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(注意)本記事は、金剛株式会社が1993年11月30日に発行した機関誌「PASSION VOL.12」の内容を、当時の記録として公開するものです。記事内の情報は発行当時のものであり、現在の状況とは異なる場合があります。また、当時の社会情勢や倫理観を反映した表現が含まれている可能性があり、現代の基準に照らし合わせると一部不適切と感じられる箇所もあるかもしれませんが、資料的価値を考慮し、原文のまま掲載しています。掲載されている商品やサービスは、既に販売・提供を終了している場合があります。
本記事は、著作権法上の引用の範囲内で掲載しています。当時の記録として、皆様に楽しんでいただけましたら幸いです。
1.はじめに
戸籍簿をはじめ、証券、債券等々の重要書類を保管する場合には、いかに大量の書類を効率よく保管し、盗難・火災から守るかという事がもっとも重要である。 特に、戸籍簿を保管する場合「戸籍簿施工規則第8条・帳簿の保管」(注1)で耐火性のある書庫または、倉庫に保管するように定められている。
戸籍簿等を扱う役所の窓口業務は、常に即時処理が要求されており、保管場所が離れていたりするとスムーズな対応が出来なくなってしまう。このような現状においては、耐火性能を有し、大量保管が可能で能率的な検索作業を行える保管庫が必要とされていた。
そこで弊社は、従来有る電動縦型回転ラックに耐火性能を付加し、この問題を解決しうる商品として、耐火回転ラックを開発した。耐火性能を付加した事により今後あらゆる分野において活用が見込まれるであろう。
今回、この耐火回転ラックを商品化するに当たり、JISに定める加熱試験を行い、耐火性能を確認したのでここに耐火構造及び、耐火試験結果について紹介する。
※(注1) 戸籍法施錠規則第8条:「戸籍薄および除籍薄は、施錠のある耐火性の書籍又は 倉庫に秘めてその保存を厳重にしなければならない。」
2.構造概要
図1に全体図を示す。本体は、耐火壁部と棚保管部から構成される。

耐火壁は、バネル状に分割されており、現地でボルトにて連結され、底面以外の5面体を構成する。正面の書類取出口は、上下開閉可能なシャッターで塞がれており、使用時に手動にて開閉される。
棚保管部は、棚が水平の状態を保ったまま、閉回路内において回転運動出来る構造になっている。テーブルの操作盤によって入力された棚は、取り出し口まで回転し、 作業者が取り出し易いテーブル上まで自動で押し出さ れる。
図2は、耐火壁の断面及びその結合部を示す。耐火壁を構成する耐火パネルは、鋼板(厚さ1ミリ)と耐火材のフラッシュ構造になっている。結合部は段差を設け煙返し構造になっており、煙返し構造のとれない部分には段差のかわりに、熱膨張性シールを設け熱の流入を防ぐ構造となっている。
図3は、シャッター部を示す。シャッターは、定荷重バネにより重量バランスがとられ手動でも楽に上下の開閉操作が出来る様になっている。 シャッターと本体とのすき間部分には図の様なかみ合せの煙返し構造を設けるとともに、熱膨張性シール材を取付け、火災時の炎の進入を防ぐ構造になっている。
各パネルに充填してある耐火材の組成・物性値は下記表1に示す。




3.実験方法
JIS S1037の標準加熱試験(注2)に準じ実験を行い、内部温度を測定する。加熱炉は表2に示す温度の時間的変化を、正立させた試験体の底以外の全面に一様に与えられるようなものとする。加熱温度は、試験体加熱面から50ミリの位置を測定する。
庫内は、内部温度測定と同時に戸籍簿の用紙と同等の紙と、それをファイルするPPホルダーを入れ、実際に近い保管状態のもとで実験を行い、紙及びPPホルダーの変色、劣化の有無を確認する。加熱温度曲線は図4に示す。

※(注2) 日本工業規格「耐火庫」(JIS-S1037):<適用範囲>この規格は、一般用とびら付耐火庫及び耐火ファイリングキャビネット並びに特殊用とびら付耐火庫(以下、耐火庫という。)について規定する。ただし、金庫室、床金庫、耐火金庫など建物の一部分として初めから固定することを目的としたものを除く。
<備考>一般用とびら付耐火庫及び耐火ファイリングキャビネットは、8.5(表2)に規定する耐火試験によって、庫内温度が180℃以下のものをいい、特殊用とびら付耐火庫は、8.5に規定する耐火試験によって、庫内温度が65℃以下、庫内湿度が85%以下のものをいい、主として磁気テープ保管用のものをいう。
4.実験結果及び考察
内部温度を図4に示す。内部最高温度は、170℃であった。JISによる庫内温度限界値は180℃以下となっており、温度に関しては合格である。 次に、庫内に入れておいた戸籍用紙については、変色・劣化などなく判読可能な状態であった。 PPホルダーには、一部熱による変形、及び溶解も見られたが戸籍簿の判読等に支障をきたす程のものではなかった(写真2)。 よって1時間の耐火性能を有すると判断、全て合格となった。


図4の庫内温度曲線を見てみると、加熱始めから急激に温度上昇が起こり150℃迄達し、それからいったん温度が下がるという現象が現れている。
この温度が下がるという現象は、耐火材の主成分が、水分(常温では化合水、結晶水として耐火充填材内に留保されている)であるために起きた現象である。
浸透してくる熱によってこの水分が蒸発し、庫内の温度を押さえかつ熱を逃がす働きをしている。
小型の耐火庫では、温度上昇は100℃付近でいったん停滞しその温度を一定時間保った後また温度上昇するのが通常である。
今回は、150℃まで初期の段階で上昇してしまったが、この温度上昇はシャッター周りの隙間からの熱流入によるところが大きく、加熱初期において熱膨張性シール材がその効果を十分発揮出来なかった為と考えられる。
その後この部分を改良する事で、更に良い結果が得られる事が判った。

(1993年11月30日刊行)