つなぐWEBマガジンPASSION+

つなぐWEBマガジンPASSION+

金剛ロゴ金剛ロゴ
 
SHARE   

つなぐWEBマガジンPASSION+

libraryへリンク

学生とともに〜進化を続ける近大の図書館〜

近畿大学 BIBLIO THEATER 


interview

開放的な1階の閲覧スペース
話し手:岡 友美子(アカデミックシアター事務室 室長 中央図書館事務部 次長 兼務)
※所属・役職は取材当時のものです。

 
 
 2017年4月6日、近畿大学東大阪キャンパスに「ACADEMIC THEATER」(以下:アカデミックシアター)が誕生した。その巨大な空間には、留学生との交流や異文化・多言語を学べるインターナショナルセンター、CNNニュースを見ることが出来るカフェ、24時間開放された自習室等、5つの施設が集約されている。その中でも異彩を放っているのが、アカデミックシアターの中心に位置する「BIBLIO THEATER」(以下:ビブリオシアター)と名付けられた図書館である。1階と2階の二層構造になっており、蔵書は約7万冊だ。1階は「NOAH33」(ノア33)と呼ばれ、従来の図書分類法に依らない「近大INDEX」と呼ばれる独自の分類法で配架されている。2階は「DONDEN」(ドンデン)と呼ばれ、1階同様に「近大INDEX」で配架されているのに加え、漫画が2万冊以上も取り入れられている。ビブリオシアターは「偶発的な本との出会いを体感する」ことをコンセプトの一つとし、迷路のような複雑な設計が特徴的だ。

 この度、近畿大学東大阪キャンパスを訪問させていただき、ビブリオシアターを中心に、アカデミックシアターの仕組みと、近畿大学の秘めた狙いについて取材した。  

 
 

話し手の岡室長

 
 
アカデミックシアター設立までの経緯
 
 今回、アカデミックシアター事務室の岡 友美子室長に取材協力していただいた。 岡室長がアカデミックシアター設立に向けたプロジェクトに参加したのは2014年4月。当時、岡室長は近畿大学中央図書館の部署から離れていたが、長年培った図書館職員としての経験や知識が求められ、アカデミックシアター担当ということで図書館に戻ってきた。 それはちょうど、ビブリオシアターが「近大は近大を超える」という「超近大プロジェクト」のキャッチフレーズに則り、「今までにない新しい考え方をもった図書館を作ろう」という方向性で固まってきた頃だった。
 
  岡室長(以下:岡)「プロジェクトでビブリオシアターの設計図面を見たときは驚きました。高さが4メートルもある書架をどういう風に使うのかわかりませんでしたし、そもそも『今までにない図書館』という感覚が掴めませんでした。 最近は他大学でも図書館を新しくする取り組みがよく行われていますよね。そこで、私が図書館に戻ってくる以前の話し合いの中で、他大学を参考にし、近畿大学にも新しい図書館を導入しようという案が出たそうです。ですが、『それでは本当の意味で、新しい考え方を持った図書館ではない』といった意見もありました。そういった図書館をつくるとなった時、図書館職員の頭の中では、なかなか思い描くことは出来ませんでした。」 
 
 「新しい」図書館をつくりだすのは難しいことだったが、岡室長は他の図書館について情報収集を怠らなかった。
 
「その当時、武雄市図書館(佐賀県武雄市)や明治大学和泉図書館(東京都杉並区)など、図書館がニュースとなり話題に上がることが多かったので、新旧は問わず話題の館へ足を運ぶことに注力しました。仕事以外の時間にも、図書館に足を運び、全国から情報を取り入れました。」 
 
 話し合いを進めていく中で名前が挙がってきたのが、後にビブリオシアターのスーパーバイザーを担当することになる編集工学研究所の松岡正剛氏※だった。 
 
「東京丸の内にあった松岡正剛さんがプロデュースした書店『松丸本舗』に行ったことがありました。個人的にも気に入っていたので、あんな空間を作る方なら、いいものが出来るのではないかと思いましたし、イメージも湧きやすかったです。」
 
