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  • 技術ストーリー

LOGISTICS NOW1995 地震と移動棚(Ⅱ)免震移動棚の全性能

金剛株式会社

兵庫県南部地震によるすさまじい被害状況を伝える新聞記事。

写真提供:読売新聞社

KONGO地震への取り組みの経緯

はじめに

平成7年1月17日早朝の阪神大震災による5000人を越える死者の数、なぎ倒された建物、壊滅状態の都市 機能を目の当たりにしたショックは未だ癒えず、余震による二次災害の不安も拭えない。平成6年10月4日に発生した北海道東方沖地震も、ロシア(北方領土)での被害の様子も報道され記憶に新しいが、この地震で、日本側とロシア側でかなりの被害程度の差が生じたという。 日本とロシアの地震に対する考え方が、この差につながったとも言われている。その後も各地での大地震の発生が予想され、早急な具体的対策の必要性が指摘されている。今号では、当誌vol.11で特集した「地震と移動棚」(地のメカニズム、移動棚の振動実験)に続くリポートとして、長年の実績を基に開発した「移動棚免震装置」 を中心に、免震移動棚の性能について解説する。

耐震/免震/制震

耐震構造

地震エネルギーに耐えるための強度を確保する。

免震構造

物と地盤、又は床の間に、特殊な装置を取付けて、地震エネルギーを吸収する。

制震構造

広い意味での免震構造を含む。 免震装置の他に、振子を取付けたり、地震の時に物の振動を計測し、コンピュータで物の剛性をコントロールするなどの方法で揺れにくくする。  

建築の地震対策が、各社の技術開発等により大きく先行しているのに対し、建物内部の家具・備品についての対策は遅れてきたのが現状であった。 免震移動棚は他社に先駆け、地震の被害を最小に抑える免震装置をプラスし、安全性をアップさせた移動棚である。

移動棚における地震対策(3ヶ条)

利用者の保護:①棚を倒壊させない  ②棚を転倒させない  ③棚を暴走させない  

収容物の保護:①収容物を落下させない  ②収容物を破損させない  ③収容物を散乱させない  

保管機能の維持:地震がおさまり、通常の状態になれば直ちに使用できる状態にする

免震移動棚

地震のエネルギーは巨大で、激しければ激しいほど衝撃はまともに伝わり、何の影響も受けないようにするのは至難の技である 。免震移動棚は、従来の地震対策のように強度を高めることによって地震エネルギーそのものに耐える耐震構造に加え、本来移動棚自体が持つ、地震の揺れに逆らわずに地震エネルギーを小さくする特性を最大限に利用した、免震構造特性を合わせもつ移動棚である 。  すなわち、

  1. 移動棚の構造上、一番弱い走行方向の地震エネルギーには、免震装置  
  2. 比較的強い連方向の地震エネルギーには、耐震構造  

で対応しているのである 。

免震移動棚を構成する各装置

1.免震装置(走行方向への対策)

(1)ロック解除装置(移動棚KZ)及びブレーキ解除装置(電子電動棚AEX)(オプション):ロックされた移動棚が地震エネルギーを受けると、車輪が拘束され、地震の揺れを吸収できず、棚が振動する。

本装置は設置階において震度5以上の揺れが発生すると、自動的にロックや駆動機上の拘束を解除し、移動棚の車輪を自由に回転できる状態にするため、地震の揺れはほとんど棚に影響しない。(図3)

図3 ロック解除装置・ブレーキ解除装置

(2)ESC装置(オプション):エンドストッパーに車輪が接触している時に地震が起こると、車輪がエンドストッパーから地震エネルギーを受け、移動棚は通路に向かって走ることとなる。本装置は、常にエンドストッパーと移動棚との間に適当なスペースを自動的に形成し、エンドストッパーからの地震エネルギーの伝達を遮断する。(図4)

(3)リリース機能(移動棚KZ・電子電動棚AEX共通標準装備):移動棚は後輪駆動方式(当社パテント)を採用している 。この駆動方式の特性で、地震エネルギーを受けると、移動棚はエンドストッパーに接近しないように、内側にゆっくりと移動する 。この機能は、震度5以上の揺れが発生すると顕著に現れる 。特に、(1)ロック解除装置(移動棚KZ)またはブレーキ解除装置(電子電動棚AEX)、(2)ESC装置、(3)リリース機能の3つの装備を「免震移動棚装置」と呼ぶ 。

図5 リリース機能

2.耐震構造(走行方向・連方向への対策)  

(1)転倒防止金具:棚台枠の下部に固定し、レールプレート内側に組み込ませる。 通常使用時の、万が一の走り過ぎによる乗り上げ防止にも有効であり、また地震時にはしっかりと移動棚を支え、転倒及び脱輪を防ぐ。(図6)

(2)耐震型特殊折り返しかセットプレート(パテント):天板にこのガセットプレートを採用したことにより、棚の前後・左右・対角へのゆがみを防止できる。(標準)

(3)背面プレース:連方向の強度をアップさせる。(オプション)

図6 下部転倒防止装置(オプション)

3.その他

更に入念な対策を望むユーザーには、次のオプションなども用意されている。

(1)落下防止金具:棚前面に取付けるワンタッチ開閉の装置で、移動棚の収容物の落下を防止する。通常はかけた状態で荷を保管する(写真1)

写真1 落下防止金具

(2)耐震安全バー:作業時または地震時の万が一の通路閉塞を完全に防止し、作業者が棚にはさまれるのを防ぐ。(ワンタッチオープン)(図7)

図7 耐震安全バー

最後に

KONGOでは移動棚の先駆メーカーとして、長年地震対策に取り組んできた。高性能大型振動台を有する諸研究所のご協力のもと、各種実験データを蓄積し、振動研究を続けた結果、移動棚の安全性を抜群に高める免震装置を開発し、好評を得ている。

納入事例の中でも、ユーザーからの厳しい耐震・免震の条件を課せられた例も上がっており(P.4特集参照)、昨今の世論の地震に対する関心の高さを物語っている。今後もこの要求に応え、更なる地震対策を追求し、新しい技術を提案していきたい。

協力:金剛㈱テクノ部システムテクノ課 池永一郎、山﨑敦子

参考文献:『地震でも倒れない家具の止め方』田代元弘・坪田張二著 鹿島出版会、「FACT 地震と建築」日建設計

(1995年3月10日刊行)