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PASSION VOL.32 November.2010
魅せる展示の考え方

05 国文学研究資料館 

MLAにおけるIPM活動の新しい実践と指向


寄 稿:青木 睦(国文学研究資料館研究部 准教授)

国文学研究資料館




1.はじめに


 国文学研究資料館は、施設の機能として博物館(Museum)、図書館(Library)、文書館(Archives)の3つを合わせ持ち、それぞれの本質的な機能をより発展させつつ、その特性を融合し活動する機関である。そのため、施設の機能を考慮した上で保存計画を策定し、エリア毎にゾーニングを行い、段階的なレベルを設定することにより保存環境管理に努めている。また、東京都品川区戸越より東京都立川市へと移転した2008年以降、四季ごとに行っている生物生息モニタリングの捕獲害虫の同定は、業者委託を行わず、自らの館における捕獲状況の傾向を把握することを目的とし、低コストでも精度の高い同定を目指している。
 当館が設定しているゾーニングプランの紹介と、生物生息モニタリングにおける捕獲害虫の同定手法の紹介とともに生物生息状況について報告する。



2.IPM活動範囲におけるゾーニング


 当館の収蔵資料は閲覧利用の核である国文学・歴史に関する図書資料(Library)、近世・近現代史料(Archives)、日本実業史博物館旧蔵資料が大半を占める器物資料(Museum)など多岐にわたる。それら資料の持つ性質や利用・活用形態を考慮して、図1に示す段階別レベルを設定したゾーニングを行っている。


図1 .段階別レベル階層
投函の収蔵資料は閲覧利用の核である国文学・歴史に関する図書資料(Library)、近世・近現代史料(Archives)、日本実業史博物館旧蔵資料が大半を占める器物資料(Museum)など多岐にわたる。それらの資料の持つ性質や利用・活用形態を考慮して、図1に示す段階別レベルを設定したゾーニングを行っている。
施設内図面にゾーニング設定したエリアをレベル別で色分けを行い、施設においての保存管理のあり方を明確にしIPM活動につとめている。




3.生物生息モニタリング分析

調査手法
①トラップ設置
 生物生息モニタリングに現在使用しているトラップは次の通りで、計159ヶ設置した。

  • イカリ消毒社製のタバコシバンムシ専用の誘引トラップ(商品名:ニューセリコ)22ヶ*タバコシバンムシ用の誘引トラップは、誘引に注意して中央付近に設置した。
  • 歩行性昆虫調査用箱形粘着トラップ(商品名ゴキブリインジゲータ小型)137ヶ 設置期間は2週間である。設置(写真①)と回収に際しては東京学芸大学教育学部環境教育課程文化財科学専攻の学生がボランティアとして行った。


②新しい実践としての同定方法
 まず回収したトラップを目視点検し、捕獲を確認したトラップの粘着部分のみを切断し、エリア毎に分類する。OPPフィルムを粘着部分に貼り付け、スキャナーに画像を取り込み、データ保存を行う。(写真②)データ保存を行うことにより、トラップの保管管理の問題から解消される。また、PC上での画面拡大操作で簡単な同定も可能となる。同定に関しては、パソコンに接続可能なサンコー社製デジタルマイクロスコープ「Dino-Lite Pro Polarizer M-02700」を用いて倍率40倍にて同定を行った。(写真③)パソコン上の画面で確認しつつ、捕獲虫の画像の保存が可能で、寸法スケールを画像に表示できる(写真④)。なお、チャタテより小型で1.0mm以下のものはゴミと判断した。そのデータを前述した生物生息システムへ反映させて分析している。


③分析結果・考察
 捕獲虫の種類とエリア別の結果を 図2.図3に示す。2008年6月~2010年5月の温度・湿度計測データ( 図4.ティアンドディ社製TR-72U温度・湿度データロガーUSBタイプ〔測定範囲:温度0~50℃、湿度:10~95%、計測間隔:5分〕)の温湿度計測データとあわせて分析を行い考察した。