 

※松岡正剛……1944年京都生まれ。オブジェマガジン「遊」編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授などを経て、現在、編集工学研究所所長、イシス編集学校校長。編集的世界観に基づく書物空間「図書街」や、本を媒介に知の相互編集を可能とする「目次録」構想などを推進。丸善・丸の内本店内に、実験的書店「松丸本舗」をプロデュースし話題となった。現在、帝京大学、理化学研究所、資生堂ほか多数の大学・企業・団体とブックプロジェクトを展開中。

 
 
 
時代をうつしだすアカデミックシアター
 
 アカデミックシアターにビブリオシアターと呼ばれる新しい図書館が設置されたが、実はこのアカデミックシアターの隣には、昔から近畿大学の学生を支えてきた近畿大学中央図書館が存在している。ビブリオシアターの蔵書が約7万冊なのに対し、中央図書館の蔵書は約143万冊に及ぶ。
 中央図書館の隣にあえて新しい図書館を作った意味とは何だろうか。従来の図書館の姿とは異なるビブリオシアターの特徴についてお聞きし、その存在意義を探った。
 
 
好きな場所で好きなだけ、が出来る空間

 
開放的な1階の閲覧スペース

 
 学生がどんな場所で勉強をしたいのかを考慮しながらプロジェクトを進めた、と岡室長は語る。一見デザインが最重要視されているように見える館内も、ビブリオシアターだからこそ出来る要素が含まれている。
 
「最近は『オシャレな空間で飲み物を飲みながら勉強をしたい』という学生も多いので、その要望を叶えるべく、ビブリオシアターでは、おしゃべりや飲み物の持ち込みを可能にしています。またアカデミックシアターにはカフェが入っているので、ビブリオシアターで勉強した後に気軽に食事も出来ます。こういったことは、隣の中央図書館では出来ません。図書館で一日中勉強したり、本を読んで過ごしたいという学生にとってはとても嬉しいことだと思います。」
 
 また、家具の選定に関しては、スーパーバイザーの松岡氏から提案があったこともあり、読書や勉強のしやすさ以外にも意味を持たせている。
 
「棚板にLEDライトや書見台、黒板を付けるなど、書架のデザインにこだわっている一方、机や椅子はシンプルなものにしました。加えて、机を退けたらイベントなどが出来るスペースが欲しかったので、移動が簡単に出来ることも考慮した部分です。
 また、空間をデザインする時、階ごとに家具を統一するという手法がありますが、そうはしませんでした。学生が好きな場所で好みの家具を選んで勉強ができるように、多彩な種類の家具を様々なメーカーから選び、それぞれの場所に配置しました。メーカーのショールームに足を運び、実際に机に触れたり椅子に座ってみたことで、質のいいものを選択できたと思います。」
 
 
飲食に関する注意書き
館内の飲食ルールについて書かれた注意書き。机ごとに置かれている
 
カフェ
ビブリオシアターに隣接するカフェ。食べ物だけでなくカフェのオリジナルグッズの販売も行っている
 
棚の書見台
スライド式の書見台。棚の中で見つけた気になる本をその場ですぐに読めるように、本広げるための書見台が設置されている

 
 
 
漫画が担う「きっかけ」づくり
 
漫画と新書が並んだ棚

 
 最近の図書館では漫画が多く所蔵されることがしばしばあるが、序文にも記述した通り、ビブリオシアターの2階には、漫画が2万冊以上も並べられている。ここまで多くの漫画を取り入れた狙いとは何か、お聞きした。
 
