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島初の図書館で
コミュニティの継続を目指す

男木島図書館


report

話し手の写真

話し手:額賀(福井) 順子 さん 特定非営利活動法人 男木島図書館 理事長 ※所属・役職は取材当時のものです。

 
 


 
 
瀬戸内海に浮かぶアートな島々
 
 瀬戸内海に浮かぶ島々は、近年瀬戸内国際芸術祭などアートに関する取り組みが盛んに行われている注目の地域だ。
 平成28年2月、その内の一つである香川県高松市の男木島に図書館が設立された。名前は「男木島図書館」。島にとって初めての図書館となる。設立資金の一部はクラウドファンディングで調達。世界中から多くの賛同と支援が集まった注目の図書館だ。空き家をリノベーションしてできた木造の図書館は周りの住居と馴染み、ずっと前からそこにあったかのようにも感じさせてくれる。
 この図書館の設立を筆頭になって実現させたのは、特定非営利活動法人男木島図書館の理事長である額賀順子さん。額賀さんを訪ね、この島に突然図書館が建てられた理由を探った。
 
 
高松港と女木島・男木島を結ぶフェリー「めおん2」

 
 
移住者がつくった島初の図書館 
 
 額賀さんは福島県出身。大阪で結婚し、ウェブデザイナーとして働いていた。平成25年の瀬戸内国際芸術祭が行われた際、男木島出身の夫が男木島の観光用Webサイトをつくる仕事を受けたことをきっかけに、家族で男木島に移住することになった。 額賀さん夫妻がまず行ったのは、市に休校になった学校を再開してもらう運動だった。「大阪で生活しながら休校だった学校を再開してもらうのはとても大変なことでした。様々な働きかけの末、学校が再開することになり子どもが学校に通えるような準備が整ったんですけれど、これで終わりではないという想いが自分の中でありました。そこに入ったうちの子どもたちが卒業して、また学校が休校になってしまうのでは意味がないと思ったんです。」と額賀さんは語る。 移住にあたり学校の存続だけではなく、島の子どもたちが室内で学べる場所や、移住者と島の人との交流拠点など、島のコミュニティについても考えるようになったそうだ。島のコミュニティの継続のために、自分ができることはなんだろうと考えた時に「それができるのは図書 館なのかな 」と額賀さんは思ったという。
 
 
図書館のカウンター
カウンターに置かれた黒板には図書館の利用案内が書かれている

 
二階の閲覧スペース
ちゃぶ台がある2Fの閲覧スペース

 
二階の小窓から見える瀬戸内海
2Fの小窓からは瀬戸内海が臨める

 
 
オンバによる移動図書館の開始
 
 図書館の設立が決まり、島内で見つけた物件を図書館として改装する間に行ったのが、オンバ(手押し車)による移動図書館だった。道が狭く車での荷物の持ち運びが難しい男木島では、オンバがよく使用され島の人にとっては馴染みのあるものだ。
 移動図書館には、もともと本好きな額賀さんが所有していた本を毎回70冊ほど持ち運んだ。週に一回、港にある男木島交流館で移動図書館を行い、そこにいる人たちに本を貸し出した。「移動図書館を始めたタイミングでは、ある程度の島の人たちは私が図書館をつくろうとしていることは知っていました。しかし、今まで島に図書館が無かったということもあり、具体的に私が何をしようとしているのかを理解している人は少なかったと思います。オンバを持って行っても『どうすればいい?』『お金は払わなくてもいいの?』ということを聞かれたりもしました。」と額賀さん。図書館の仕組みに馴染みがある人もそうでない人もいる中で、額賀さんはその場で説明を行い、島の人々に「男木島図書館」への理解を徐々に深めてもらった。
 オンバで移動図書館を行っていた頃の、小さな島ならではのエピソードもお聞きすることができた。
「当初は島の中だけの貸し出しだったため、図書カードではなく、スマートフォンのカメラで貸した本と借りた人の顔の写真を撮って記録していました。せまい島なので、皆さんの顔も住んでいる所も知っています。このやり方が正しいかはわかりませんが、男木島だからこそできたことだと思います。」現在は記入式のカードで図書を管理しているそうだ。
 島に馴染みのあるオンバを利用した移動図書館や、カメラで撮影して図書の利用を記録するなど、その土地ならではの方法に男木島の個性を感じることができた。
 
 
オンバ
最大で200冊は運べるという移動図書館で使用していたオンバ

 
 
