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PASSION VOL.33 November.2011
震災への取り組み

01 国文学研究資料館

東日本大震災における津波被害の歴史文化情報資源のレスキュー


寄 稿:青木 睦(国文学研究資料館 研究部 准教授)

国文学研究資料館




 19年前、埼玉県草加市の火災で被災した民間資料を真空凍結乾燥処理により救助・復元作業を行ってから、栃木県西那須野郷土資料館、東京都清瀬市図書館、その後阪神・淡路大震災、さらに高知市行政文書、千葉県いわし博物館、東京都国分寺市遺跡調査会資料、熊本県天草市行政文書など、筆者が直接現地に赴いて被災支援を行った博物館・図書館・アーカイブ資料の事例は多い。ただ、この事例は一部にすぎない。毎年何らかの災害によって多くの歴史文化情報資源が消滅しているのである。


激震・大津波、その復旧活動


 地域に伝えられた有形無形の文化財は地域の人々の生きた証である。その証のひとつでも多くの被災資料の救助を通じ、未来への証の継承を支援する目的で、文化庁の働きかけを契機に、国立文化財機構をはじめ幾多の文化財・美術関係団体が4月1日に被災文化財等救援委員会(文化庁文化財等レスキュー)を立ち上げた。

 文化庁文化財等レスキューは、阪神・淡路大震災時に、広く民間所在の資料を視野に入れ、文化遺産全体を救助の対象とするということが確認されて「等」が付けられた。今回の震災においては、歴史資料をしての公文書・行政文書、近現代資料、自然史資料等も包括して救助対象とすることも共通の認識を得た。国文学研究資料館(以下、国文研)は、文化庁文化財等レスキュー「人間文化研究機構内チーム国文学研究資料館」(国文研チーム)として活動するに先立ち、被災地の支援と救助のための研究として「大規模災害における資料保存の総合的研究」(西村慎太郎研究代表:国文研)を開始した。

 甚大な津波被災の岩手県・宮城県・福島県においては、各県内の研究教育文化行政機関や文化財救援ネットワーク(史料ネット)が博物館・図書館の施設や民間所在の資料の救助活動を開始していた。また、多くの自治体の公文書が甚大な津波被害で消失したことが明らかになってきた。(「役所を襲い、住民の暮らしに欠かせない大切な記録を押し流して」被災自治体岩手県陸前高田市・大槌町・釜石市、宮城県南三陸町、女川町、朝日新聞、110327)そこで、庁舎の一部が被災した釜石市に問い合わせたところ、釜石市総務課が被災調査を受け入れ、4月26日・27日に被災状況の調査を実施した。(国文研:高橋実・青木睦・西村慎太郎)。釜石市市役所は津波被害を受け、行政文書が水損し、甚大な被害にあった(写真1・2)。地下にある文書庫は天井付近まで水没し、がれきに埋め尽くされた大量の水損文書が発生し、職員で一部のファイルを開き乾燥させている状況であった。

 行政文書は将来にわたり同地域の貴重な歴史資料となることは自明のことである。釜石市市長及び総務課に「復旧方策について」※を提案説明し、提案受け入れ後、復旧作業を行うこととなった。この時、応急対応段階として薄冊20冊ほどを吸水とカビの増殖を防ぐために一部乾燥措置を行った。※復旧方策として、文書レスキュー作業工程(救出・搬送・乾燥工程)・資材・人員、復旧スキームを示す。被災後1か月半を経過した当時の釜石市は、まだライフラインの復旧さえ十分ではなく、乾燥作業などは市の自力で行える状態ではなく、公文書の整理や保存についての専門家の支援が必要であった。海水の影響でカビの増殖はなかったが、気温が上がった場合のカビの繁茂拡大などが心配されたため、その8日後の5月6日より作業を開始した。ここでの活動に当たり、筆者が窓口になりレスキュー活動を進めた。国文研チームとともに自治体の職員、また公文書の整理や保存についての専門家に参加頂きながら、被災した文書の救助と乾燥作業を実施した。

 市役所地下文書庫から近くの旧釜石第一中学校校舎への文書の搬送・移動は、6月10日に完了。総量は段ボール箱換算で1,000箱程、推定20,000点である。地下文書庫の文書リストは7月13日に作成を終えた。乾燥作業を進めているところだが、全体量が厖大であり、長期保存文書の選定が困難な状況である。乾燥場所は、電源及び水が使用できない環境であった。脱塩のための水洗は、カビの増殖をまねく危険性が高く、水洗して適正な乾燥場所が確保できないので実施しないことにした。