「2階の漫画については、取材などでよく取り上げられ話題となるのですが、2階に置いているのは漫画だけではありません。漫画の内容に関連する新書や文庫も、同じ棚に並べています。
 当初、図書館職員の間で、2階は新書の部屋にしようという案がある中、松岡さんから『新書・文庫に加え、漫画を置きたい』という意見が出ました。その結果、大学に漫画を置くことに関して、学内の図書館職員から懸念の声が挙がりました。大学の図書館は学修をする場所。また、近畿大学では漫画を専門に学ぶ学科もないからです。
 ですが話し合いが進む中で、漫画だけでなく、それに関連する新書や文庫も置くのならいいよね、ということになり、今の形が出来上がりました。
 理由としては、普段本をあまり読まない学生が、漫画をきっかけに関連本へ手を伸ばしてくれることを狙ったからです。漫画から関連本、さらにその他の本へと興味を誘う手法は、松岡さんの率いる編集工学研究所的に言う、『知のどんでん返し』です。ビブリオシアター2階の『DONDEN』とは、そこから名付けられています。
 まず最初の一歩として漫画、その隣の新書・文庫を、それから1階の単行本。最終的には隣の中央図書館へ、と流れていってほしいです。」
 
 漫画の蔵書が多くなれば多くなるほど、その関連本も増える。その関連本から知的好奇心を広げていく学生も居るはずだ。
 
「漫画を読んで起業した社長さんや、漫画の主人公にあこがれてスポーツを始めた選手などもいらっしゃいます。学生に良いきっかけを与えられるなら、大学図書館に漫画を置いてもかまわないと思います。」
 
 漫画が学生の進路や人生にとって良いきっかけになることを、ビブリオシアターは期待する。
 
 
古い少女コミック
単行本の漫画だけでなく古い雑誌も閲覧することができる。この本棚では少女漫画誌の歴史を感じられる

 
説明パネル
「DONDEN」読みの説明が書かれたパネル

 
 
学生が利用しやすいアプリの活用
 
ガラス張りの部屋

 
 アカデミックシアターの「ナレッジフィールド」と呼ばれる3号館には女性専用の自習室を含めた、ガラス張りの24時間開放の自習室が存在する。
 また、ビブリオシアターの中には「ACT」と名づけられた42室のガラス張りの部屋が存在する。そこは、近畿大学と企業が共同で行っているプロジェクト活動や、学術成果の発信の場、サークル活動、自習など様々な用途で利用されている。
 これら二つの設備はアプリの学生専用メニューから事前に予約をすることが出来る。
 
「アカデミックシアターのHPを作成する際、『いまどきの子はHPを見ないのでは?』という意見が出ました。ですので、学生が使用しやすいアプリを採用し、学生も一般の方も使用出来るようにしました。学生専用のメニューでは、ACTや自習席の予約が出来たり、ACTで開催されるイベント内容を見ることが出来ます。夏休み期間中も学生がアプリを使って、ACTをよく利用していました。
 またHPに関しても、ただのHPにするのではなく、『診断コンテンツ』を設置しました。AIの質問に答えると診断結果からビブリオシアター内のおすすめの本を紹介してくれるというものです。SNSと連携して診断することもできます。
 こうしたアプリや、HP、診断コンテンツをきっかけにして図書館に興味を持ってもらい、ビブリオシアターに足を運んでほしいですね。」
 
 アカデミックシアターの斬新さは、隣接する中央図書館への敬意と表裏をなすものであることがわかった。新しいものをつくることで、従来のモノの存在を再確認させ、互いに相乗しながら図書館の利用を活発化させることが、近畿大学の狙いだ。

 
 
プロジェクトの部屋
近畿大学と企業が共同で行っている産学連携のプロジェクトの部屋
 
学術成果として使用されたACT
学術成果の発表の場として使用された部屋。他学部がどんな勉強をしているのかを知るきっかけになる
 
 
 
完成して、今感じる心の変化
 
 「新しい」図書館をつくるプロジェクトに携わり、学生たちを近くで見ている岡室長だからこそ、「新しい」考え方も生まれるようになった。
 
 
日当たりのいい螺旋階段

 
 
本は絶対保存?考え直す本の扱い方
 
 ビブリオシアターは全面ガラス張り。室内が明るく、清潔で晴れ晴れとした気持ちの中で過ごせる一方で、日差しによる本の日焼けが気になってくる。しかし、岡室長は従来の図書館とは違う見方を示してくれた。
 
