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PASSION VOL.31  November.2007

現場の取組み・考え方


11 保存環境における温室度管理の重要性

木庭 裕章
(金剛株式会社CT本部 CTグループ


1 はじめに
 
 温暖湿潤な気候風土をもつ日本には四季があり、季節の変化に応じて私たちを取りまく環境も大きく様変わりする。とりわけ大きな変化として感じられるものに気温が挙げられる。当然ながら気温には湿度も大きく関係しており、時には結露となって姿を現す。そこで私たちは衣服や冷暖房あるいは除湿加湿、最近では環境への配慮から打ち水など昔ながらの手法も見直されてきているが、このように様々な策を講じて寒暖を調整し、快適に過ごせるよう工夫する。では、人ではなく“もの”の場合はどうかというと、保存・保管の上ではやはり周辺の温湿度のコントロールが重要である。というのも文化財に代表されるような保存を重視する“もの”には、特に紙や木で構成されたものが国内では多く、これらは吸放湿性があるため湿度に対して敏感に反応し、伸縮を繰り返すうちに紙はしなやかさが失われてしだいに劣化していく。またさらに紙や木はセルロース(炭水化物)からできていることから温湿度条件さえ調えば、カビにとって格好の栄養分となる。従って、日本の気候は“もの”にとって過酷な環境であるとも言える。
 

保存環境,温室度管理

図1 東京の月別平均値(℃・%)とカビ範囲 資料)「文化財の虫菌害と保存対策」(財)文化財虫菌害研究所


 
 
2  日本の気候とカビの関係
 
 図1は東京の気温と相対湿度の月別平年値をプロットしたクリモグラフに紙資料の最適保存条件ならびにカビの発育範囲を加えたものである。カビはその生理性状により湿性カビと乾性カビに大別される。簡単に説明すると、風呂場など水回り環境でよく見かけられるのが湿性カビの仲間であり、書籍など特に水に濡れたわけでもないのにカビが生えている場合は、乾性カビの仲間であるケースが多い。
 保存を検討する場合、まずはその土地の気候風土を把握すると良い。東京では5月中旬から9月中旬にかけて乾性カビの生えやすい時期に当たるため温湿度管理にはより注意が必要となる。しかし、屋内環境ではコンクリートなど気密性の向上と冷暖房の普及に伴い、年間を通じてカビの生える危険性が高くなっている。
 
保存環境

写真1 検出された落下菌


 
3  環境調査
 
 弊社では、10年以上前よりお客様の保存環境を調査・分析し、保存上の問題点を把握・改善を図ることを目的に環境調査を実施している。調査内容についてはお客様の要望及び現場状況により異なるが、主に以下の様な調査を行っている。

  1. 温湿度調査
  2. 微生物調査
  3. 粉塵調査
  4. 空気質調査(酸・アルカリ・VOCなど)
  5. 昆虫調査

 

保存環境

図2 温室度測定事例


 
4  調査事例の紹介
 
 図2は某物件の保存環境における温湿度調査の結果を示している。調査を行った部屋は建物1階にあり、空調設備は稼動していなかった。
 グラフより、屋外の温湿度は1日を通して大きく変動していることが分かる。通常、降雨が無ければ気温が最も高くなる午後、湿度は逆に最も低い値を示す。特に冬場の乾燥する時期の外気は、30%の湿度を下回ることもしばしば見受けられる。期間後半の屋外は降雨により高い湿度となっているが、室内の湿度も同時に高くなっていた。これは出入□扉のガラリ部分より湿気が室内に流入していることが確認されており、室内は外気の影響を比較的受けやすいと判断され、高温多湿となる梅雨時期から夏季にはさらに湿度が高くなることが推察された。
 また、写真1は微生物調査により現場から採取後、培養により検出された落下菌(カビ)である。カビは通常、胞子の状態でホコリなどと一緒に空気中を飛散しており、それらが収納物などに落下後、前述したような高い湿度環境になると発芽する。落下菌も保存環境を推し測る上での貴重な指標となり、温湿度が高い環境ほど多くの落下菌が採取される傾向にある。またその場合、菌の種類も乾性カビよりむしろ湿性カピの方が多く見られる傾向にある。すでに壁面などにカビが生えた環境や何となくカビ臭かったりする部屋では驚くほどのカビが採取される場合もあるので、注意が必要となる。
 
5  おわりに
 
 以上のことから“もの”の保存・管理を考える上では、その材質や活用条件に合わせてできるだけ安定した温湿度で管理することが湿度による蒸れや疲労劣化を防ぐだけでなく、微生物(カビ・細菌)劣化の予防にも繋がるため重要なカギとなる。微生物は至る所に存在しており、保存環境よりカビを完全に排除することは不可能に近く、薬剤などを使うことはかえってリスクも大きくなるため、カビが繁殖しにくい環境に温湿度を中心に整えることの方が賢明と考える。そのためにもまずは保存環境の現場状況を充分に把握することが重要である。
 

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