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資料館のオープン 建築段階からの取組み

九州歴史資料館


contribution

内観
寄稿:加藤 和歳さん(九州歴史資料館学芸調査室学芸班 技術主査)
 
 
 九州歴史資料館は、福岡県太宰府市に昭和48年開館以来、大宰府史跡の発掘調査・研究をはじめ、考古資料、美術工芸資料、歴史資料の調査研究・収集・保管・展示および保存修復などについて、多角的に活動を進めてきた。開館から38年を経て、平成22年、福岡県小郡市に新施設を建設し、博物館と埋蔵文化財センター、双方の機能を持つ福岡県文化財保護行政の拠点施設として、新たな歴史の扉が開かれることとなった。これまで、新施設の建築工事にあたり、限られた条件下ではあるが、さまざまな方の協力を得て、保存科学的な視点をもって施設設計等を進めてきた。その取り組みの一端をご紹介したい。
 
 
外観
外観
 

 まず、施設配置を考える上で博物館、埋蔵文化財センター、2つの機能を有することは、有害生物に対する環境管理が必要な、美術工芸品や古文書が取り扱われる一方、発掘調査現場から大量の土砂を含む遺物が整理のため常時、搬入される状況があり、館内の保存環境を適切に維持管理することに関して懸念となる。これに対し、資料の動線が交錯しないように館内の施設配置をおおよそ北側に埋蔵文化財センター機能、南側を博物館機能とエリアを二分し、それぞれに独立した搬入口や作業スペース、収蔵庫を設けた。エリア間をつうずる廊下、特に特別収蔵庫周辺には、環境のほか、防災、防犯面も考慮し、段階的に扉を設け、エリア構成ができるようにし、さらに両エリアとの中問に保存科学諸室を配置し、保存科学が両者のバッファーゾーンの役割を果たすことができるよう意図した。ほか特別収蔵庫と展示室については、温湿度管理を考慮し、周囲に廊下や事務室などを配置することで、室が屋外に直接、接することのないような配置として、外気の影響による温湿度変化の軽減に努めた。
 
 次に、博物館施設にとって心臓部である収蔵庫は、資料を最適な環境下で安全に保管、管理できるよう注意を払った。配置は先に述べた二つの機能に対応するように、考古資料・を主に収蔵するエリア(以下、考古系)と美術工芸品、古文書を収蔵するエリア(以下、歴史系)に分け、考古系は材質別、歴史系は種類別に部屋を設け、資料の特質に応じた管理を可能にしている。内装は、壁材について資料の特質やコストパフォーマンスを考慮し、考古系は無機質系調湿材、デリケートな環境管理を志向する歴史系には、無機質系調湿材を下地に杉材を用いた。木材が持つ調湿機能を活かし、機械的な設備に全てをよりかかることない環境管理を目指していくこととしている。杉材は、九州産のうち熊本県小国産と、県産材である八女産を川いた。材の選定にあたっては、保存担当をはじめ、収蔵庫管理を担当する学芸員が木工所へ出向き、施工側と材を手にしながら、使用する材の選定を協業で行った。それを基に選定基準サンプルを作成し、品質の安定化に努めた。また、木工所において作業内容や保管場所、管理方法、含水率等の確認も行った。なお、収蔵棚についても、同様に杉材を使用しており、壁材と同様の取り組みを行ったほか、集成材を多用することから、使用する接着剤の種類を明示してもらい、化学物質製品安全データシート、加工方法の確認を行った。こうした取り組みは、よりよい環境づくりのためではあるが、学芸員が建材と対峙し、特質を知ることを必要視したために行ったもので、将来起こりうるかもしれないトラブルに対するリスク管理の一環とも位置づけている。
 
 
空気室調査
空気室調査
 
収蔵庫前室
収蔵庫前室
 
収蔵庫
 
 
 以上のような取り組みを推進できたのは、関係各位のご指導、ご協力があったことが何よりである。建設の一部始終に携わるなかで、明文化されていない博物館建設のノウハウがあり、関係される方は、それぞれに独自の知恵や技術、経験があり、それらに直に触れることができた。私自身、これらを他の学芸員、研究者はもとより、一般のお客さまにもぜひ知っていただきたい、との想いを強めている。文化財が保存される取り組みを積極的に公開することで、保存科学という分野の認知につながり、文化財保存の担い手や理解者を少しでも増やしていきたいと考えているからである。
  
 
大宰府史跡出土木簡
大宰府史跡出土木簡
 
大野城跡出土鬼瓦
大野城跡出土鬼瓦
 
 
(2010年)

九州歴史資料館
所在地:福岡県小郡市三沢5208-3
TEL:0942-75-9575(代)
URL:http://www.fsg.pref.fukuoka.jp/kyureki/

PASSION33表紙
この記事は「PASSION vol.32」に収録されています
 
 
 

 

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