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話し手:(右から)
原口 富美さん(荒尾市教育委員会 生涯学習課 課長)
淺田 里恵さん(荒尾市立図書館 館長)
馬場 理恵子さん(荒尾市教育委員会 生涯学習課 課長補佐)
冨重 祐一郎さん(荒尾市教育委員会 生涯学習課)
※所属・役職は取材当時のものです。
荒尾の街に新たな賑わいを創出する荒尾市立図書館。2022年、当館は荒尾市の市街地に立地する、ゆめタウンシティモール(以下、シティモール)内へ移転し、市民の生活に寄り添う存在として進化を続けています。単なる書籍の貸し出しに留まらず、誰もが気軽に立ち寄れる滞在型の図書館として居心地の良さを追求。さらに、商業施設内の図書館という利点を活かした、地元がにぎわうイベントに力を入れています。
今回は、移転の背景から、利用者層や運営面の変化、そして今後の展望について、詳しくお話を伺いました。
―2022年にゆめタウンシティモール内に移転された背景を教えてください
図書館の移転の背景として、旧図書館の老朽化が進んでいたことが挙げられます。旧図書館は1973年に建てられ、施設も狭く、設備も古くなっていました。特に閲覧スペースや学習スペースが十分に確保できておらず、10代から20代の若い世代の利用が少なかったです。また、荒尾市は隣接する、長洲町、南関町、福岡県大牟田市の図書館の相互利用が可能です。(2025年4月からは熊本市も可能) そのため、一部の荒尾市民の方は、蔵書数が多く、便利な市外の図書館を利用されているという現状がありました。
そんな時に、シティモールの運営会社から、紀伊國屋書店と連携する形で図書館をシティモール内に移転しないかというお話をいただきました。シティモールに移転すれば、新しい建物を一から建てるよりも、工事期間も短く済みますし、費用も抑えられます。
実はこのシティモールは、もともと三池炭鉱の社宅があった場所でした。炭鉱の事業が縮小して空き地になったところに、商業振興とまちづくりを目的として1997年に第三セクター※1で整備しました。オープンしてから20年以上経ち、活気がなくなってきているという課題があり、市としては、なんとかまた盛り上げたいという気持ちがありました。そこで、老朽化が進んでいた図書館がシティモールの中に入ることで、図書館とシティモール、両方の課題を同時に解決できるのではないかと考えました。
※1 第一セクター(政府または地方公共団体)と第二セクター(民間企業)が共同出資して行う事業組織体


―移転後の利用者層の変化はいかがでしょうか。
当初の目標では、旧図書館の年間来館者数4万人に対し、移転後の広さに合わせ、約4倍にあたる15万人を目指していました。しかし、オープン初年度の2022年度はなんと28万人もの方にご来館いただき、大変驚きました。3年目にあたる2024年度も23万人と、現在も多くの方にご利用いただいています。
利用者層については、本の貸出状況によると、旧図書館の時と比べて小学生と30代・40代の方の利用が増えました。小さなお子さんとその保護者のような、ファミリーでの来館が増えた印象です。また、以前はほとんど見かけなかった中学生や高校生、そして20代の方も、館内の学習室などでよく見かけるようになりました。
やはり、図書館が市の中心部に移転したことで、市全体として利便性が向上し、図書館に来るまでのハードルが下がったのではないかと考えています。
また、移転により面積と座席数が4倍に増え、広くなった分、以前よりもゆったりと過ごしていただけるようになりました。特に学習室は大変多くの方にご利用いただいています。当館の学習室は予約制ではなく、時間制限も設けていません。そうした煩わしさがない分、時間を気にせず過ごしていただけているようです。



―運営面での変化はありましたか。
旧図書館は本を借りることが中心の図書館でしたが、移転してからは、いろんな世代の方が気軽に長く過ごせるような図書館を目指しています。
実際に、本を読むだけでなく、勉強したり、パソコンで作業したり、趣味を楽しんだりと、様々な目的で利用される方が増えました。以前はそういう過ごし方をしていると、少し居心地が悪かったかもしれませんが、今はそういう雰囲気はないですね。
夏の暑い時期には、図書館前の交流スペース「みんなのひろば」はクーリングシェルターになるのですが、「図書館で涼もうかな」と立ち寄ってくださる方も増えました。夏休みや春休み期間は、多目的室「みんなのへや」を開放して、学習室として使ってもらうこともあります。快適に過ごしていただくために館内は、蓋つきの飲み物の持ち込みを可能にしていて、ゆったりと寛いで本を読める「くつろぎコーナー」にはドリンクホルダー付きの小テーブルと大きな丸いベンチで過ごすこともできます。
また、月に一度は図書館でイベントを開催しています。図書館へ続く通路ではいろんなテーマでパネル展示を行っているので、その展示に合わせて関連する本を並べたり、映画の上映会を開いて、その映画に関連する本を紹介したりしています。色々なことを組み合わせて、学びのきっかけになるような環境づくりを意識しています。堅苦しい勉強というよりは、気軽に立ち寄って、様々な知識に触れて、何かを感じて持ち帰ってもらえたら嬉しいですね。

