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知的刺激を受ける場としての図書館づくり

福岡大学中央図書館


interview

閲覧室
話し手:末松 久美さん(福岡大学中央図書館 学術情報課)、本村 悠介さん(福岡大学中央図書館 学術情報課) ※所属・役職は取材当時のものです。
 

 
ー本日は、福岡大学中央図書館を訪問し、新しい図書館づくりに関するお話を伺います。はじめに、館の概要についてお尋ねします。
 
  はじめに、福岡大学は9学部31学科、大学院に10の研究科を有する総合大学で、ワン・キャンパスで約2万人の学生が学んでいます。福岡大学図書館は中央館を本館とし、医学部分館と4つの分室(理学部・工学部・薬学部・スポーツ科学部)、筑紫病院図書室にて組織され、それぞれの専門分野に特化した資料を所蔵しています。
 さて中央館は2012年7月に新築・開館しました。地上7階・地下2階の大きな施設になり、5階まで図書館、6階・7階は大学院の研究室で構成されています。収蔵規模としては開架50万冊、閉架140万冊の合計約190万冊、座席数は1934席を誇る、全国的にみても規模の大きな施設となりました。ちなみに、分館等を含めると学内の所蔵規模は約240万冊になります。  
 
ー今回の新しい図書館での特長について教えてください。 
 
 まずは国内でも最大級の収納量を有する自動書庫を導入しています。約140万冊の収納能力ですが、増設すれば約160万冊の規模になります。閉架書庫の自動化によって、旧来に比べて閉架の出納サービスが驚くほど迅速になりました。
 次に、各階にグループ学習室やラーニング・コモンズを設けました。グループ学習室については図書館ウェブサイトから予約できますが、予約がなく空いている部屋は自由に利用できるようにしています。そのため多くの学生や院生が利用してくれています。
 これまでは入退館システムが未導入だったので、ICカードとなっている学生証に対応した入退館システムを導入しました。おかげで現在、平日1日当り約2000人、試験期1日当り約8000人の入館者管理が可能になり、学生の利用率も旧来に比べて大きく増加しています。
 中央館と分館と4つの分室はワン・キャンパスにありますので、図書資料の相互の取り寄せが迅速です。ちなみにキャンパス内の配送巡回は電気自動車「愛称:ポポカ」を活用していますが、黄色い車体はキャンパス内で目立ちますし、小さな車体が可愛らしいので、学生には人気者です。図書館のキャラクター的存在になっています(笑)。
 他方で福岡大学は地域開放を推進し、一般の方の利用も可能です。学外の方からも専門的な図書資料のリクエストがあり、自動書庫から出庫した資料などを閲覧されています。
 
ー開館までの道のりをお伺いします。
 
  福岡大学創立75周年の記念事業の一つとして、中央館の新築プロジェクトが掲げられました。旧館の建屋や設備の老朽化及び狭隘化、福岡西方沖地震における被災、ICT環境への対応といった多くの課題もあり、新館建設では課題への対処だけではなく、先進的な図書館運営・サービスを取り入れることになりました。
 2008年から当館と規模が類似した全国の大学図書館を約12館視察して来ました。特に、自動書庫を導入している館を選定し、運用についての疑問などをヒアリングしました。2009年2月に図書館内にプロジェクトチームを発足させてからは、図書館内をはじめ、学内関係者、設計者と対話を重ね、多くの課題・検討事項を1つずつクリアしていきました。 
 
