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(注意)本記事は、金剛株式会社が1995年3月10日に発行した機関誌「PASSION VOL.16」の内容を、当時の記録として公開するものです。記事内の情報は発行当時のものであり、現在の状況とは異なる場合があります。また、当時の社会情勢や倫理観を反映した表現が含まれている可能性があり、現代の基準に照らし合わせると一部不適切と感じられる箇所もあるかもしれませんが、資料的価値を考慮し、原文のまま掲載しています。掲載されている商品やサービスは、既に販売・提供を終了している場合があります。
本記事は、著作権法上の引用の範囲内で掲載しています。当時の記録として、皆様に楽しんでいただけましたら幸いです。
※LOGISTICS:後方業務、兵たん業(調達。貯蔵、輸送、宿営、糧食、交付、整備及び人員、器材、補給品の護送などの業務)
兵庫県南部地震によるすさまじい被害状況を伝える新聞記事。
写真提供:読売新聞社









KONGO地震への取り組みの経緯

はじめに
平成7年1月17日早朝の阪神大震災による5000人を越える死者の数、なぎ倒された建物、壊滅状態の都市 機能を目の当たりにしたショックは未だ癒えず、余震による二次災害の不安も拭えない。平成6年10月4日に発生した北海道東方沖地震も、ロシア(北方領土)での被害の様子も報道され記憶に新しいが、この地震で、日本側とロシア側でかなりの被害程度の差が生じたという。 日本とロシアの地震に対する考え方が、この差につながったとも言われている。その後も各地での大地震の発生が予想され、早急な具体的対策の必要性が指摘されている。今号では、当誌vol.11で特集した「地震と移動棚」(地のメカニズム、移動棚の振動実験)に続くリポートとして、長年の実績を基に開発した「移動棚免震装置」 を中心に、免震移動棚の性能について解説する。
耐震/免震/制震
耐震構造
地震エネルギーに耐えるための強度を確保する。
免震構造
物と地盤、又は床の間に、特殊な装置を取付けて、地震エネルギーを吸収する。
制震構造
広い意味での免震構造を含む。 免震装置の他に、振子を取付けたり、地震の時に物の振動を計測し、コンピュータで物の剛性をコントロールするなどの方法で揺れにくくする。
建築の地震対策が、各社の技術開発等により大きく先行しているのに対し、建物内部の家具・備品についての対策は遅れてきたのが現状であった。 免震移動棚は他社に先駆け、地震の被害を最小に抑える免震装置をプラスし、安全性をアップさせた移動棚である。

移動棚における地震対策(3ヶ条)
利用者の保護:①棚を倒壊させない ②棚を転倒させない ③棚を暴走させない
収容物の保護:①収容物を落下させない ②収容物を破損させない ③収容物を散乱させない
保管機能の維持:地震がおさまり、通常の状態になれば直ちに使用できる状態にする

免震移動棚
地震のエネルギーは巨大で、激しければ激しいほど衝撃はまともに伝わり、何の影響も受けないようにするのは至難の技である 。免震移動棚は、従来の地震対策のように強度を高めることによって地震エネルギーそのものに耐える耐震構造に加え、本来移動棚自体が持つ、地震の揺れに逆らわずに地震エネルギーを小さくする特性を最大限に利用した、免震構造特性を合わせもつ移動棚である 。 すなわち、
- 移動棚の構造上、一番弱い走行方向の地震エネルギーには、免震装置
- 比較的強い連方向の地震エネルギーには、耐震構造
で対応しているのである 。

免震移動棚を構成する各装置
1.免震装置(走行方向への対策)
(1)ロック解除装置(移動棚KZ)及びブレーキ解除装置(電子電動棚AEX)(オプション):ロックされた移動棚が地震エネルギーを受けると、車輪が拘束され、地震の揺れを吸収できず、棚が振動する。
本装置は設置階において震度5以上の揺れが発生すると、自動的にロックや駆動機上の拘束を解除し、移動棚の車輪を自由に回転できる状態にするため、地震の揺れはほとんど棚に影響しない。(図3)

(2)ESC装置(オプション):エンドストッパーに車輪が接触している時に地震が起こると、車輪がエンドストッパーから地震エネルギーを受け、移動棚は通路に向かって走ることとなる。本装置は、常にエンドストッパーと移動棚との間に適当なスペースを自動的に形成し、エンドストッパーからの地震エネルギーの伝達を遮断する。(図4)

(3)リリース機能(移動棚KZ・電子電動棚AEX共通標準装備):移動棚は後輪駆動方式(当社パテント)を採用している 。この駆動方式の特性で、地震エネルギーを受けると、移動棚はエンドストッパーに接近しないように、内側にゆっくりと移動する 。この機能は、震度5以上の揺れが発生すると顕著に現れる 。特に、(1)ロック解除装置(移動棚KZ)またはブレーキ解除装置(電子電動棚AEX)、(2)ESC装置、(3)リリース機能の3つの装備を「免震移動棚装置」と呼ぶ 。

2.耐震構造(走行方向・連方向への対策)
(1)転倒防止金具:棚台枠の下部に固定し、レールプレート内側に組み込ませる。 通常使用時の、万が一の走り過ぎによる乗り上げ防止にも有効であり、また地震時にはしっかりと移動棚を支え、転倒及び脱輪を防ぐ。(図6)
(2)耐震型特殊折り返しかセットプレート(パテント):天板にこのガセットプレートを採用したことにより、棚の前後・左右・対角へのゆがみを防止できる。(標準)
(3)背面プレース:連方向の強度をアップさせる。(オプション)

3.その他
更に入念な対策を望むユーザーには、次のオプションなども用意されている。
(1)落下防止金具:棚前面に取付けるワンタッチ開閉の装置で、移動棚の収容物の落下を防止する。通常はかけた状態で荷を保管する(写真1)

(2)耐震安全バー:作業時または地震時の万が一の通路閉塞を完全に防止し、作業者が棚にはさまれるのを防ぐ。(ワンタッチオープン)(図7)

最後に
KONGOでは移動棚の先駆メーカーとして、長年地震対策に取り組んできた。高性能大型振動台を有する諸研究所のご協力のもと、各種実験データを蓄積し、振動研究を続けた結果、移動棚の安全性を抜群に高める免震装置を開発し、好評を得ている。
納入事例の中でも、ユーザーからの厳しい耐震・免震の条件を課せられた例も上がっており(P.4特集参照)、昨今の世論の地震に対する関心の高さを物語っている。今後もこの要求に応え、更なる地震対策を追求し、新しい技術を提案していきたい。
協力:金剛㈱テクノ部システムテクノ課 池永一郎、山﨑敦子
参考文献:『地震でも倒れない家具の止め方』田代元弘・坪田張二著 鹿島出版会、「FACT 地震と建築」日建設計
(1995年3月10日刊行)