 全調査期間の中で総捕獲数が最も多かったのは、2009年8月実施の調査であり、総捕獲数の内訳の中で最も多いのは、チャタテムシ目で、総捕獲数の増加には必ずチャタテムシ目の捕獲数の増加がみられる。資料に直接的な害をおよぼす可能性の高い虫の捕獲は、次の2例のみである。

 2008年9月調査で収蔵庫3にて捕獲されたヒメマルカツオブシムシ幼虫1個体はLevel.1エリアでの捕獲であったがその後の捕獲は無い。2009年8月調査で書庫にて捕獲されたタバコシバンムシ1個体は人の出入りの多いLevel.2エリアでの捕獲であり公共空問からの流入による捕獲と想定されるが、今後も注意が必要である。Level.1.2エリアで捕獲された虫はこの2例を除いては主にチャタテ目であり、Level.3.4.5エリアではクモ目、ハエ目、羽虫類も確認された。季節別に見てみると、総捕獲数は夏場に増加し、冬場に減少する。

 温度・湿度とあわせた分析を行ったところ、総捕獲数が多い2009年8月調査は、2年間のなかで最も高温・多湿であり、また総捕獲数が最少の2009年2月調査の温度・湿度は最も低温・低湿であることが確認された。これは、チャタテムシ目が高温・多湿条件において大量発生する傾向にあることを示している。捕獲結果には、温度・湿度の影響を受けていることが確認された。


 図2. 捕獲総数・内訳            図3. エリア別捕 獲数            図4. 収蔵庫エリア温度・湿度




4.おわりに

 2年間の生物生息モニタリングを実施したことにより、新営施設での初期の害虫捕獲傾向を把握することが出来た。特に段階別レベルの中で収蔵庫1・2、貴重書庫は紙資料、収蔵庫3は器物(複合物)資料であり、注意すべき害虫を特定することでその防御に努めたい。今後も長期的なモニタリングを行うことによって、継続的にIPM活動を行い保存環境の整備向上と安定化を目指す。温度・湿度の環境モニタリングも継続して実施しているが、その報告は紙幅の関係で割愛せざるを得なかった。今後報告の機会を得たい。

 また、当館での害虫管理のために害虫処理室を設置した。害虫処理室には、展示借用資料やその外箱の清浄化管理を目的とする空気清浄機能付棚と新規受入時に資料の窒素殺虫を行うための窒素発生装置を装備している。

 2009年4月より随時資料受け入れ時に行っている窒素発生装置による殺虫について、無酸素状態になるまでの経過を酸素濃度計を設置して計測を行い、無酸素状態の温度・湿度の記録を蓄積している。酸素濃度計を用いた窒素殺虫を行い、殺虫中の空間の酸素濃度を測定し、正確な無酸素状態を目指すことで徹底した害虫の根絶を目指している。


※当館における生物生息モニタリングは、「有形文化資源の共同利用を推進するための資料管理基盤形成」(人間文化研究機構人問文化研究総合推進事業連携研究文化資源の高度活用:研究代表者園田直子氏:国立民族学博物館)にて生物生息調査分析システムを導入した。
※本資料は文化財保存修復学会第32回大会研究発表要旨集「MLAにおけるIPM活動の新しい実践と指向」(国文学研究資料館・青木睦・広瀬真紀)を加筆・修正し、転載した。(同要旨集l40-141頁)
※文化財保存修復学会第32回大会研究発表要旨集「害虫処理における窒素殺虫と空気洗浄・調湿機能付伽の活用」(国文学研究資料館・青木睦・石井めぐみ・和田玲子・広瀬真紀)(同要旨集l50-151頁)



国文学研究資料館
所在地:東京都立川市緑町10-3
TEL:050-5533-2900(代)
URL:http://www.nijl.ac.jp/


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写真① 歩行性昆虫調査用箱形粘着トラップ

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写真② スキャナーでの画像取り込み

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写真③ マイクロスコープを用いての同定

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写真④ 捕獲虫の画像

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