ー検討事項とはどういったものでしたか。 
 
 大前提として、「長期滞在型」の図書館を掲げ、そのあるべき姿について、幾多の協議を重ねていきました。
 まずは諸室やゾーニングの配置検討です。施設建屋の計画は粗方決まっていましたが、具体的に詰めていきました。閲覧室、情報サービス室、グループ学習室、ラーニング・コモンズ、AVコーナー、リフレッシュコーナーとの連動性や区画性などを詰めていきました。
 次に、書架や机、椅子、カウンター等の家具の検討です。できるだけ統一した形でデザインを決めていきましたが、難儀しました。設計者はデザイン性を重視し、図書館員は利用者の使い勝手や今後約30年使うための耐久性も考慮するという考え方の違いがあったので、幾度もモックアップを評価して、ギャップを埋めていきました。今回、ブックトラックも造作で対応してもらい、キャスターの動作や握り手の位置や作業性も検証しましたよ。椅子については、長時間座っても疲れないとか、椅子の引き出しやすさや動かしやすさ、荷物の落下防止などが、かなりこだわったところです。椅子が一番使いますし、一番劣化しやすいところなので、気を使いました。
 中央館は開架エリアの天井に照明がついていません。設計者側から、落ち着いて学習できる空間演出や省エネルギー対策として、間接照明と机の手元照明のみ設置という提案を受けました。計画時点では「やっぱり暗いのではないか」、「防犯上は大丈夫なのか」といった不安も正直ありました。実際は空間の演出や利用者からの苦情もなく、照明学会の照明普及賞もいただいたので、時代の流れに合った照明なのかもしれないと思っています。
 さて、運営サービスについてですが、建物は最高のものが整いましたので、それに見合うサービスの展開を模索することになります。学生に対する学修支援のひとつとして、ライブラリーアシスタントを配置しました。ライブラリーアシスタントは大学院生が構成員となっており、データベースの使い方やレポート・論文の書き方などを学部生にラーニング・コモンズにおいてアドバイスするシステムです。日中の時間帯にライブラリーアシスタントが常駐できるようにしているので、学部学生からの相談件数も増え、評価も高くいただいています。
 また、旧図書館では開架エリアに約10万冊程度しか配架できていませんでしたが、新館では30万冊が並びますので、学生や教員が多くの図書資料をブラウジングできるようになました。さらに、豊富な電子ジャーナルやデータベースを利用できる環境も整えました。
 自動書庫の導入の結果、利用者自身でOPACから特定資料を検索、出庫指示できるようになり、迅速な出納サービスが実現しました。自動書庫の利用も1日100件程度ありますので、これを人的に対応していたら多くの時間を要していたと感じています。
 
ー開館後の気づきや課題がありましたら、お話願います。
 
  これまでお話した各種コーナーやICT環境について、学生たちには特に説明しなくてもどんどん使われており、適応力の高さに気づかされました。特に、9つあるグループ学習室は常時利用されている状況で、ゼミ単位や資格取得のための勉強会、プレゼンの練習や教職課程の模擬授業といったあらゆる用途に活用されています。ここまで活用してくれているということは、潜在的ニーズに対応できたということではと考え、嬉しく感じています。ちなみに、図書館利用説明会については、ゼミ単位での申し込み制で実施しています。今年度の1年生を対象にした利用説明会の受講率は、2013年前期:43.7%(学生数4752名中2075名受講、学生数は平成25年6月1日時点)でした。
 さて、課題としてはハードとソフトが備えたこれほどの図書館を、もっと活用してもらうことと、そのための学生との接点づくりです。ひいてはスタッフへ質問しやすい、相談しやすい、親しみやすい雰囲気づくりが必要だと考えています。例えばライブラリーアシスタントだけでなく、職員みんなで学生への声掛けを行い、細かな対応を積み重ねています。さらに読書会や選書ツアーなど、図書館に親しみやすさを感じてもらえるようなイベントを開催しています。ちなみに、中央館ではツイッターで情報発信もしています。今後はSNSをより活用しながら、学生との距離を近づけていきたいところですね(笑)。 
 
−最後に、展望についてお話をお伺いします。 
 
 図書館は単に本を読むところだけではなく、勉強するだけでもありません。学生同士や職員、ライブラリーアシスタントとディスカッションしたり、普段接することがない外部の人たちの話を聞いたりすることによって、思考の幅を広げ、想像力を養う場だと思います。また当館は冊子の資料だけではなく、豊富な電子ジャーナルやデータベースも取り揃えています。それらを含む情報の活用や学生のリテラシー能力向上を推し進めていくためにも、今後も積極的に様々な接点づくりができたらと考えます。私たちも創意工夫し、チャレンジしていきたいと思います。
 
ー本日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。
取材・執筆:木本 拓郎 金剛株式会社 業務本部
      原田 亜美 金剛株式会社 社長室

      ※取材当時 

PHOTO GALLERY

インフォメーションコーナー

 

総合カウンター

  

電気自動車「ポポカ」

ラーニング・コモンズ

窓際の閲覧席

グループ学習室と予約状況が表示されるディスプレイ

ブラウジングコーナーと新聞閲覧コーナー

OPAC検索PC

親しみやすい図書館を目指して

末松さん、本村さん

試行錯誤を重ねた椅子

福岡大学中央図書館
所在地:福岡市城南区七隈八丁目19-1
開館時間:月曜〜土曜 8:50〜22:00、日曜8:50〜17:00
休館日:ウェブサイトにて確認ください
URL:http://www.lib.fukuoka-u.ac.jp/

PASSION37表紙
この記事は「PASSION vol.35」に収録されています
 
 
 

 

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