KONGO PASSION vol.35 2014.10
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 上記のパラダイムシフトは正直、全国的に広がっているかは判断が難しい所ではありますが、筆者が接するエンドユーザー様には着実に広がっていると感じています。 維持管理・IPMメンテナンスの 必然性  80~90年代はいわば博物館・美術館のベビーブームでもあったため、現在、施設の老朽化は言うまでもなく、それと同様に「保存環境」「収納能力」のことで頭を抱えている館も多くある※7とお聞きします。  一方で最近、老朽化したインフラや公共施設で発生した事故(例えばトンネル天井崩落事故)は、記憶に新しいところです。これらの多くの課題は、維持管理が後手に回されたり、点検を軽視したことによる結果だと思われます。  モノづくりの現場では、特に工場設備の定期点検についても人手を割いて実施され、点検に携わる人材の育成が行われています。点検で異常が見つかれば、早めに対処する「予防保全」に取り組むことが大事です。状況が悪化してから直す「事後保全」に比べて費用が抑えられ、設備の寿命を延ばすことができます。  上記の背景を踏まえながら、近年、新築や改修にて素晴らしい保存設備や展示設備を大規模な予算を執行して作り上げられた施設は、それを適切に維持管理していく必要があると考えます。メーカーとしてハードとソフトを融合した提案で、総合的なソリューションをご提示できるように経験と工夫と積み上げて参りたいと考えます。 メーカーの立場での IPMコーディネータ  金剛では設備提案(ハード)だけではなく、資料保存活動(ソフト)まで多岐に亘り、お客様からの相談対応が増えています。IPM活動も含めた総合的サポートよるお客様ソリューションの実践で、現在、納入後のメンテナンスとして、エンドユーザー様との協同でIPMメンテナンスのサポートを行っています。  また、モノづくりにも積極的に反映させていくことで、使い勝手のいい、メンテナンス性のいい製品の開発や改善改良活動へ取り組んでいます。 例1) 収納棚の場合、これまで収納量を重視した設計仕様でしたが、掃除し易いように足高仕様を社内標準としました。これは古くから棚の最下段には何も置かないという先人の知恵にも通じるところがあります。 例2) 収蔵庫内装工事は建築工事のカテゴリーに入ります。内装工事は段階的に清浄度を高めるように清掃を計画していきます。最終引渡し前には専用クリーナーと専用クロスにて、カビの温床となる収蔵庫内の塵埃の除去に努めています。 例3) 収蔵庫に什器をレイアウト提案する場合も、空気の停滞する空間や埃溜まりがないように設計考慮しています。しかしながら慢性的な収納空間不足を抱える施設では収納量(力)を重視されがちであり、安全の基準をどのように設け、お客様とのコンセンサスを図ることに関してはこれからの課題と思っています。  IPMの視点からメーカーとしての責任はどのようなものなのか、文化財IPMコーディネータをどう活用していくのかと現在も試行錯誤しています。まだまだ、整理は未成熟な状況ではありますが、今後、エンドユーザー様をはじめ、PCO会社、物搬会社との連携を行い、メーカーとしての情報収集と経験を蓄積していくことが課題です。 結び  筆者はIPMを学び始めて、「気づき」と「意識の変化」を感じています。  気づきというのは、IPM研修会の実習の中で塵埃の話が出てきますが、結構、部屋にも埃溜りがあり、毎週末それを掃除機で吸い取ると、その塵埃の多さにびっくりします。掃除を重ねるうちに埃溜りの場所がある程度、特定できるようになりました。大抵は隅にあるのですが、机のちょっとした溝の中とか、普段は全然気づかない、意識もしなかった所にも気づきが生まれたことは大きな収穫です。これは施設でも同様だと思います。  意識の変化については、他の人に任せずに自分自身で動いて、やってみることで、筆者自身の意識の変化に繋がりました。文化財IPMという言葉だけでは難しそうですが、自分自身がやってみることで、色々な面で学ぶことができました。  筆者は博物館や美術館、図書館に勤めているわけではありませんが、現在の業務や私生活を通じて、文化財IPMに繋がる考え方を経験していると思います。今後は、さらに全国の多くの施設を通じて経験を積み、適切な提案を発信できる「収蔵庫メーカーのIPMコーディネータ」として、文化施設におけるIPM活動をサポートして参りたいと考えます。  さらにそれらの経験や工夫を社内外へ発信していき、より綿密なコミュニケーションを図りながら、文化財IPMの理念をはじめ、よりよい保存環境への貢献、さらに私どもの企業理念である「安心と先進で、社会文化に貢献する」を探求していきたいと考えています。 42※1:Integrated Pest Managementの略称 総合的有害生物管理 ※2:PASSION Vol.30 特集・九州国立博物館 金剛発行 ※3:ミュージアムIPM支援者研修(基礎編・技術編・応用編) ※4:公開シンポジウム「市民と共に ミュージアムIPM」 於:九州国立博物館 ※5:Pest Control Operatorの略称 有害生物防除・殺菌技術者 ※6:PASSION Vol.34 熊本市現代美術館・全館一丸でのIPMへの取組み 金剛発行 ※7:PASSION Vol.32 愛知県美術館・開館後18年を迎えたある美術館 金剛発行 本文は、文化財の虫菌害65号(2013年6月、 (公財)文化財虫菌害研究所発行)に寄稿した内容を 一部修正しています。

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