KONGO PASSION vol.35 2014.10
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運ばれた砂の付着であった。また、もう一つの劣化要因として津波に含まれていた塩分についても考慮する必要があった。そこで、応急処置では、表面に付着した砂と塩分の除去について検討した。  表面に付着した砂は、清浄環境にある一時保管場所を汚損する要因でもあり、必須の作業となる。また、この表面の砂は塩分も含んでいるので、湿気を呼び込み、カビの発生を促進させる。さらには、一時保管場所で進められる資料整理等の活動では、取り扱いを困難にし、整理作業そのものを著しく阻害する要因となるため、早急に除去する必要がある。  もうひとつの大きな劣化要因である塩分に対しては、今回の震災で被災した文化財の塩分の除去を目的した脱塩処理の実施が考えられた。しかし、水槽や排水施設の整備が必要なことから、2011年度での実施は難しい環境にあると判断した。  以上のことから、応急処置をおこなう現場で脱塩処理を実施することは難しいと判断し、2段階方式による応急処置法を採用することとした。  第1段階は、資料の表面を汚損し、取り扱いそのものを困難にしている砂およびヘドロを除去することである。この除去法については、当初は、筆者がこれまで経験してきた河川の水害による被災民俗資料の洗浄と同様、一度、水に浸漬して、表面の砂やヘドロをふやかし、柔らかい刷毛やブラシを用いて除去することを想定しており、そのための条件は水が使えることであると考えていた。この方法は、隣接していた製紙工場の原料が大量に流れ込んだ博物館の民俗資料について大きな成果を上げることができた。しかし、他の現場の民俗資料の応急処置を進めていくなかで、少し状況が違うということに気づいた。それは、民俗資料の表面を汚損しているものが海砂であり、乾燥している場合は、無理に水を使わなくても、刷毛などによる払い落としの作業で十分に除去できるということである。また、応急処置を進めていた時期が梅雨を迎えつつあり、水を使った洗浄は、乾燥過程でカビが発生することが懸念された。そこで、多くの民俗資料については、水は極力用いず、柔らかい刷毛やブラシで構成する洗浄キット(写真2)を用いて作業をおこなうこととした。もちろん、水洗作業をおこなう必要があると判断したものは、洗浄後の乾燥に十分に配慮しながら作業をおこなった。以上の作業では、洗浄キットで落とせるだけの砂を除去するという極めて明快な判断基準を作ることができたことから、約4000点にも及ぶ大量の民俗資料の一次洗浄を達成できた。  次に第2段階での作業は、塩分の除去を見据えた活動であり、2012年度以降の課題として、現在実施している。具体的には、救出した民俗資料の状態調査の実施からはじめ、津波に含まれた塩分が材質に及ぼす影響の検証をおこない、脱塩処理の実施を検討するというものである(写真3)。その結果、特に木部を主要構成素材とする資料は、塩分劣化を防ぐための脱塩処理が必要との結果が得られた。また、塩分を含んだ民俗資料は、塩分が湿気を呼び込み、カビを発生させ、一時保管場所全体の環境を汚損することも懸念されることから、なるべく早い時期に脱塩処理をおこなうことが望ましいと結論づけた。現在、被災地の博物館や大学機関と連携して、本格的な脱塩処理の実施に向けた体制作りをおこなうとともに、大量の民俗資料に対応するため、本格的な保存修復としての脱塩処理を実施するための予算申請を検討している。 被災した有形文化財が 復興するまでの活動  以上、被災した民俗資料の救援活動について、救出・一時保管・応急処置を紹介した。また、応急処置としての第2段階目の作業としての脱塩処理について紹介した。しかし、これらの活動は、地域文化財としての民俗資料としての価値を取り戻すものではない。そのような価値を取り戻すための活動として、私は次の8つの活動があると考えている3)。 被  災:災害が発生して被害を受けた状況で、何も対処されていない状態。 23$東日本大震災で被災した民俗資料の保存修復の取り組み 国立民族学博物館 写真2/洗浄キット

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