強い意志とそれに続く人々 
 
 リノベーションの際、多くのボランティアが集まった。島内は勿論のこと、島外からも多くの人が集まったという。ボランティアをどのようにして集めたのかを額賀さんにお聞きすると、「自然に集まった」そうだ。「ボランティアといっても、こちらからお願いをして集めたわけではありません。昼間に私たちが空き家の改修作業をしていると『そんなんじゃいつまでたってもでき上がらんぞ!』と、見かねた島の人が手伝ってくれるケースが多くありました。屋根の瓦を運んだりといった人手の必要な作業の際には声をかけてお願いをしましたが、それ以外は自然に島の皆さんが集まってくれました。」改修作業時の現場のアットホームな雰囲気をイメージできる。 島外からのボランティアについても、当初はそんなに多くの人数を集めるつもりはなかったそうだ。「手伝いたいけどいつ作業しているか分からない」という声が多く寄せられたため、できるだけオープンに活動を行おうと同館のWebサイトや S N Sでボランティアを募った。それが、ボランティアが多く集まったきっかけとなったという。中には、東京や海外から来られた方もいたそうだ。 図書館を設立する活動の中で、一貫して感じられるのが「できるだけ自分の力で」行おうとする額賀さんの強い責任感だ。もちろん様々な人からの協力があってこそ、今の図書館が存在している。しかし、額賀さんの強い責任感や決意を感じなければ、こんなにも多くの『協力』は集まらなかったのではないだろうか。クラウドファンディングで募った資金についても、最初からそれに頼っていたわけではない。額賀さんが用意していた資金を運用していく中で、どうしても不足してしまった部分をクラウドファンディングで補ったという形だ。図書館を設立するという活動を通じて、たくさんの人たちが額賀さんの強い意志を感じたのではないかと思う。
 
 
改修作業の様子

 
改修作業の様子
改修作業の様子

 
 
男木島の「継続」の形
 
  同館はリノベーションする際にボランティアの設計士と話をして、島の景観を壊さないことに気をつけた。素材についてもできるだけ島のものを使うことを意識し、追加して入れた柱は、取り壊した倉庫の廃材を使用した。内装は、建て替えとなった学校の廃棄処分されるはずだったものが多く取り入れられている。机や椅子、窓、大きいものからちょっとしたものまで、至る所で学校の懐かしい雰囲気を感じることができる。「図書館の役割として、地域のアーカイブというものがあると思っています。なので、できるだけ地域の本を置いていきたいと思っていますし、かつて島の学校で使われていたものなどを残すことで、当館に来た人たちがその息吹を感じることができたらいいなと思います。」と額賀さんは語る。こういった考えは、実は当初からのものではない。建物を改築するまでや実際に運営をしていく中で、男木島という場所にはどのやり方が一番合うのか、いろいろな方法を試しながらようやくフィットする形を見つけられたという。
 
 
図書館に置かれた校長室の椅子
男木島の学校で使用されていた校長室の椅子

 
 
 今後の展望についてお聞きすると、額賀さんは「継続です」とはっきりと答えてくれた。「どのように継続していくかが重要だと思っています。最初のスタートアップは勢いで結構いけちゃうんですよ。でも継続するという地味なことを、何年できるかが大事だと思っています。男木島図書館がどんな場所であるのか、成果としてちゃんと見えるようになるのは10年後だと思うのです。」図書館をつくることが本来の目的ではないということを額賀さんは忘れていない。最初は自分の子どものために学校を再開することから始まった額賀さんの島での活動。それがいつの間にか「島の継続のために」という想いから、島の人々にとって欠かせない場所を作り上げようとしている。 男木島の図書館にとって、継続性のある運営とはどんな形なのだろうか?そのよりよい形を求めて、男木島図書館は島と共に育ち変化していくだろう。
 
 
図書館の窓の外を見る二人

 
(取材日:2018年8月2日)
取材・執筆:三木 すずか 金剛株式会社 社長室
※取材当時 

PHOTO GALLERY

男木島図書館館内の様子
壁面に設置された本棚
館内のギャラリースペース
入り口すぐにある机

 

男木島図書館
所在地:香川県高松市男木町148-1
開館時間:基本 金・土・日・月 11:00~17:00
URL:https://ogijima-library.or.jp/
 

 
琵琶湖博物館の看板
40号表紙
この記事は「PASSION vol.40」に収録されています
 
 
 

 

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