KONGO PASSION vol.35 2014.10
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13設備メーカー、IPMとの出会い  はじめに筆者が所属する金剛株式会社(以下、金剛)は、博物館・美術館の収蔵庫設備及び展示設備、図書館家具及び書庫設備といった保存・保管設備全般の設計・製作・施工・メンテナンスを一貫した実施体制を有するメーカーです。  私ども金剛がまずIPM※1を知り、IPMに携わるきっかけとなったのは、平成17(2005)年の九州国立博物館(以下、九博)の収蔵庫工事があげられます。九博設立準備室のご指導の下、収蔵庫設備の建築段階よりIPM活動を取り入れた製作・施工はこれまでにはない考え方で進みました※2。特に、設備の設計仕様をはじめ、材料選定とトレーサビリティによる品質管理、虫・カビの餌となるものを持ち込まない工事現場の衛生管理、工事中の清掃作業等においてもIPM的活動の意識づけが行われ、施工を通じた文化財保護のための知識や配慮の重要性を本工事に携わった社員関係者は学ぶことができました。  さて、筆者は主に営業支援・販売促進・製品企画等の業務を担当しており、残念ながら九博工事に携わっていません。納入後、販売促進用の写真撮影での訪問が初めてでした。表敬訪問へ帯同した時、副館長・担当課長より「収蔵庫は作るだけでは終わらない。IPM的収蔵庫のメンテナンスについては、収蔵庫メーカーの役割も重要になってきた。」とのご意見を頂き、企画担当としてビジネスプランの立案に着手しました。  机上の論理とよく言われますが、IPMという言葉だけでは正直分かりづらい所があり、まずは九博におけるIPM活動の見学をはじめ、IPM研修会※3やIPMシンポジウム※4といった知識向上のための“学ぶ機会”に積極的に参加していきました。当初はIPMに関するテクニック論を求めていたのですが、関係の方々と話を重ねるうちに、大切なものを伝承するための「理念」を学ぶことに至りました。 文化財IPMの理念  文化財IPMの経緯や内容については、多くの有識の先生方にて報告があるので筆者からの詳細は割愛します。文化財IPMに関して筆者の認識としては、「従来の薬剤燻蒸の定期実施の保存管理」から、「IPM活動といった人の目と計測データによる日常管理の保存管理」へ、管理手法やその考え方がパラダイムシフトしたと考えています。  具体的には、パラダイムシフトの1つ目として、これまでは担当学芸員と専門技術者によって文化財保護のための知識や配慮が行われてきたと思われますが、IPM活動の場合は、担当学芸員だけではなく総務職員や清掃員、警備員、市民ボランティア、PCO※5会社、物搬会社、さらには私どものようなメーカーまでが携わり、多くの方々が協力して文化財保護の一端を担うことになるのです。文化財保護のための知識や配慮の「共有」と力を合わせて事に当たる「協同」こそ、文化財IPMの理念だと考えています。文化財IPMが単に掃除だとか、温湿度計による情報収集の単なるツールだけではなく、協同してある1つの目標に向かって進む、組織を変革するようなパワーを持っていると感じています※6。実際、九博のIPM支援者研修報告会では、参加者の活き活きした発表内容と意気込みのある顔つきを多く見てきましたので、確信に近いものと感じています。  パラダイムシフトのもう1つが、設備(ハード)ありき論や業者依存論からの脱却であり、日常活動(ソフト)を含めたIPM的起点の協同ソリューションです。私どもは、メーカーとして設備による最適な保存環境管理をサポートしてきましたが、限界があることも事実です。 例1)停電や節電に伴う空調設備の停止 (実際はランニングコストの低減、運営予算の圧縮) 例2)施設建屋や設備の老朽化 (改修費用が多額で予算獲得が困難) 例3)収蔵庫や書庫の狭隘化で空調の排気口が塞がっていた (空気循環の停滞が発生) 上記の要因で温度・湿度の変化が生じたことによる生物被害の話もよく聞くところです。また既存施設の建材や梱包資材による影響も文化財保存修復学会等でも報告されています。これからはエンドユーザー様と業者とが協同でこれらの要因を把握することで、施設全体の危機管理の掌握にも繋がっていくと考えています。 Report文化財IPMと 設備メーカーの関係性 ~文化財IPMコーディネータとしての期待~ 木本 拓郎(金剛株式会社 業務本部) 41

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