KONGO PASSION vol.35 2014.10
23/44

史資料、有形民俗文化財等の動産文化財及び美術品であると示されている。ここでの国・地方の指定された文化財とは、日本国の文化財保護法や国内の市町村の文化財保護条例の規定のなかで、特に重要で保存の必要性があるものして指定されている文化財のことを指している。実は、ここで対象とされた文化財の設定には大きな意味がある。通常、文化庁や自治体の教育委員会で保護の対象とされる文化財は、指定品に限られている。一方、救援委員会の対象文化財には、指定の有無を問われていない。つまり、文化庁も自治体の教育委員会も東日本大震災という大惨事に対して、通常の業務範囲を大きく拡大しているのである。なお、このような決断で組まれた体制は、1995年の阪神・淡路大震災以来である1)。 有形文化財の救援活動  救援委員会における被災文化財の救援活動は、救出、一時保管、応急処置の3つの活動を支援するものであることは前述したとおりである。このなかで、救出、一時保管の活動は被災現場のなかで実施するものであるため、かなり劣悪な環境下での作業となる。  救出活動では、周囲のがれきの撤去作業で巻き起こっている粉塵への対処、ヘドロなどの匂いや暑さと戦いながらの作業となる(写真1)。また、災害発生から日数がたち、さまざまなものの腐敗が始まると、破傷風の心配がでてきた。さらに電気も通っていない被災した博物館施設での活動は、真っ暗な場所での作業となり、床にがれきが散乱しているような不安定な足元と天井からの落下物に注意しなければならない。そのため、マスクはもちろん、ヘルメットや長そで・長ズボンの作業服、分厚い作業手袋や安全靴、ヘッドライトなどを装備する必要がある。このような環境のなか、床面に散らばっているガラスの破片や津波が運んできたヘドロを取り除きながら、埋もれている文化財を探していく。装着しているゴーグルはすぐに汗で曇り、全身汗まみれとなりながらの作業は、体力を著しく消耗した。  一時保管の作業では、被災した博物館の担当者が立ち会える時間が限られたなかで、文化財を一気に保管場所へ移送することが求められた。というのも、被災地では文化財の救出活動の前に、生活全般の復旧・復興活動が求められるため、博物館担当者といえども、博物館のことだけに従事することは許されない状況だからである。可能な限りトラックの荷台に積載して移送するため、脆弱なものは別として、ある程度、強度のあるものは、美術梱包をする暇はなかった。したがって、荷台には強度の強いものを下に、軽いものを上に積み込んでいくこととした。  応急処置の作業は、救出、一時保管の作業と比べると、やや落ち着いた環境での作業となる。今回の震災で被災した民俗資料の汚損原因は、主に津波によって22写真1/救出活動の様子

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です