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PASSION VOL.31  November.2007

現場の取組み・考え方


03 武蔵工業大学世田谷キャンパス図書館 

利用者本位のデザイン 
ー集密書庫のスケルトン・デザイン

    • ※現在の名称は東京都市大学世田谷キャンパス図書館(2009年:大学名称変更)ですが
    • 本稿は取材当時の旧名称にて表記しています。 

武蔵工業大学世田谷キャンパス図書館

話し手:岩﨑 堅一(武蔵工業大学建築学科)
聞き手:木本 拓郎(金剛株式会社企画チーム)
 


武蔵工業大学世田谷キャンパス図書館

 
[木本] 本日は、武蔵工業大学図書館様に導入されました集密書架のスケルトン・デザインについて
図書館設計者であります岩﨑先生にお話をお伺いしたいと思います。
 
[岩﨑] はじめに武蔵工業大学図書館の施設計画の背景をお話します。本計画は、本学創立75周年記念事業の第2期プロジェクトとして進められ、学生総数6000人、敷地面積2.5ha、蔵書計画35万冊などの諸条件がありました。本学の学生は4年生から研究室に所属し大学院生も含め、各自の席や研究室があります。一方で1年生~3年生は、自分専有の席=場がありません。学生は一般に食堂や図書館、空いている教室を場として使っています。学生にとっては、授業以外の時間も大学生活の充実を図る上では大切であり、仲間とのコミュニケーションの場、集中して勉強出来る場を確保することが重要になります。第1期プロジェクトでは体育館・食堂棟の整備・再生を行い、食堂には1000席の座席を設け、学生はグループミーティングなどに使いながら、自分たちの場を作り出しています。さらに今回の図書館でも650席を確保し、学生は自らの好きな場を選ぶ機会が増えました。図書館と食堂はドライエリアを介して繋がっており、学生は自由に行き来しています。
 
さて、図書館の建築計画の中で最も重視した点は「開かれた図書館にする」ことでした。それは、建築的なハード面でもそうですし、ソフト面でも考慮しました。
 
施設の構成として地下1階、地上4階建のRC造であり、1階は前面サクラガーデンと連続性のあるロビー空間を設け、学内だけでなく近隣の方々も立ち寄りやすいアプローチとしました。2~4階は自然光を取り入れながら本に囲まれた空間を実現するため、外壁面と一体化した書棚を考案しました。特に3、4階は中庭の紅葉を望み四季折々の変化を感じられる閲覧空間になっています。地下1階はメディアライブラリーと集密書庫ですが、外周にドライエリアを設けることで明るく開放的な空間が実現しました。また、無線LAN等の情報インフラの整備や、大学図書館ではじめてICタグを導入するなど、キャンパスのユビキタスネットワーク化の拠点としても始動しています。24時間開館についても議論しながら計画を進めました。将来的に24時間対応になることがヴィジョンとしてあります。
 
図書館を設計する過程では、管理者・利用者としてそれぞれの立場の視点がでてきます。もちろん、運営・管理面からのアプローチも重要ですが、同時に利用者の視点に立ち、開かれた環境をつくることを重視しました。
 
先ほどの「開かれた図書館にする」との命題に対して具体的な例を申し上げますと、学生が多くの本に触れるために開架書架を採用することが考えられますが、当然そうするには床面積が必要ですし、閲覧空間の座席数確保も重要です。そこで面積配分のバランスや効率を考慮し、集密書架という選択肢が出てきます。しかしこれまでの集密書架空間は、いわゆる書物の倉庫のような、わかりにくく閉ざされたエリアであったと思います。本学図書館では、「開架としての集密書架」を積極的に活用しようと考え、学生や一般利用者にとっての使いやすさの視点から「書架の可視化」のアイデアに至ったのです。
 
「高収蔵力」「使用頻度が高い」といった諸条件で開架の集密書架としてデザインに取り掛かり、要件としての「エリア内の安全性を確保する」、「自由に出入りでき、本に触れやすい」ことを実現するため、まず集密書架室の壁面をガラス間仕切りとし他のエリアからの見通しもよく開放的な空間を考えました。次に集密書架自体も透過性を高めるべく側板を透明アクリルにしました。本は1冊1冊がデザインされたものであり、美しく見せたいものです。集密書架のスケルトン・デザインはこのような過程を経て生まれました。この集密書架は、自立書架利用時とそれほど変わらずスムーズに本に触れることができ、利用者、管理者からも喜ばれています。
 
 
[木本] 集密書架への可視化の発想については私たちの常識では生まれてきませんでした。
 
[岩﨑] これまでの集密書庫は閉架として利用されることも多く、利用者は目的の本、要求した本しか触れることが出来ないこともありました。利用者は多くの本の中からブラウジングして思いがけない資料やデータ、文章に出会えるかもしれません。だからこそ、できるだけ書籍をオープンな環境におけるような計画が必要でした。今回導入した金剛製の電動書架(HPZA型エリアセンサ仕様)は、「安全性と信頼性」「使いやすさ」の点で非常に評価できます。開館後、事故もなく、学生にもわかりやすく探しやすい、管理者も整理・配架しやすい。
 
これまでメーカーが提供している仕様・意匠は、スチールパネルを基調としたオフィス家具の延長線です。集密書架の基本認識は閉鎖的だったのでそれでもよかったのかもしれません。但し、今回は開架集密としての利用法での、アクリルパネルの採用は、オープン書架のように親しみをもつことができると学生からの評判もよく、集密書架の積極的利用の可能性を感じました。
 
最近、世の中では目的志向が多いように見受けられます。インターネット検索の利便性か恒常化し、キーワードだけで自動的に情報を探し出すことができる、そこで得られた限られた情報だけで判断するような傾向にあるようです。本の良さは、探している目的物以外の情報との偶然の出会いがあります。図書館に行くと書架に並んだ本の周辺情報まで触れて見ることが出来ます。情報をPCや携帯電話を通してスピーディーに得るITのメリットと共に、実際に本に触れ幅広くそして深度を深めていくという人間の行動を伴った体験的な情報取得の素晴しさをバランスよく活用することが重要です。社会では、周辺の状況を広く読み解き判断する力が必要だと思いますが、図書館においても同様な発想が大切ではないでしょうか。
 
本プロジェクトでは、図書館員の方々も計画段階から、利用者本位の視点で考え、意見を出して協力的に進めてきました。そして様々な段階を経て、「本と人とが交流し対話できるような空間」を目標に、実験的に本の収蔵方法のビジュアル化を試みたわけです。
 
 
[木本] 館内の消火栓BOXもスケルトン化されています。
誰でも見れば、そこに消火栓があり、何か収納されているのか一目で分かります。
 
[岩﨑] 視覚は物事を認識する際、大きなウェイトを占めます。目で見て、感覚で判断できることが非常に重要です。私は、ものづくりの際、色や形のみにこだわるのではなぐ機能をスマートに人に伝える'というシンプルな発想を大切にしています。すなわちデザインは、ものごとを様々な視点からトータルに考えることから生まれると思っています。
 
 
[木本] 本日は貴重なお時間とお話を頂きまして、ありがとうございました。

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開架スペース

東京都市大学(旧 武蔵工業大学世田谷キャンパス図書館

所在地:東京都世田谷区玉堤1-28-1
TEL:03-3703-3111(代表)
URL:http://library.tcu.ac.jp

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