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県下図書館の被災・復旧の概況と今後の教訓について
有事にこそ見えてくる“図書館の価値”

熊本学園大学


interview

話し手の写真
話し手:山田 美幸さん 熊本学園大学商学部経営学科講師 ※所属・役職は取材当時のものです。
 
 

 熊本地震発生後、熊本県内の多くの図書館は建物の安全確認や、落下した本の復旧作業などで閉館を余儀なくされました。熊本学園大学で図書館情報学を専門に教鞭を執る山田先生は、地震発生直後から県内の図書館を訪問して情報の集約に努め、県外の支援者と現地の図書館とのパイプ役を担われました。震災から3か月を経過した7月下旬、先生の研究室を訪ね、災害という非日常の事態に遭遇したときに図書館に求められる役割や望ましい支援の在り方についてお話を伺いました。 
  
  
―地震発生後、何館ぐらいの図書館を回られたのでしょうか。 
  

 主にゴールデンウィークを中心に15館ほどを回りました。また、東日本大震災の時にたちあがった博物館・美術館(M)、図書館(L)、文書館(A)、公民館(K) の被災・救援情報サイト“saveMLAK”の岡本真さんらが被災状況把握のために熊本に入られた際の現地の取次ぎとしてお手伝いしました。 
 
―被災館を回るときに気を付けたことはありますか。 

  被災後はどこも復旧作業などに追われているので、とにかく迷惑にならないようにということを第一に心がけました。複合施設の中の図書館などでは、図書館エリアを除く施設全体が避難所 になっていて、図書館職員が避難所運営に腐心されているようなところもありました。そういったところは図書館の被害状況把握以前の段階なので、その様子だけを確認してお声がけも控えたというケースもありました。 
 

山田先生が訪問した図書館一覧

 
 
―今回の地震による図書館の被害としてはどのようなものがありましたか。
 
 本の落下、書架の転倒、本の水損、建物設備被害といったものが挙げられます。被害が大きい館はいくつかありましたが、火災がなかったのは本当に幸いでした。本の水損に関しては、天井内部の給水管が破損して室内を濡らしてしまったケースがいくつかの館で見受けられました。建物設備の被害に関しては、建物自体の亀裂や、照明器具や防煙垂れ壁の落下といった被害が挙げられます。

 本の落下のみであれば図書館職員が自力でなんとか復旧できますが、建物の被害となると職員だけではどうしようもなく、専門業者による復旧を待つしかないという状況になります。
 県内全域で捉えると、建物設備の被害が大きすぎて図書館職員が手を出せない図書館、建物設備は被害が無いものの落下した書籍の整理が膨大で人手を要する図書館、職員だけですぐに復旧できた図書館…など、被害と復旧の状況は千差万別でした。また、被害に対する対処の仕方も一様ではありませんでした。たとえば、同じ水損被害の場合でも、原則処分を決断した図書館もあれば、全点救出を目指して労力を投じた図書館もありました。
 もちろん自力復旧が原則ですが、被害と復旧の度合に応じた人と情報の適正配分があれば、図書館同士の相互支援が効果的にできたかもしれませんし、被災した本の扱いについても、他館の判断過程を自館の参考にすることもできたかもしれません。
 総じて、今回の地震では県内の図書館同士の横の連携が希薄であったことが浮き彫りになったように感じます。
 このような災害の場合、一般的には都道府県立図書館がそういった情報を取りまとめる連絡拠点になるのですが、熊本県立図書館は自館が被災してしまったため、そういった機能を果たすことができませんでした。今後は、拠点館が被災した場合に機能を代替する図書館を決めておくなど平時の取り決めが重要になってくると思います。
 
―地震後の県内の図書館を広くご覧になられて、どのような印象を持たれましたか。
 
 過去の地震の時にも指摘されたことですが、やはり今回も図書館側の感覚として「早く開館しなければ」という意識が強かったように思います。地震で機能が停止してしまった図書館を完全な形で早く復旧させたいという気持ちは理解できますが、急ぎすぎる必要は無いと思います。建物や設備などの安全が確保できてから開館させるのはもちろんですが、中で復I日作業をする職員の安全確保も同じくらい大事です。

 早期のうちに再開予定日を決めてしまうと、そこに向けての作業スケジュールが確定してしまいます。今回のように余震がいつ収束するか見えないような場合は、スケジュール通りに作業を進めること自体が危険を伴うこともあり、作業をする職員のリスクを増大させてしまいます。当面の間は敢えて開館予定日を設定しない、という判断も必要なのかもしれません。
 利用者の立場で考えれば、地震直後はまず何よりも身の安全の確保。次に衣食住をはじめとする生活環境の再建が優先です。日々の生活の中で図書館に行くという行為は、ある程度日常の中に落ち着きを取り戻してからのことになります。ならば図書館側も、地震の直後は図書館に対するニーズは無いと割り切ってしまってもいいのではないでしょうか。とにかく安全に再開準備作業を進めて、来たるべき時に向けてしっかりと力を蓄えるということが重要だと思います。
 
―確かに、今回は14日の揺れの後にすぐ本を戻したために、16日の本震でせっかくの作業が無に帰したという図書館もあったようですね。
 もし、閉館中の図書館が利用者に向けてできることがあるとすれば、どのようなことがありそうでしょうか。
 
 閉館中であっても、近隣の避難所に本を持ち込むといった団体貸出の取り組みを行った図書館もありました。東日本大震災のときにもみられた取り組みです。図書館のサー ビスは図書館だけでしか実現できないものではありま せん。開館を急ぐのではなく、敢えて「場所」の拘束から解放されて発想することで、図書館自身も無理をしない図書館サービスの提供というのは実現できますし、図書館の価値を図書館自身が再認識することにも繋がります。