 完全水損でカビが繁殖した文書(写真3)は、圧縮袋(座布団用)で空気を抜き(写真4)、暗所に保管してカビの進行を防いだ(バインダー編綴文書はバインダーと本紙を分離)。カビ繁殖の文書は、津波後すぐにカビが繁殖したものであり、乾燥段階でのカビの増殖はあまり見られなかった。部分水損(一部が乾燥)文書は、キッチンペーパーで新聞紙を包んで吸水紙(キッチンペーパー新聞サンド)を間紙にし、水分を吸着する作業を繰り返しながら、段階的に乾燥させた。平置きの場合、下側の乾燥が遅くなるため、縦置きにした。(写真5)その際、適宜、砂やカビを刷毛で除去したが、完全乾燥後に泥・砂がさらさらととりやすくなるため、この段階では簡単に実施した。

 現地作業は5月6日~7月13日の間に行った。作業は国文研並びに関係機関の職員とボランティア、雇用支援として釜石市民を雇用(国文研チーム雇用1ヶ月間)して進めた。完全乾燥までおよそ1年、3年間はその後の経過を観察する必要がある。文書の必要度や状況により、洗浄・乾燥、別の媒体への代替化などを検討することにしている。一連の運営管理や作業指示は国文研の現地担当者が管理し、作業工程を見直しつつ計画的に進行できるよう努めた。

 7月2・3日に「東日本大震災津波被害資料の復旧プロジェクト報告会」を開催した。復旧プロジェクトは、東日本大震災により被災した文化財や公文書等の救助復旧の促進を図るため、参加者の方々と共に被災公文書等の救助・復旧活動に係る知識と技術を共有することを目的とした。作業報告と実地作業、被災地の状況の巡見を含めた企画である。交通機関が整備されていないため、チヤーターバス移動とした。釜石市や大槌町、山田町の被災状況を多くの方々に知っていただき、今後の活動の一助になればと考えた。

 現在、復旧作業第1期(5月6日~7月13日)における作業の目標を達成し、復旧作業第2期(7月14日~10月31日)を終えた。この間は、乾燥を促進するために現状を維持しつつ継続乾燥を行った。8月24日~30日に乾燥状態を確認する作業を実施した。10月14日~20日に、乾燥状態の観察のための水分計での計測、塩分・汚染物質の測定等を実施しつつ、クリーニング作業を行い、完全乾燥を促進させた(写真6)。現用文書の内、図面類のクリーニングも優先的に行い、ファイルに綴じられた図面類についても、泥が付着していて乾いている箇所を小タワシ、スポンジ、マイクロクロス、刷毛の順に用いてクリーニングを実施した。

 今後、2011年11月~2012年3月の期間に文書の再生作業(クリーニング・ファイル表紙交換・リストとの照合・元配架順に並び替えた配置換え)を実施する予定である。2012年4月から文書の活用が可能な状態とすることを目指している。「人間文化研究機構内国文学研究資料館チームの活動計画」工程表をまとめたので、参照願いたい。



この活動の意義


 公文書は行政上の基礎資料であるとともに地域・住民の記録であり、歴史資料となるものである。但し、現用文書は個人情報など公開できない情報が多く、職員以外は扱えない。自治体と支援者との信頼を築くことの証として、本活動では守秘義務に関する誓約書を取り交わした。今回のように、被災自治体とともに外部の支援者が行政文書の救助・復旧に携わる機会を得られたことの意義は大きいと思う。



国文学研究資料館
所在地:東京都立川市緑町10-3
TEL:050-5533-2900(代)
URL:http://www.nijl.ac.jp/


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写真1:釜石市市役所の地下分書庫。瓦礫が堆積している状況。


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写真2:文書庫奥の集密手動式の棚のファイル類の被災(下段に赤カビが繁茂)


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写真3:瓦礫の中から救出したぐにゃりと変形したチューブファイル文書


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写真4:応急対応段階での圧縮袋への簿冊の封入


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写真5:変形を補正しながら整形し、吸水紙(キッチンペーパー新聞サンド)を挿入後、整形して縦置きにして乾燥している状態


国文学研究資料館

写真6:120㎡ほどの教室での乾燥状況(この他に11教室で同様に乾燥を継続中)