 岡「アカデミックシアターのプロジェクトに携わっていたからか、従来とは違う角度から図書館を見るようになりました。ビブリオシアターは全面ガラス張りです。UVカット仕様のガラスを使用していますが、真夏の日差しは強烈 で、本の日焼けが懸念されます。しかし、本の日焼 けについても『図書館は本を保管するという役割もある。けれども、そうじゃない図書館があってもいいのではないか』と考えるようになりました。極端なことを言うと、本が日焼けしたって、汚れたっていいのではないか?、と。汚れたとしても、それだけ利用されているからいいんじゃないかと、思うようになってきたのです 。」
 
 
棚に平積みされた本
わざと平積みにされた本。ビブリオシアターでは図書館らしからぬ風景を見ることが出来る
 
 
 
これからのアカデミックシアターの形
 
通路に設置された閲覧スペース

 
学生に寄り添いニーズを吸い上げる

 様々な事を想定して作られたアカデミックシアターだが、完成してみると、作り手の思いと、実際の学生の使い方にずれが生じることもあった。岡室長は、学生のニーズをこれからどんどん取り入れていくべきだと語る。
 
「学生の要望を考慮して考えたことも、学生が本当に求めているものとは少しずれていると感じることもあります。
 例えば、自習室には制限時間が設けてあります。それは学生の健康面や、他の利用したい学生を配慮した意味合いがあるのですが、『もっと利用できる時間を延ばしてほしい』『ずっと使っていたい』という学生や、制限時間後の休憩を挟んでもなお続けて予約している学生がいました。
 このように学生の求めていることを知るには、自分たちの頭だけで考えるのではなく、現場に行って、直接学生と話をしたり、様子を見たり等、学生に近づくことがすごく大事だと思います。
 アカデミックシアターが出来たことで、今まで学部棟の中で完結していた学生同士の交流が大きく広がりました。それによって私たち職員も新しい発見をすることも増え、学生がどういうことを望んでいるのかが、だんだん分かるようになってきました。これからも学生のニーズを吸い上げて、次に繋げていきたいです。」
 
 
 時代が変化すれば、学生も変化していく。変化を察知することで誕生したのがアカデミックシアターであり、ビブリオシアターだ。これらが誕生出来たのは、言うまでもなく、隣接した中央図書館が存在するからである。
 ビブリオシアターにしか出来ないことがあるのならば、当然その逆もあり、従来の図書館にしか出来ないこともたくさんある。お互いの存在意義を理解することで、新旧の図書館は共栄していけるのだ。
 ビブリオシアターに出来ないことは、中央図書館が補ってくれる。それは、甘えなどではなく、ビブリオシアターやアカデミックシアター全体の更なる飛躍の支えとなっている。学生のニーズをとことん吸収し、現代、そして未来を進行形で突き詰めるのがアカデミックシアターの形だ。数年後、再びここを訪れた時、その姿が大きく変化していたとしても、勿論それは不思議なことではない。「近大は近大を超える」。学生だけでない、近畿大学全体の挑戦がこれからも続いていく。
 
 
 
取材・執筆:三木 すずか 金剛株式会社 社長室
※取材当時 

PHOTO GALLERY

ガラス窓に沿って並ぶ 閲覧机

ガラス窓に沿って並ぶ閲覧机

ガラス張りの部屋「ACT」

ガラス張りの部屋「ACT」  

背の高い本棚

1階「NOAH33」の本棚

漫画と新書が並べられた本棚

2階「DONDEN」の。
漫画とともに新書・文庫が並べられている

棚に飾られた新書と屏風と扇

2階「DONDEN」。棚の中の飾り

開放的な閲覧スペース

2階「DONDEN」の閲覧机(一部)

黒板塗装が施された棚

黒板塗装が施された棚。図書館ボランティアの学生がチョークで棚を飾り付けることができる

近畿大学 BIBLIO THEATER
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:(06)4307-3109 (アカデミックシアター事務室)
開館時間:中央図書館HPの図書館カレンダーをご確認ください
休館日:上と同じ
URL:https://act.kindai.ac.jp/

 

関連記事