行事や講座などの継続と充実」「すべての子どもたちが自主的に楽しく本に親しめる読書環境の整備」「子どもの読書に関わるボランティアや学校等との連携及び支援センター的機能の充実」「乳幼児期における本と出会う機会の充実」など様々な基本的方策が示されており、それに沿って坂井市では行事や講演会を行っています。今年は谷川俊太郎さんをお迎えしてお話して頂く予定です。さらに、10月からは坂井市でブックスタートの取り組みを始めようとしているところです。現在はそのための準備中で、選書等を進めているところです。選んだ本は、5ヶ月育児相談の対象の子どもたちに贈る予定です。 
  
ー開館後に気づいたことなどはありますか。 
  
 リニューアルオープンしてからの入館者数は1.2倍、貸出冊数は1.36倍に増えました。とりわけ坂井町以外の3町からの利用者が増えたのが特徴です。リニューアルにともなって地元の新聞等で紹介して頂いたので、当館のことを市内の方々が再認識して下さったことが要因かと思います。そして当館は坂井市の地理的中央に位置しているため、実際にアクセスしやすかったのではないでしょうか。 
 また、10〜20年前に比べてやはり高齢の方のご利用が増えたようにも感じています。超高齢社会ですので当然とも言えますが、以前は高齢者と言っても田畑をお持ちで畑仕事をされている方が多かったのに比べ、近年は会社勤めから定年退職された方が多くなったことが影響しているように思います。そういった方々は畑仕事などもなく、終日自由な時間があるため、図書館に来ていらっしゃるのではないでしょうか。図書館がそういった方々の居場所として認識されているのだろうと思います。 
  
ー新館の課題は何かありますか。 
  
 駐車場が足りないことです。現在駐車場は29台分あり、隣接する中学校体育館と共同で使っています。図書館開館時間中は図書館の利用者優先としているのですが、体育館でスポーツの大会などが朝早くから行われる際などには、図書館の開館前にほぼ駐車場が埋まっていることもあります。運用のためのルールづくりが必要かもしれません。 
  
ー今後の展望について教えて下さい。 
  
 利用者の傾向を見つつ、配架などの調整が必要ですね。最近は高齢の方のご利用が多いので、可能な範囲で最下段の配架を減らして、できるだけしゃがまずに図書を取り出せるようにすることも考えています。 
また、当館でも年に数回の催しは行っていますが、そういったイベントで集客するよりもむしろ、貸出中心の図書館としていきたいです。そして、地域に根ざして、遠方の大きな図書館にはなかなか行けないような高齢の方や子どもたちとそのご家族の方々が、生活の中でいつでも足を運べる図書館を目指します。 
  

ー町全体が資料館や博物館、その情報資源の拠点が図書館というわけですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
〈2014年7月9日取材〉 
 
取材・執筆:原田 亜美 金剛株式会社 社長室
※取材当時 

PHOTO GALLERY

齊藤さん、長谷川さん

幼児室

窓際の閲覧席

多目的室内に備え付けられている物置

駐車場

免震書架

坂井市立坂井図書館
所在地:福井県坂井市坂井町下新庄12-3-1
開館時間:09:30〜18:30
休館日:
毎週月曜日(祝日の場合は開館・翌日休館)
毎月第1木曜日(祝日の場合は開館・第2木曜日休館)
URL:http://www.city.fukui-sakai.lg.jp/tosyo/
 

PASSION37表紙
この記事は「PASSION vol.36」に収録されています
 
 
 

 

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