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島田美術館”五感の垢”に磨かれていく作品たち

社会文化に貢献することを理念とする金剛株式会社では
『文化を守り伝えていくこと』の意義について
より多くの方々に知ってもらい、考えてもらうため
美術館や博物館の所蔵品についてレポートする活動を始めました。


 

熊本県 島田美術館

 
 

熊本市内の住宅街に佇む私立美術館

島田美術館

島田真富翁銅像



 島田美術館は、1977年秋に設立されました。同館の所蔵品は、故 島田真富(まとみ)翁が生前に蒐集したものです。
在野の故実研究者として熊本の武人文化の保存・研究に力を入れられた真富翁は、私蔵が死蔵に堕することを危惧して、美術館の設立を願っていました。その遺志を継いだ真富翁の孫にあたる島田真祐氏(現・島田美術館 館長) の手によって開館に至りました。
 

島田美術館と武人・宮本武蔵

島田美術館といえば、宮本武蔵に関する所蔵品が多いことで有名です。
島田真富翁が生前、武蔵会会長を務めるなど、熊本ゆかりの武人の中でもとりわけ宮本武蔵に関して強い興味を持って研究されていたためです。
時に海外の方も、宮本武蔵関連の作品を見る為に島田美術館を訪れるのだとか。
 
中でも、島田美術館所蔵の『宮本武蔵肖像』は、数ある武蔵像の本歌であると考えられており、熊本県指定重要文化財にもなっています。
 
 

宮本武蔵肖像(一部)

宮本武蔵肖像』について

 
この肖像画は、武蔵が創始した兵法『二天一流』を継承した熊本藩士寺尾家に伝わったものです。
「肖像画は、故人の遺徳を偲ぶため、尊崇の対象として作られたものです。後に別系の肖像も描かれ、模写作品もかなりの数残っていますが、中でも本図は晩年の武蔵の実像をもっともリアルに伝える優れた図像です。」
と、清川真潮さん(島田美術館 事務局長)は言います。
 
今でこそ有名なこの肖像画ですが、現代の私たちがこの作品を見ることができるのは、弟子筋の方々が尊敬と畏敬の念を込めて自らの太祖の姿を大事に受け継ぎ、鑑賞してきたおかげなのです。

 

ヒーローとしての武蔵

 

巌流島仇討之図 (五雲亭貞秀)絵画左の人物が武蔵。

肖像画とは別の流れとして、宮本武蔵の像は大衆にも広まっていき、浮世絵の主題ともなっています。島田美術館には、巌流島の戦いの場面を描いた『巌流島仇討之図』も所蔵されています。
 
 
現代の私たちが思い描く“宮本武蔵の姿”と異なり、美青年のように描かれている武蔵が印象的です。かたや浮世絵の中の佐々木小次郎は髭を生やして、いわゆる“悪人面”。初めてこの浮世絵を見た人は、こちらを宮本武蔵だと思う方もいるのだそうです。
 
浮世絵の中の武蔵が美化されているのは、彼が主役であることを強調するための表現です。同様の主題の浮世絵が多く残っていることから、仇討物のヒーローとしての武蔵が、当時の人々の人気を集めていたことを物語っています。彼を慕い、彼に憧れてきた人たちが保存してきたおかげで、武蔵の浮世絵は現代に在るのでしょう。
 

田舎武士の江戸土産展


島田美術館では、この『巌流島仇討之図』を含む、島田真富翁の御親族が保管していた浮世絵数十点による企画展『田舎武士の江戸土産』展を年始1月5日(土)より開催するとのこと。
1月26日(土)には島田真祐館長によるミュージアムトークも行われます。
 
ヒーローとして慕われた武蔵の姿もまた、後世に伝わっていってほしいものです。

“五感の垢に磨かれて”いく作品たち

 
島田真祐氏に対して島田真富翁が古美術について説いた際の言葉として、こういったものがあります。
 

「ええか。世の中に残っとる古物(こぶつ)はみな、大勢の手垢、目垢、耳垢、口垢、頭垢(ずあか)にまみれとる。大勢とは、作った者、作らせた者、使うた者、いっとき手元に置いた者、見た者、たあだ噂に聞いた者、頭の中だけでひねくった者たちの事たい。まみるる一方で又、その時々の数えきれん大勢の五感の垢に磨かれて現在(いま)あると思えよ」
(熊本日日新聞平成19年12月14日12面)

 
 
多くの人の手を渡り、多くの人に鑑賞され、その時代その時代での評価を受けながら後世へ伝わっていくことで、古美術は“磨かれていく”ものだ、とでも言えばよいのでしょうか。
まさに島田美術館は、古美術がこれからも“大勢の五感の垢に磨かれ”るための場として設けられたとも言えそうです。
 
上述の宮本武蔵に関する作品はとりわけ、いつの時代も多くの人が武蔵に思いを馳せるための手掛かりとして、あるいは流派の太祖の姿を崇めるための対象として、人から人へ伝えられてきたものであり、まさに“大勢の五感の垢に磨かれて”きたものの代表格だと言えるでしょう。
そう思えば、そんな作品が“現在ここにある”ことの重みを改めて感じます。
 

地元にあることを喜ばれる美術館に

 

島田美術館事務局長 清川真潮さん


そんな島田美術館の今後の目標は、「地元の小学生たちに、卒業までに1度は来館してもらうこと」だと清川さんは語ります。
 
「その子供たちが将来県外やあるいは海外に出たときに、『自分の地元にはこういう美術館があった』と語ってもらえる美術館になることが目標です。」
 
 

取材を終えて

 

 
今回お聞きした真富翁の言葉として、冒頭に紹介したもののほかにもう一つ印象的なものがありました。
 
「ものを見る時は座ってみるもんぞ。ただの礼儀作法じゃなか。昔の美しかもんは、絵も道具も皆、座って眺める時に一番ようわかるごつ出来とる。」(島田美術館ホームページより)
 
というものです。
その遺志を継いで、真富翁の旧宅を改築した美術館の一部には、座敷のスペースも残してあります。
静かな座敷で作品と対座していると、それが現在ここにあることの意義と、よりしっかりと向かい合うことができたように思いました。
「“垢”を一度とりはらって作品そのものと向き合って、美しさを感じてもらえる場にもしたい」
とも、清川さんが語ってくれました。
今まで付されてきた評価などをすべて取り払った作品そのものを感じることは、真富翁が仰ったように、座ってじっくりと時間をかけなければできないことかもしれません。
島田美術館はそれを可能にしてくれる、数少ない美術館ではないでしょうか。
 
 
(金剛株式会社 総務・人事・SRチーム 原田)

 
 


 

島田美術館
〒860-0073熊本県熊本市西区島崎4-5-28
URL:http://shimada-museum.net/
 
ギャラリーでは現代の作家の個展等も催しており、約10日に1度展示替えを行っている。
 
 

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