KONGOKONGO
 
お問合せ・資料請求はこちら

HOME > PASSION+ >


PASSION VOL.32 November.2010
魅せる展示の考え方

08 東北芸術工科大学 

文化財保存修復研究センターの取組み


寄 稿:米村 祥央(東北芸術工科大学文化財保存修復センター保存科学研究室 研究員)

東北芸術工科大学.文化財保存修復研究センター




 東北芸術工科大学文化財保存修復研究センターは、東北地域の文化遺産を対象とした保存修復の実施と、関連する研究を進めるため、平成13(2001)年に大学付属の研究機関としてスタートした。平成17(2005)年度には、文部科学省私立大学オープンリサーチセンター事業に採択され、保存修復の現場に必要な様々な設備を導入した建物の建設が実現した。これによって大学の教室等を利用して分散していた各研究分野が集約された。大学付属の研究機関としては、我が国初の試みである。現在は、以下の6つの部門で構成している。

 ①立体作品修復部門
  近現代の立体作品と仏像等の古典彫刻の修復
 ②東洋絵画修復部門
  東洋絵画、掛け軸、巻物などの修復
 ③西洋絵画修復部門
  西洋絵画技法による絵画作品の修復
 ④保存科学部門
  資料の科学分析、保存環境調査、出土遺物の保存処理
 ⑤歴史・考古学研究部門
  地域の歴史遺産を対象とした研究
 ⑥文化財デジタルアーカイブ部門
  文化財の三次元情報の計測、デジタルアアーカイブ化

 各修復室は、それぞれの分野で培われてきた修復のスタイルを尊重するとともに、取り扱う作品の材質的な特徴等をも考慮した設備を導入している。また、科学的なデータを重要視する近代的な修復を実施・教育するため、エックス線回折や走査電子顕微鏡などの各種分析機器も充実させた。作品・資料のセキリユテイのための大型収蔵庫を設置し、さらに、当該分野の普及を考慮して作業風景を見学可能とするため、通路側壁面の大部分にガラスを採用した。



文化財保存修復研究センターの目的
 本センターの活動目的は、山形県内を中心とした、主に東北地方における文化財保存修復の拠点となり、保存修復の実施を通して地域住民との文化遺産への理解を共有することである。さらに、未来を担う若者への教育を進め、地域文化力の再認識と発展の一助となることを目指している。



保存修復の委託
 本センターの活動の柱となるのは、文化遺産保存修復の委託事業である。現在山形県内はもとより近隣県にも活動が徐々に認知されるようになり、毎年多くの修復業務を委託されている。修復時の調査では、作品・資料等から得られる情報を積極的に得るように努め、可能な限り公開している。こうした過程は、学術機関としての義務と認識している。
 近年の事例としては、鶴岡カトリック教会所蔵『黒い聖母像』、山形市指定有形文化財『薄荷栽培製法図絵馬』の修理、山形市内仏像詳細調査、岩手県大槌代官所跡出土木製品の保存処理指導など、相当数の実績をあげることができるようになった。『黒い聖母像』修復の際には、美術史の専門家とコラボレーションさせたシンポジウムを実施した。
 特に未指定となっている文化遺産は、修復の補助金を得られずに、劣化が進行してしまうことが多い。本センターでは、そうした文化遺産の処置を積極的におこなっている。所有者との精神的な距離が近い活動は東北の地方故に可能な活動でもあると認識している。



大学教育との連携
 東北芸術工科大学美術史一文化財保存修復学科と、同大学院芸術文化専攻保存修復領域は、近代的な保存修復を学ぶ、わが国でも極めて珍しい課程である。科学的な根拠に基づいた客観的調査、実験と検証による使用材料の選定など、作品に応じて検討していく姿勢を養うことに努めており、本センターも学部・大学院における教育に積極的に協力している。そのため学生は生の文化財に触れ、修復や調査一分析など、様々な形で関わることが可能である。実際の文化遺産を目の当たりにし、修復という形で作品の歴史の中に関わる、その緊張感・責任感を経験した学生の成長はめざましいものがある。人材の育成が文化遺産の保存につながっていくことは、これからの目本の文化財保存を検討するうえでも重要な考え方といえる。



今後の重点課題
 平成22(2010)年度より、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業『複合的保存修復活動による地域文化遺産の保存と地域文化力の向上システムの研究』(5年間)に採択された。山形県内にはその価値を広く認識されていない文化遺産が相当数存在することが予想されている。本事業では、悉皆調査を通して地域文化遺産とその価値の再発見をし、地域の力で保存していくシステムの形成を目指している。文化遺産の保存は大学等の研究機関や工房だけが行うものではなく、地域住民が価値を認識し、次世代に継承しようとする『想い』が重要である。文化財保存修復センターは今後も、地域住民とのつながりを重要視し、活動を続けていきたい。




東北芸術工科大学
所在地:山形市上桜田3-4-5
TEL:023-627-2000(代)
URL:http://www.tuad.ac.jp/


|PASSION Vol.32|08 東北芸術工科大学|魅せる展示の考え方|:金剛情報誌パッション:KONGO

PASSION+ 掲載中シリーズ一覧

こちらもCHECK!






東北芸術工科大学.文化財保存修復研究センター

機器分析室

東北芸術工科大学.文化財保存修復研究センター

東洋絵画修復室

東北芸術工科大学.文化財保存修復研究センター

立体作品修復室

東北芸術工科大学.文化財保存修復研究センター

外観