 もうひとつ、閉館中の図書館がやれることと言えば、自館の被災状況についての情報発信というのがあります。
 ともすれば、閉館中の図書館は利用者から見ればブラックボックスになってしまいます。中の作業が見えないだけに、なぜ開けないんだとか、暇なんじゃないかとか、いろんな憶測をされてしまいます。利用者と図書館の信頼関係を壊さないためにも情報発信は重要で す。閉館していることについての理解を得られれば、開館を急かす声も緩和さ れます。そうすれば落ち着いて再開準備作業を進められるようになり、ひいては働く職員の安全を確保することにも繋がります。
 最近はSNSを使っで情報発信する図書館も多いので、そういったものを使って中の被害の状況や再開準備作業の 状況を見せて、「皆さんを安全に迎え入 れるために頑張っています」というようなメッセージを発信することは有用なのではないでしょうか。
 本学の図書館もそうでしたが、今回の地震ではそういった取り組みがいくつかの図書館で見受けられました。
 
―情報発信することで、利用者など一般の方から支援の申し入れがあったという話も聞きました。
 
 受け入れ側としては安全面の確保ができない中で一般の方の支援を受け入 れるのは難しい問題です。また、作業は一定の指揮系統のもとに進めなければなりませんので、そういった意味でも個人レベルの支援というのはなかなか受け入れにくいものです。本学の図書館で地震直後に活躍いただいたのは、学生ボランティアの皆さんでした。熊本学園大学では早期のうちから全学的な取り組みとして学生ボランティアを募り、学内施設の復旧作業や学内に開設した避難所の運営、周辺地域の被災者 に対する支援活動などへの人員の割り振りを行いました。図書館では初期のころは本を拾い集めたり、段ボール箱を組みたてて箱詰めしたりといった作業が中心でしたので、指揮系統の中で動ける方々という意味でも学生ボランティアの力は貴重な戦力になりました。作業が進んできて本を書架に排架する段階に入ると、請求記号を理解している専門職員でなければ難しくなってきましたので、以降の作業は専ら図書館職員の手に委ねることになりました。

 
 
大量の本が落下した図書館の本棚
大量の本が落下した 熊本学園大学付属図書館の地下書庫

 
図書館で学生がボランティアをする様子
地震後学内外で活躍した学生ボランティア 写真は熊本学園大学付属図書館の復旧支援

 
 
―今回、中間者というお立場で被災した図書館に関わられたと思いますが、外部からの支援で高く評価できるものはありましたか。
 
 国立国会図書館が運営する図書館に関する情報ポータルサイト“Current Awareness (カレントアウェアネス)”は私自身大いに活用させてもらいました。いろいろな機関や個人が清報を発信する中、このサイトでは熊本地震の図書館についての情報にアクセスできるリンクを集めてくれていましたので地震の被害状況、復旧状況を一元的に把握することができました。情報を求める人たちにとってももちろん有益ですが、混乱のさなかで情報の整理、拡散を支援してくれる存在というのは、被災した図書館にとっても大変有益なことです。
 
―閉館中の情報発信で気を付けることはありますか。
 
 人的な支援については触れましたが、物資提供の呼びかけも慎重になったほうがいいです。2012年7月に熊本が豪雨に見舞われた折、県中北部を流れる白川が氾濫して、流域のとある図書館が水損被害にあったことがありました。その被害の状況を知った利用者の方がSNSを使って吸水用の古タオル類の提供を呼び掛けたところ、1~2日の内に大量の古タオルが送られてきたそうです。その善意はもちろんありがたいことなのですが、図書館側は送られてきた古タオルの受け入れ業務で機能不全に陥ってしまったそうです。以来、その図書館ではネットを使って情報発信することが怖くなってしまったと言っていました。SNSは拡散力が強いだけに、たとえ善意であっても、一歩間違えると混乱の引き金になりかねない怖さがあることも知っておく必要があります。
 
―利用再開後は、被災地の図書館に求められることとしてどのようなことが挙げられますか。
 
 本学の図書館も甚大な被害を受けましたので、全面開館には至っておりま せん。5月16日に部分開館というかたちで、1階のエントランス周りと2階の学習スペースなど限定的な開館を始めたのですが、連日、多くの学生が図書館を利用しています。本学では図書館以外でも立ち入り禁止となった講義棟が多数ありましたので、居場所を求めて図書館に来ているようです。 大学以外においても、震災後は建物の安全確認が取れるまでは利用中止となった施設が多々ありました。自宅も損壊して避難所にも居場所がないとなると、住民にとっては居場所の確保は切実な問題になります。 図書館という施設は、本やレファレンスサービスの提供のほか、「空間」という価値を持っています。もちろん、図書館側の体制として可能であればですが、会議室のような何もない空間を早期に開放するというだけでも利用者にとっては有益かもしれません。これも、図書館の持つ価値を見直すことによって再認識できることの一つではないでしょうか。
 
 
図書館の部分かカインのお知らせのチラシ
熊本学園大学付属図書館の部分開館のお知らせ(→http://www.lib.kumagaku.ac.jp/control/wp-content/uploads/2016/05/sinsai0519_new.pdf)
 
ダンボール箱で作った本棚
熊本学園大学付属図書館 部分開館時の様子 段ボール箱を加工したオリジナルの本棚で必要な情報を提供した

 
 
―今回の地震を機に、図書館が本来もつ価値や連携の重要性というものが見えてきますね。本日は貴重なお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。
 
 
(取材日:2016年7月20日)
取材・執筆:矢賀部 仁 金剛株式会社 社長室
※取材当時 

PASSION38表紙
この記事は「PASSION vol.38」に収録されています
 
 
 

 

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