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PASSION VOL.30_September.2006

09 収蔵庫工事の取組み


金剛株式会社
多田隈 卓司
Tadakuma Takuji

九州国立博物館
 
はじめに
 
 大切な文化財を後世へ継承するための収蔵庫、その構築工事にかかわる全員に収蔵庫の意義を周知することが何よりも大切だった。個々の意識が向上し「カビ虫の餌となるものを除去する」という前向きな清掃活動が実を結び、現場をクリーンな環境で維持することが無事出来た。その現場活動の一部をここで紹介したい。
 
現場運営
 
 九州国立博物館設立準備室様(以下準備室という)のご指導のもと、建築段階よりIPM活動を取り入れ施工に望んだ。最初は現場内の徹底した清掃の実施、まさに掃除に始まり掃除に終わるといっても過言ではなかった。
 収蔵庫の開口部は出入り口しかなく、建築終盤段階にならないと本設の空調設備が稼動しないため、特に夏場は湿度が高くなりカビの発生しやすい環境となることが危惧された。そこで工事用の仮設電源を最大限利用し、庫内の空気を還流させるための送風機と気中の湿度を除去するための除湿機を各部屋に計画的に設置した。朝と夕方には除湿機のタンクに溜まった水を、外部の水場に持ち出して捨てる作業を、毎日休むことなく工事期間中繰り返し実行した。この結果、現場内でのカビの発生はなく、地道な活動の効果が現れたものと確信している。
 
■現場内の収蔵庫の温室度データ例

 
品質管理
 
 次に、収蔵庫は外部からの汚染因子の侵入を防ぐ様々な処理(気密処理)を施している。そのため密閉度が高いので、内装材から揮発するわずかな因子も庫内に蓄積されてしまう。そのリスクを回避するため準備室と共同にて使用される材料の徹底検証を行った。
 ここでは品質管理の代表的な例として内装仕上げ材として採用されたスギ材の品質管理について紹介したい。木材は古来より文化財の保存に使用されてきたという高い信頼性の反面、生物被害を受けやすい脆弱性を持っている。そのため準備室と共同にて重点管理対象とし管理を行った。原木流通の段階から製材・乾燥・二次加工および現場搬入にいたるまでトレーサビリティを実施した。
 使用されたスギ材は有機酸の少ない無節の部位となった。この材料は1本の原木から数枚しか採取できず、一般木材加工従事者の立場からすると非常に効率の悪い作業であった。(写真1)
 検品は抜き取り検査ではなく、工場出荷前に現地にて全数検品(写真2)を行い、現場内でも受入時に検品(写真3)を行う、二重の管理体制とした。その結果求められる品質はJAS規格以上のもとのとなった。木材加工に係わった方々の協力により、原木の調達から現場納品までの数年間に渡り、一定の品質の材料を無事に供給することが出来た。納入後は何の問題もなく、九州産スギ材の品質の良さが実証された。
 
所感
 
 木材を使用する場合は、木の栄養分と虫カビ害と材面品質のの因果関係を考慮した、寒い時期に伐採された原木を採用した方が品質的に望ましいと考えられる。同時に年間を通じて定常的に安定供給される材料ではないので、導入時期の充分な計画が必要となる。
 最後に、今同の工事に携わり施工においても文化財保護のための知識と配慮が大切なのかを改めて痛感した。これからも我々は愚直なまでに真っ直ぐな気持ちと、知識の研鑽を進めて収蔵庫施工に携わって行きたい。
 
 

PHOTO GALLERY

九州国立博物館

日々の清掃状況

九州国立博物館

建設時の九州国立博物館

九州国立博物館

建設中の収蔵庫

九州国立博物館

製材後の原木(写真1)

九州国立博物館

製材時の含水検査(写真2)

九州国立博物館

現場での受入れ検査(写真3)

九州国立博物館

収蔵庫の施工状況

 
 

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