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記録と記憶の交差点
~市民に寄り添うアーカイブズ~

大仙市アーカイブズ


interview

話し手の写真
話し手:髙橋 一倫 さん 大仙市役所 総務部総務課アーカイブズ 大仙市アーカイブズ 主席主査 (教育委員会文化財保護課併任) 
※所属・役職は取材当時のものです。
 
 
 上空から見ると白鳥が翼を広げた形をしているこの建物は、閉校になった旧双葉小学校の校舎を活用したものなんです。昔、ここの生徒が裏の沼でケガをしていた白鳥を助けてあげた…、そんなエピソードがこの建物には込められています。 
 そう語ってくださったのは、大仙市総務課の髙橋さん。大仙市の前身自治体の一つである旧太田町時代から町史編さんに携わってこられたそうです。 
 施設のいたる所に旧双葉小学校時代の面影を残す大仙市アーカイブズは、平成29年5月に旧太田町史編さん事業にかかわってきた市民の声を受けオープンしました。開設準備から現在までの経緯について、そして東北の市町村で初めての公文書館となるこの施設の役割と市民から寄せられる期待について髙橋さんにお話を伺いました。 
 
 
大仙市アーカイブズ空撮写真

 
大仙市アーカイブズ外観
大仙市アーカイブズ(上:空撮 下:外観)裏の沼で助けられた白鳥が翼を広げて飛び立っていく姿がイメージされている 

 
 
ー大仙市アーカイブズ設置のきっかけを教えていただけますか。
 
 ここ大仙市は平成17年3月に8市町村が合併してできた市です。大仙市アーカイブズ誕生の源流は、合併前の構成自治体の一つである旧太田町が平成14年からはじめた町史編さん事業にさかのぼります。
 当時、旧太田町には編さんされた自治体史が無かったため、合併を前にボランティアの皆さんとともに、町史編さんに取り組むことになりました。
 ところが編さん事業に着手してほどなく、特に近代以降の資料が役所に残っていないということに気が付きました。昭和の大合併、高度経済成長の時期の行政文書が極端に少ないのです。合併の混乱や、道路や橋の整備といった経済活動優先で、公文書管理に手が回らなかったという事情があったのでしょう。
 その一方で、地域に古くからある家々には実に多くの地域史料が残っていました。日本に町村制が敷かれたのは明治22年で、それ以前に地域の行政事務を預かっていたのは域内に点在する戸長の家々でした。古くからの地域の歴史を紐解こうとした場合、公文書だけでは限界があり、民間に残るこうした地域史料が重要な役割を果たします。
 これら一連の経験を通じて、ボランティアの皆さんと職員が、地域の記憶と記録を守り伝えることの重要性を共有するようになりました。
 公文書・地域史料整理の直接的な契機となったのは、町史編さんに関わった市民の方から平成19年に寄せられた市長あての提言でした。これを機にアーカイブズ建設に向けた検討に発展し、およそ10年の歳月を経て、平成29年に大仙市アーカイブズが開設されるに至りました。
 
 
古文書ボランティアの様子

 
古文書ボランティアの様子
古文書ボランティアの様子

 
 
ーまさに市民の声でできたアーカイブズですね。開設準備を進める中でも、市民の皆さんが大きな役割を果たしてくださったそうですが。
 
 市民の皆さんは大仙市アーカイブズ設立にとって一番の援護射撃でした。
 平成19年から始まった地域史料の整理ボランティアには多くの市民の皆さんが力を貸してくださいました。地域史料の多くはいわゆる古文書で、これを解読し整理するには古文書解読ボランティアの皆さんのお力は必要不可欠です。活動を通じて、ボランティアの皆さんの中でも資料を残すことの重要性に対する認識が深まっていきました。そうしてボランティアの皆さんが、自らその認識を周囲に発信していただいたことで、アーカイブズの開設を待望する声が市民の中に少しずつ広がっていきました。こうした行政外部からの期待の声はアーカイブズ設置に向けての大きな推進力になり、市民と行政とのいい循環になりました。
 開館後に実施した数々の展示企画も、古文書解読の成果の賜物です。現在も市内各所でボランティアの方々のお力添えを得ながら古文書の解読と目録作成の整理を続けています。

 
 
展示室の様子
展示室では解読された古文書をもとにした企画展示などが開催されている

 
 