ー商業施設に移転したからこそできるようになった取り組みはありますか。
隣接している紀伊國屋書店との連携では、作家や編集者の講演会やサイン会等を実施しました。例えば先日は、『学研の図鑑LIVE』編集長の松原由幸さんをお招きして、恐竜図鑑のトークショーイベントを開催しました。松原編集長に恐竜の絵を描いていただいたり、子どもたちの質問に丁寧に答えていただいたり。会場内では紀伊國屋書店が関連書籍を販売してくださって、購入された本や持参された本にサインをいただいたりしました。子どもたちはもちろん、大人の方もすごく楽しんでくださいました。
こういった出版社とのイベントは商業施設と、書店との連携があってこそ実現できる企画です。書店のネットワークと、図書館や商業施設の集客力を掛け合わせて、これからも面白い共催イベントをどんどん作っていきたいと思っています。
紀伊國屋書店の他にも、シティモールに入っているテナントとのコラボレーションを行っています。例えば、和装店と一緒に浴衣の着付け教室を開いたり、携帯ショップとスマホ教室を開催したり。図書館だけではできなかったような、多彩なイベントができるようになったのは、シティモールに移転した大きなメリットだと感じています。
またこれらのイベントは、できるだけ予約なしで誰でも気軽に参加できるスタイルにしています。イベントによっては、シティモールの中でも人通りの多い場所を使わせていただいたりしていますので、内容を知らなくても、気軽に参加しやすい雰囲気となっています。通りがかりにふらっと立ち寄って、少しだけ参加して帰る方もいらっしゃいますし、そのまま最後まで熱心に参加してくださる方も多いです。いつでも自由に出入りできるというのが、荒尾市の皆さんの気質にも合っているのかもしれませんね。


―デジタルライブラリーのご活用、利用者の反応を教えてください。
当館では、移転を機にデジタルライブラリーを導入しました。デジタルライブラリーではおすすめの書籍の表紙を画面上で閲覧でき、気になった表紙にタッチすると電子書籍の貸し出しへ誘導するQRコードが表示されます。ただ、当館の利用者層はご高齢の方がメインで、紙媒体に慣れ親しんでいる方が多いのが現状です。そのため、市主催のスマホ教室を、このデジタルライブラリーのスペースを使って開催し、スマホ教室の最後に電子書籍の使い方を紹介するなどして、利用を勧めています。
また、荒尾市の小中学校では、児童生徒1人につき1台タブレットが配付されています。そのタブレットからでも図書館の電子書籍が借りられるように、市立図書館の貸出カードとは別にIDとパスワードを付番しています。本来であれば貸出カードは図書館に来館しないと作成できませんが、児童生徒用のIDがあれば、貸出カードがなくても電子書籍を借りることが出来ます。実際に、学校の授業の空き時間などに、タブレットで電子書籍を読んでいる子どもたちもいるようです。
デジタルライブラリーに関しては、図書館のスペースと隔てられた空間になっているため、利用者への個別の説明が十分に行き届いていないという課題があります。自由に触ってみて、「こんなものかな」で終わってしまう方が多いのではないかと感じています。もっと色々試してみると、面白い機能もあるので、その魅力を効果的に伝える方法を、強化していきたいと考えています。


―今後の展望について教えてください
私たちは、地元の皆様に愛される図書館を目指しています。
単に本を貸し出すだけでなく、滞在型の図書館、あるいは皆様にとっての「第三の居場所」として機能し、誰もが気軽に立ち寄れるような空間を提供したいと考えています。
移転から4年目を迎え、ありがたいことにリピーターの方々が増えております。さらに、より多くの方に当館の魅力を知っていただき、足を運んでいただけるよう、今後もイベントの企画・運営を充実させていきたいと考えています。
「ここに来れば何かを学べる」と感じていただけるような、多機能な図書館を目指していきます。
(取材日:2025年4月30日)
取材・文:三木すずか 金剛株式会社 管理本部 広報室
※取材当時
荒尾市立図書館
所在地:荒尾市緑ケ丘1丁目1番1(ゆめタウンシティモール内2F)
TEL:0968-57-7747
開館時間:午前10時~午後8時
休館日:整理休館日毎月月末(ただし土日祝に重なる場合は翌平日)
特別整理休館日(2月頃1週間程度)
年末年始(12/29~1/3)
URL:https://www.arao-lib.jp/
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