ー開設に向け、様々な研修やシンポジウムも開催されたとか。
 
 アーカイブズ設立に向けたさらなる機運の醸成のため、平成26年から市民や関係団体を対象としたシンポジウムを開催しました。一番大きかったのは平成28年に開催した市の職員向けの研修会を兼ねた全4回のシンポジウムです。対象としたのは職員の中でも40代未満の若手。これからの市の中核となる若手の職員こそが、公文書に対する正しい理解を持つ必要があると考え、敢えて若手中心の研修としました。
 
 
 
職員研修
平成28年職員研修兼シンポジウム 

 
 
ー様々な経緯を経て平成29年5月の開館に至ったわけですが、開館後の取り組みについても教えていただけますか?
 
 開館行事が一段落すると、いよいよ資料の搬入作業が始まりました。
 当初は資料の搬入・整理と合わせて、運営のための諸制度の整備が事業の中心に据えられていました。災害対応のための制度整備もその一つだったのですが、資料の搬入作業が始まって間もない7月22日~23日、この一帯は集中豪雨の被害に見舞われました。当館は無事でしたが、豪雨災害から3日後、ここから山を挟んで反対側にある淀川保育園の資料が被災したという一報が飛び込んできました。園児たちの成長記録やアルバムが先の豪雨災害により水損したというのです。急きょ我々は現地に赴いて被災資料約30箱を持ち帰り、乾燥、クリーニングといった資料保全の処置にあたりました。幸い当館には東日本大震災の津波による水損資料をレスキューした経験のある職員がいましたし、私自身も開館前の2月に釜石で被災資料のクリーニング作業を経験してきたばかりでした。
 
 
トラックに荷物を運びいれいる様子
水損被災文書を淀川保育園から搬出する様子

 
本を開いて作業する様子
 
ドライクリーニング作業
 
扇風機で本を乾かしている様子
扇風機で乾燥

 
 
 災害対応の準備が制度として整っていたわけではありませんでしたが、このように既に備わっていたノウハウを活かせたことでアーカイブズの社会的な役割を果たすことができたと思っております。
 また、当館へのレスキューの要請をくださったのは、先述の研修会に参加した子ども支援課の職員でした。研修会を通じて他部署の職員が、アーカイブズが資料レスキューの役割を担っていることを理解してくれていたわけです。お陰で我々も、資料レスキュー活動に力を発揮することができました。
 
 
ドキュメントスキャナー
旧太田町史編さん事業から使われているドキュメントスキャナー

 
 
ー過去の地域史料同様、現代の地域史料を後世に引き継ぐというのもアーカイブズの重要な役割というわけですね。
 
 大仙市アーカイブズには、ふるさとの記憶と記録を守り活かすセーフティーネットとしての役割があります。公文書であろうと地域史料であろうと、当館では、大仙市に生きた人々の営みを記録するものであれば選り好みすることなく全てを取り扱いの対象としています。資料の形態も紙のものだけではなく、写真、映像、音声と多岐にわたります。
 開館から一年、市民からの問い合わせは着実に増えてきました。ご自身の先祖にまつわる情報を求めて市外から問い合わせてくる方もいらっしゃいます。ゆくゆくは図書館や文化財保護課との連携もはかり、それぞれが受けた問い合わせを一元的に管理し共同利用できるようなデータベースなども構築するなど、なお一層の利便性の向上を図っていきたいと考えています。
 
 
収蔵庫扉
貴重資料を保管する収蔵庫

 
 
ー人は自らが関わった地域の記憶ともに存在します。将来、大仙市アーカイブズのような取り組みが全国の自治体にも広がっていけば、地域と人との関わり合いももっと強くなっていくのではないかと思います。本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

 
 
(取材日:2018年6月15日)
取材・執筆:矢賀部 仁 金剛株式会社 復興推進本部 戦略室
※取材当時 

大仙市アーカイブズ
所在地:秋田県大仙市強首字上野台1-2
T E L: 0187-77-2004
開館時間:午前9時~午後5時
    (資料請求は、午後4時半まで)
休館日:日曜日、月曜日及び国民の祝日、
    年末年始(12月29日~1月3日)、特別整理期間 

 
大仙市アーカイブズ外観
40号表紙
この記事は「PASSION vol.40」に収録されています
 
 
 

 

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